今の私と昔の私

黄殻爾 深圳職業技術学院

 それは今年の夏、私が日本にいた時の話である。ある日、学校のスケジュールが予定より早めに終わって、友達と3人で大阪の梅田のある電気ショップへ行って、買い物をした。帰る時はちょうどラッシュアワーなので、駅はとても混んでいて、チケットの自動販売機の前に人がたくさん並んでいた。「オイ、何だよ、速く」って誰かが文句を言っているのを聞いていたら、自動販売機の前に、おじいさんが立っているのが私の目に入った。そのおじいさんは手が不自由なので、チケットを買うのが難しそうだった。でも、おじいさんの後ろで待っていた男の人はイライラして、理解してあげなかったばかりか、悪口まで言ってしまった。そして、他の列に行ってしまった。そのおじいさんは申し訳なさそうな顔で、その人に「ごめんなさい」って何度も謝っていた。

私はそれを見て、思わずそのおじいさんの後ろに並び始めた。その時、私は急に自分が大好きな『バラのない花屋』というドラマのあるシーンを思い出した。それもちょうどラッシュアワーの駅で、お父さんと娘さんがチケットを買っているというシーンである。お父さんが娘さんをあるチケットを買っているおばあさんの後ろに連れて行って、そのおばあさんに「大丈夫ですよ」って言って、そのまま待っていた。娘さんが「父ちゃん、どうして混んだ時は、お年寄りの後ろに並ぶの」って聞くと、お父さんは「誰かに急がされたら、かわいそうでしょう?」って簡単な理由を娘さんに説明した。それ以来、娘さんは混んでいる時に、お年寄りがいるなら、絶対にその老人の後ろに並んで待つようになった。このシーンも、そのお父さんが話した事も、私の心に深く刻み込まれていた。その時、「私は確かに変わったんだ」って気づいた。10分ぐらい過ぎて、そのおじいさんがやっとチケットを買うと、満足したみたいに、私に「ありがとうね」って笑顔で言ってくれた。その時の私はなんとも幸せな感じが全身に流れていた。

私は日本語専門の学生なので、毎日日本語の授業を受ける。毎日使っているスキンケア用品も化粧品も日本製である。私は日本の文化やエンターテイメントが大好きなので、よく日本の番組やドラマを見ている。気がついたら、私の身の回りには、日本の物が満ちている。それを通じて「いくら近くても、人間の習慣や言動などはやはり国によって違う」と知っていた。私の習慣や言動などもそのおかげで、変わっていた。それに気づいた時自分でもビックリした。

以前の私は気が短く、けっしていい性格であるとは言えなかった。中学校の時に、私はいつも些細なことが原因で、当時の担任の先生とケンカしてしまった。そんな私だったから、行動が遅いおじいさんの後ろに並んで10分ぐらい待っていたなんて、友達をビックリさせたが、自分でも不思議だなあと思っている。でも、それが確実に今の私である。その時の私は、知らないうちに、新しい私に出会ったようである。

日本のドラマが好きになってから、私の日常行為や言動などは、だんだん少しずつ変わっている。あまり大きな変化じゃないけれど、人はそう簡単には180度変えられないから、悪いところは少しずつ変えられれば、いいと思っている。

中国には「自分のためだけに図る人には、天地の罰が当たる」ということわざがある。人間は自分勝手だとよく分かっているけれど、社会にとって、人間はたった一人でも重要なことである。もしみんなが誰でも、自分の事しか考えないで、他人のことに完全に無関心するならば、この社会はどうなるでしょうか。

日本へ研修に行ったことがある私は、日本人がとても親切だと思っている。知らない人に、道を聞かれたなら、行き先が同じ道じゃなくても、絶対にその相手が行きたい場所に連れて行く。それに比べたら、中国人のほうが冷たいなあと思っている。

その一方で、私は「情けは人のためならず」という言葉が大好きだ。私たちは他人のことをもっと理解すべきだと思う。人生にはものごとが順調に進まないことがあるものだ。人は誰でも困難にぶつかる時がある。自分で解決できる問題もあれば、そうでないものもあるはずだ。そんな時は、誰でも他人が手伝ってくれることを期待していると思う。互いに思いやり助け合うことも、交流の一つの姿であろう。

ずっと昔から、日中両国は一衣帯水の国であると言われている。両国ともアジア的、さらに世界的に重要な国である。両国の言葉や習慣も互いに深く影響しあっている。日中両国は近いからこそ、より交流がし易く、相手のいいところを見つけて、そして自分の悪いところが直せる。このようにすれば、中日関係だけでなく、みんなはもっといい方向に自分を変えることができて、幸せになれるかもしれないと私は思う。

選評コメント

研修に行った日本で体験した小さな親切を通じて、自分が変わっていった様子が、しっかりした文章で描かれている。「情けは人のためならず。互いに思いやり助け合うことも、交流のひとつの姿」という筆者の主張は、多くの人の共感を呼ぶだろう。

創作におけるインスピレーション

今回、入賞した作文の創作アイディアについて、一言申し上げます。

コンクールへの出場を決めたものの、テーマについて当初は、まったくアイディアが浮かばなくて、途方にくれていました。そこで何度も車先生のオフィスへ相談に行きました。すると「黄さんは日本のドラマが大好きでしょう。多くのドラマを見たから、きっと黄さんの生活習慣や行為に影響を与えたはずでしょう」と先生がおっしゃったので、私は俄かに悟って、留学中に日本で実際に遭遇した小さな出来事を思い出しました。

それは、ちょうど『バラのない花屋』というドラマの状況に似ていました。困っている老人に親切に接した登場人物のように、その時の私も振舞うことができました。

この時の経験と日頃の日本への感想をもとにして、書き進めることにしました。二日間、徹夜で努力して、ついに作文を完成させました。しかし、この初稿は支離滅裂で、分かりにくいものでした。車先生はその作文が分かりやすくなるように、言語上の修正をしてくださいました。何回も書き直したら、作文はようやく筋が通るようになりました。そして、日本人の西田先生にも目を通していただき、より日本人が書いた作文らしくなりました。本当に両先生に深く感謝いたします。

日本のドラマを見るまでもなく、私は常々日本人はとても親切だと思っていました。たとえば、知らない人にでも尋ねられたら道を教え、時には連れて行ってさえあげるといった親切はまさに現代の中国人に欠けているものでしょう。私はみんなも他人への思いやりの心を持つべきだ、そうしたら、もっと幸福になれるはずだと思っています。

受賞の感想

この度は、3等賞という素晴らしい賞を受け取ることができ、光栄の極まりで胸がいっぱいです。このコンクールを主催してくださった方々に、また参加するチャンスを与えてくださった私の学校に、そして協力してくださったすべての方々に、この場を借りて、心から感謝の言葉を贈らせていただきます。本当にありがとうございました。

正直、最初はこの作文コンクールに参加したかったわけではなく、担任の車先生に「作文コンクールに参加して」と言われて参加するように促がされて、そのままコンクールに出場を決めたのでした。戸惑いながらも書き始めて、途中何度も車先生に相談にのっていただきながら、何とか無事に、締め切りまでに、作文を出すことができました。

ですから入賞できるなんて、全然考えたことがなかったです。それが突然、3等賞を取ったことを知らされて、ビックリして、またとても嬉しかったです。

もともと日本のことが大好きで、日本語学科を選びました。入賞したことはもっと私に自信を与えてくれて、今はつくづく、このコンクールに参加してよかったなあと思っています。これからも胸を張って、頑張ります。

最後に改めて、皆様に心から感謝の言葉を述べさせていただきます。ありがとうございました。

 

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