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日本観察記(17) ルールを守らない大陸民族

文=薩蘇

前々回、海洋民族と大陸民族の違いについて書いた原稿が、北京大学から日本へ、訪問学者として訪れたある賢兄にとって面白く思えたようで、筆者のところに、わざわざ、この問題について討論するためにやってきた。

この賢兄は、各国文化についての専門の研究者で、専門的な角度から批評を受けるものと思っていたが、彼は私が素人だと責めることはなく、ただ、偏りがある、といっただけだった。

例えば、日本の電化製品と米国のそれを比較して、どういう特色があるかね?と彼は聞く。

細かな工夫、と私は答える。米国の家電は、買うとすればセットになり、それを組み合わせて置けば、壁の一面を占める。けれど、日本の家電は、その精緻なこと時計のようである。

それは、日本人が海洋民族であることに関係する。と彼はいう。

ん?私は日本の土地が狭いことと関係するのかと思っていました、と私。

それも関係あるが、と賢兄はいい、続けて、けれど、君、考えてごらん、海洋民族である日本人は、多くを船上で過ごすので、設計においては精緻で小さなものに仕上げるのだよ。船上は狭いので、そのようにすれば、貴重な空間をムダにせずにすむから、という。

なるほど、そのとおり、と私は頷いて同意する。

実のところ海洋民族と大陸民族の特徴は、中日交流において特に際立つ。彼は例を挙げ、中国人は道路を渡るときも、よく横断歩道以外のところをいく。対して日本人にはそういう問題は非常に少ない。どうかね、君、これは中国人の素養がない、ということかね?

聞かれて私は舌がこわばってしまい、ええ、まあ、たぶん・・・・・などとつぶやくだけだった。

当然のことながら、素養のない中国人はいる。賢兄は私の困った様子をみてさらに追及はせず、自分で回答を述べ始めた。──けれど、多くの勝手に道を渡る中国人は、実際には、素質が低くなく、別の事にあたる際には、紳士淑女であり、ただルールを守るのが好きでないだけである。大陸民族としての中国人は、海洋民族の日本人に比べ、ルールを守るのは先天的に難しい。

それはどういうことか?この分析は中国人である私にとっても新鮮だった。

学者の賢兄は笑い、簡単なことだよ、という。考えてもごらん、船の上の20数人もの船員は、航海中はルールに従い、船長の命令に従わなければならない。もし、一人または複数の船員が命令を聞かなければ、船はまともに航海できなくなってしまう。ゆえに、ルールを無視することは、船の上では許容できない、そうだね?

そうですね、と私はいう。

これは海洋民族としての古代の日本人の生活だろう。時には船長の命令に誤りがあると船員が思ったとしても、それを守らなければ船そのものが正常に動かなくなってしまう。それは、船長の謝った命令より、さらに危険である。船長の命令に間違いがあったとしても、それはまだコントロールできるが、命令に従はなければ、そのために発生する問題は、どれほどの重さか、計り知れないほどである、と学者の賢兄はいう。ルールを守らないことは、すべての人に危害を及ぼす、ゆえに、海洋民族としては、ルールはそれに誤りがあっても自覚的に守らなければならないものである。

けれど、中国人は違う。大陸の民族は、例えば村の村長が自分の要求に従って耕作をするよう要求したとする。ルールにのっとれば、農民は村長のいうことをきかなければならないはずだが、一人、あるいは複数の農民が彼の要求に誤りがあるとして、従わなかったとする。するとどうなる?

その一人または複数の農民の耕地が影響を受けるでしょう、と私。

そのとおり、このような状況では、彼らがルールを守らなかったとしても、他人には影響せず、大陸の民族のルールへの尊重は、海洋民族ほどは強くない。

海洋と大陸、環境が違えば、ルールへの尊重の度合いも違う。おそらく私の印象をさらに強化するためだろう、賢兄は私にさらに聞いた。──例えば私が船上に暮らす古代の日本人だったとする。今日はみなの食糧がない。お前、みんなのために犠牲になれ、海に飛び込んでサメのエサになれ、と船長にいわれたら、飛び込むかね?

それは・・・・・想像もしがたい。

賢兄は、私は当然、ルールを守って飛び込むよ!という。

なぜですか?と私。

船上では、たとえ飛び込みたくなくても、多くの船員が船長の命令を守るため、私を放り出すだろう。逃げ場所はなく、あちこち走り回っても最後には、卑怯者として投げ出されるだけなら、毅然として事にあたったほうが、将来、英雄とみなされるだろう。

私は笑った。

もし、古代の中国人だったとして、村の人々について放牧にいき、村長が今日は食糧がない、お前、みなのために犠牲になり、ライオンのエサになれ、といわれたら、君はいくかね?

行きません。中国人として私は答えに自信があった。

当然だよ。賢兄は笑った。ここは大陸であり、船上ではない。二本の足があれば、逃げられるのだ。

 

薩蘇

2000年より日本を拠点とし、アメリカ企業の日本分社でITプログラミングプロジェクトのマネジャーを務める。妻は日本人。2005年、新浪にブログを開設、中国人、日本人、およびその間の見過ごされがちな差異、あるいは相似、歴史的な記憶などについて語る。書籍作品は、中国国内で高い人気を誇る。文学、歴史を愛するITプログラマーからベストセラー作家という転身ぶりが話題。

 

 

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