文化産業の発展を十一番目の産業に

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。
いま中国では、文化産業の育成・発展に注目が集まっています。文化産業とはコンテンツ・クリエーティブ、映画・TV番組制作、出版発行、印刷・コピー、広告、演芸娯楽、文化会議・展示会、デジタルコンテンツ、アニメ等関連産業を指しますが、最近、『文化産業振興規画』が発表されました。中国政府はこれまで、装備製造業、自動車、鉄鋼、船舶、IT産業など十大産業の振興計画を発表していますが、文化産業はこれに続く十一番目の産業として振興していく方針のようです。

文化産業は、自動車やIT産業などの基幹産業と異なり、中国に高成長をもたらした「改革・開放」政策の中では、あまり目立っていなかったと言えます。それが、2008年の北京五輪の開催、今年の新中国成立60周年、そして、来年五月からの上海万博の開催という中国の節目の時期に、文化産業の振興が力説される意義は大きいものがあります。

鉄鋼からアニメへ

『文化産業振興規画』では、今後、文化産業は公有制を主体としつつ、中核企業を育成し、文化消費を増加させ、かつ、外資導入の積極化や外資の文化産業における株式化などを奨励するなどして発展させていくとしています。財政や金融面での優遇措置、人材育成、法制面での見直しなどにも言及されています。

今年十月、中国を代表する製鉄会社である首鋼集団の北京の工場跡地に「中国アニメ・漫画・ゲーム城」の建設が始まったと報じられました。ここはアニメの創作、生産、取引が一体化した産業パークと位置付けられ、重点アニメ企業が入居する予定になっています。北京市が特別資金を拠出して支援するほか、文化部(省)は国家クラスの産業パークとし、優遇措置を講じる予定にあるとされています。まさに「鉄鋼からアニメ産業へ」です。

さらに、中国のテレビ産業が歩んだ道に喩えてみると、まず「改革・開放」の初期にブラウン管テレビが海外から輸入され、やがて国内生産されるようになりました。いまや液晶テレビ、壁掛けテレビなど、技術水準の高い「メイド・イン・チャイナ」が生産され、国内外で販売されるようになっています。技術水準の高いテレビの生産が可能になったので、「次は視聴率の稼げる番組(文化産業)」を制作し、国内外に発信する時を迎えたといえます。

「改革・開放」の三十年の軌跡が今後の文化産業の振興に重なり、「改革・開放」の新次元の到来を思わせます。

本格化する対外発信

『文化産業振興規画』では、文化製品・サービス輸出を一層拡大し、外資導入にもこれまで以上に参入への道を拓くとしています。すでに文化産業関連の博覧会やイベントが目白押しで、中国側の大幅赤字となっている文化貿易の是正、中国の文化資源の対外展開が進んでいます。

例えば、中国(深圳)国際文化産業博覧会、中国国際放送・映画テレビ博覧会、北京国際図書博覧会、最近では、遼寧省瀋陽で東北アジアアニメ・漫画・ゲームフェスティバル(八月)、杭州コンテンツ・クリエーティブ産業博覧会(十月)、世界中国語新聞業協会第42回年次総会(重慶)などが開催されました。

中国の光線影業公司が5億元を投資し、意馬公司(香港)と合作し、日本の著作権を買い、米国のアイディアを使ったアニメ映画『阿童木』が製作され、10月下旬、上海国際映画祭でそのプレミアムショーが行われた。アトムのキャラクターを囲んで、登場人物の声で出演した人気男性ユニットの「羽・泉」が会場を盛り上げた(新華社)

さらに、今年十月、中国国営新華社通信が世界の大手メディアのトップを集め、人民大会堂で、「世界メディア・サミット」が開催され、ドイツで開催された世界最大のブック・フェア「フランクフルト・ブックメッセ」では、「中国ブーム」が巻き起こり、中国出版業界の対外発信に大きな成果があったと報じられています。

また、日本のある企業は北京で、中国企業と提携して児童向け絵本の制作に携わっているなど、文化産業分野への外資の参入も今後本格化する状況にあります。

その一方で、文化貿易の拡大や外資導入にあたっては、著作権問題などで中国に積極的な対応が求められていることも事実です。

経済国際化のバロメーター

文化製品は工業製品のように、市場を開拓すれば継続的に「売れる」というものではないでしょう。文化産業の発展、文化貿易の拡大には、何より対中理解が求められるとする中国の識者は少なくありません。

中国に限った事ではありませんが、国家間での相互理解はそう簡単ではありません。中国は、海外に「孔子学院」(注1)を設置し、中国語の普及や中国文化の対外発信をはかるなど対中理解の増進に努めています。

さて、来年開催される上海万博は、中国文化の紹介、対中理解の促進にとって大きな機会となるはずです。中国文化を紹介し文化産業の発展に大いに関係する「番組」づくりの舞台でもあると思います。その制作現場には、「番組」に出演する人ばかりでなく、それを見に国内外の多くの人がやって来るでしょう。

「改革・開放」政策で、中国経済は飛躍的発展を遂げました。次は、世界が諸手を挙げて歓迎する中国経済の国際化ではないでしょうか。文化産業の発展、文化貿易の拡大の行方、さらに、上海万博の成果は、中国経済の国際化を知るバロメーターといえるでしょう。

中国経済における文化産業

○文化産業関連従業員数 1132万人  全産業従業員数の1.5%  都市従業員の4%

○GDP全体に占める比率 2.45%

注1 孔子学院は、今年9月時点で世界140余カ所に設置されている。また、中国は中国文化センターを世界7カ所に設置し、145カ国と政府間文化協力協定を締結している。

 

人民中国インターネット版

 

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