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何流=文

明確な組織構成と職責権限により、歴史上最大規模のボランティアチームを組織・管理された上海万博。

ボランティア活動の限界

二〇〇九年十月十三日、上海師範大学三年生の蔡鳳婷さん(二十一歳)は万博局発行の第一期ボランティアの採用通知書を受け取った。華東師範大学では、二十四歳の兪虹さんが同じ朗報を耳にした。採用に際して、彼女たちは学院側の推薦、学校の初選考を経て、上海万博局の浦東にあるビルに向かった。二人の前には空白の紙が一枚置かれた。ここで出されたのは第二次試験の第一問、「一本の木を描いてください」というものだった。

兪さんは実ったリンゴの木を描いた。後でわかったのは、これはその人の性格を分析するための心理テストだったということだ。彼女の場合、目標のある人だという結論だった。さらに一回の面接を経て、兪さんと蔡さんは晴れて第一期上海万博ボランティアとなった。

上海青年管理幹部学院で行われた万博ボランティア修業式。終了証を授与されたボランティアたち

上海師範大学共青団委員会の書記戴氷さんは「第一期ボランティアだけではなく、万博会場の管理職は三回から五回の選抜試験を経て選ばれます」と話す。一万五千を超える応募学生の中から、最終的に八千一人が選ばれたという。四月八日の夜、上海師範大学に在籍する六百五十二名の万博会場内管理職ボランティアは、東側のホールで始業集会を開催。実際に万博会場に入り、内覧会をすることとなった。この集会までの間、上海師範大学ボランティアステーションの責任者である戴さんは、既に三十六時間も不眠不休で活動していた。

上海万博ボランティア部弁公室主管者の王吉さんはこう語る。「今回は万博の歴史上もっとも大規模にボランティアを採用しました。そのうち七万七千名が万博会場内、十三万名が市内にあるサービスステーションで、そして百五十万名余りが都市文明ボランティアとして市内各所で活躍することになります。ボランティアは万博観光客を除き、もっとも人数の多い団体になるでしょう」

「ボランティアの仕事はサービスのサポートだけではありません。もっとも重要なのは、上海や中国全体のメンタリティーを知ってもらうことなのです」。王さんの話によれば、万博は世界が中国を見る重要な窓口であり、観光客がパビリオン、都市建設などの施設を見るほかに、もっとも接触を持つ人たちがボランティアということだ。大学生は資質が高く、英語のレベルが高く、さらに活気があるため、最も適切なボランティアであるといえる。大学生の人数は万博ボランティアのうち、実に九〇%以上になるという。

しかし、この大規模なボランティアチームをどのように組織し管理するかは、主催者にとって難問の一つとなった。王さんの話によれば、上海万博ボランティア部は市党委員会宣伝部、市文明弁公室、共青団上海市委員会、万博局、市教育科学・文化・衛生委員会共産党委員会を主として構成され、五十四カ所の大学と十八カ所の区県で七十二カ所のボランティアステーションを設立した。さらに各区県、大学はステーションを町、企業・事業体と学院や学部などにまで広げ、多重的な組織及び職位ランクシステムとなった。

第一期ボランティア二百七十七名は、教育訓練を受けてから各ステーションに分散。それぞれでボランティア募集や選抜、教育訓練、管理などの活動をスタートした。蔡さんは「上海師範大学のボランティアステーションで働く女の子九人は、今年に入ってから二十四時間交代制になりました。申し込んだ一万5千人余りのデータを処理するだけでも膨大な作業量ですね」と語る。

そのほか、各ボランティアには明確な職責の担当があるという。例えば万博会場内のボランティアにはインフォメーションサービス、来場者が秩序を保つためのガイド、言語通訳、メディアサービス、ボランティア管理など、主に十種類、二十四のサブ種類に分類されている。明確な組織構成と職責権限があるため、上海万博では歴史上最大規模のボランティアチームが組織され、管理システムもまた整然と秩序立っている。

「それだけではなく、ボランティア活動の『限界』についても重視しています。ボランティアはあくまでもボランティアであり、サポート活動を行うことこそ使命なのです」と語る王さん。ボランティアは突発的な事故や悪意ある事件に遭遇したと報告された際、決められたルールや指定範囲の中で仕事をしなければならない。「情熱的であれば良いというものではありません」と、兪さんも自身の体験をもとに、ほかのボランティアに忠告した。「ボランティア活動を美化し過ぎてはいけない。実はそんなに重要ではないということも頭に入れておかないと」。

上海交通大学の閔行キャンパスに集まった大学生ボランティアたち

二〇〇八年、兪さんは中国がスペインのサラゴサ万博に派遣された七十名のボランティアの一人として、二週間の万博ボランティア活動を体験した。「主な仕事はPR資料の配布、秩序の維持、身体障害者へのサポートなどでした。技術的な部分は思っていたより高くなかったんですが、その量が想像以上に多かったですね。毎日仕事から帰ったら、食事をする気力もなく、ただベッドにもぐり込みたいだけでした。気遣ったのは身体障害者に協力するときで、相手が要求しない限り、自らいってはいけないということも学びました」。

二週間の活動を通じ、兪さんは「ボランティア」の仕事を見直した。「欧米の人たちは万博ボランティアをそんなに華やかなものだとは思っていないようです。かつて万博のボランティアをしていたという、七十歳ぐらいのスペイン人のお年寄りの女性に話を聞いたのですが、万博ボランティアは彼女のボランティア活動の一つであるにすぎず、特別視はしていませんでした」

「自分の位置づけをきちんとしなければならないですね」と戴さんは語る。万博会場内のボランティアであっても、自分の職場以外のところでかってに行動してはいけないので、ボランティアなら無料で万博が見学できるという考えは大間違いだという。

ボランティアのモチベーション向上

オリンピックと違い、万博の開催期間は長い。観光客の人数と行方がコントロールできないため、ボランティア活動にとっても大きな試練となる。そのため、上海万博では特に一〇%の「ボランティア予備軍」を設け、大型活動やピーク時の混雑状況や、突発事故に対応のするための準備を整えている。これも上海が二〇〇七年にスペシャルオリンピックスを開催した際、積み上げた実地の経験である。

王さんはこう語る。「百八十四日に渡る開催期間中、もう一つ問題となるのが天候です。五月は梅雨の季節で、六、七月は高温、八月には台風が来る恐れがあります。ボランティア自身に対する配慮も細かく考えなければならないでしょう」。上海師範大学で、戴さんたちはすでに夏バテ防止用の緑豆スープの仕出しなどを考えているという。

 上海の南京路世紀記念広場で行われた大型公益イベント「我們在你身辺」(ずっとそばにいる)に参加する子どもたち

後方支援以外に、ボランティアに対する「インセンティブ」もまた、今回のボランティア活動を成功させるための一つの鍵となる。どうすればボランティアが仕事に対する情熱を維持し、成果をあげるかは、ボランティア部がよく考えている問題だ。「私たちは全過程において、全方位に向けモチベーションアップをはかる予定です。例えばノベルティーを一日一つ配布し、七日間でワンセットが集まるようにしたりして、週単位や月単位で優秀者を選出し星をつけ、等級によって服装を変えるといった案があります」

ボランティア団体には独自のロゴマークや、テーマソング、刊行物があり、これによりモチベーションも強化できる。加えて、ある有名企業がボランティアのインセンティブの強化案を作成している最中だという。彼らはすでにボランティアのために、毎日内容の違うモチベーションのメッセージを用意していると、戴さんは語る。

ボランティアに採用された人は勤務開始前に一般教育訓練、専門教育訓練、職場教育訓練など、十四科目の教育訓練を受けなければならない。まず専門家指導チームによって育成訓練師が教育され、そしてインストラクターによって他のボランティアが教育される。このような階級式管理モデルは、ボランティア活動の各方面に徹底されている。教育内容は新東方、市赤十字会等十五社の専門教育機構の協力により開発・完成されたという。自分は既に応急処置、ボランティア役割体験、異文化交流などの項目の教育を受けたと、兪さんは語った。

「教育訓練はずっと続けて行くので、仕事の中でも問題点が見つかります」と王さんは話す。教育訓練の後に、ボランティアはさらに面接、オンラインテスト、実務テストという三種類の方式で評価されて、はじめて自動候補者システムに入る。あるボランティアステーションでは「七色体験キャンプ」を開き、来場者の病気やクレームなどの状況をシミュレーションし、ボランティアに実地模擬訓練をさせるという。

 

人民中国インターネット版 2010年5月7日

 

 
 
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