万博を契機に上海は東アジア経済の中心地に  
 

横井裕在上海日本国総領事館総領事に聞く

沈暁寧 金田直次郎=聞き手

横井 裕 (よこい・ゆたか)

1955年生まれ。79年外務省入省。北京大学、ハーバード大学に留学。在米国大使館参事官、在中国大使館参事官・政治部長の在外勤務を経て2000年アジア局中国課長、 02年経済協力局政策課長、03年在マレーシア大使館公使、06年在米国大使館公使。08年7月上海に赴任、第12代上海総領事に

2008年7月の赴任以来二年近く、多忙な公務のなかでも上海万博に出展する日本館、日本産業館、大阪館の成功に向けた取り組みでは日中両国の各方面、現地上海の各部門との折衝に精力的にあたってきた横井裕総領事。連日長い長い行列が続く日本館、日本産業館、大阪館の盛況に目を細める。6月12日の「日本館日」(ジャパンデー)から始まった「日本週」(ジャパンウィーク)も最高潮の6月16日、万博を迎えた上海市の現状と展望、上海と日本とのかかわりを中心に横井総領事に話をうかがった。

日本の経験を重視

――日本館、日本産業館、それにベストシティ・プラクティス区の大阪館の評判はたへんなもので、連日入館者の長い長い行列が続いていますが、万博開幕までにはずいぶんご苦労もあったのではありませんか。

端午節の三連休だったこの6月14、15日は連日50万人を超す来場者で万博会場は人、人、人の波であふれかえりましたが、ちょうどジャパンウィークとも重なり、日本関連のイベントが目白押しで、多くの来場者に日本をアピールすることができたと思います。

上海万博は会期中の総来場者数を7000万人と見込んでいますが、大方の予想では、そのうちの五パーセント、350万人は外国からの観光客あるいはビジネス関係者で占められ、その三分の一近くの百万人は日本から来るのでは、とのことなのですが、私もぜひそうあってほしいと、着任早々の2008年10月には、上海万博事務協調局に、レポートを提出して、日本からの来場者を少しでも積み増すためにはどうしたらよいかを申し述べました。要点は、観光ツアーだけでは百万人は難しい、参加型の催し物を企画し、万博の催事会場を日本人にも開放してほしいというものです。コーラス、踊り、さまざまな民俗芸能や学術的な会議、シンポジウムなどが万博会場で開かれるならば、参観だけでなく交流も深めることができます。地方公共団体や愛好者のグループもきっと上海万博に関心を示してくれるでしょう。上海万博のサブテーマである「理解、溝通(意思疎通)、歓聚(楽しく集う)、合作(協力・提携)」の理念にもかないます。幸い協調局の理解が得られ、会場内のアジア広場や産業館の特設ステージなどで阿波踊りをはじめ数々の民俗芸能が披露されました。夏休みになれば大学生間の交流も始まります。ジャパンデーに続いて「県デー」などの催しも企画されますので、一人でも多く日本から来ていただき、楽しく集い、意思を通わせ合い、協力・提携するなかで相互理解が進むよう、私も総領事館も引き続き力を尽くす所存です。

それと、万博開催にあたって中国は日本の経験を非常に重視していることをお話しておかなければなりません。アジアでは1970年の大阪万博、2005年の愛知万博と二回の「登録博」が開かれていますが、その両方が日本で開催されてきた。上海万博は中国が初めて開く万博ですから、当然その気負いと自信にはなみなみならぬものがあって、大阪万博が打ち立てた入場者総数6400万人という金字塔に替わる大きな成果を見越しています。日本からの意見や提案に極力応じようという姿勢は、日本の経験に照らして、さらに大きな成果をおさめるという大所高所からの判断に立っているのです。

経済的な重心として

――万博を迎え市内は「上海世博」(上海世界博覧会)一色に染まって、市民の表情もたいへん明るく、街は活気に満ちています。長く中国とかかわってこられた総領事は、上海のこの大きな変化を、どう見ていらっしゃいますか。

北京では研修も含め前後6年ちょっとの大使館勤めがありましたが、上海赴任は初めてでしたから、私自身、この一年11カ月間に限ってもその大きな変化を驚きの目で見つめてきました。

一言で申し上げると、上海は中国でも特異な地位を占めているということです。20世紀前半にはアジア最大級の経済都市に発展しましたが、いままた東アジアの中心的な都市として再度登場してきた、という印象です。「改革・開放」のあとの模索を経て、「浦東開発」という最初のハイライトを迎え、十数年間に大きな発展を遂げて、二つ目のハイライト「上海万博」を見事に成功に導こうとしています。この21世紀前半に、世界的な風格を持った大都市としての地位を確立するのではないか。東アジアだけでなく東南アジアも視野に入れた場合、この発展目覚しい地域の、上海はちょうど「へそ」にあたります。地政学的にも中心にあって、経済的な重心としての地位はますます高まるでしょう。日に日に変わる街の風貌もさることながら、中国最初のいわゆるシティボーイ、シティガールが浦東のオフィス街をさっそうと闊歩する光景が見られるように、上海はいま国際的な雰囲気をそなえた世界的な大都市に生まれ変わろうとしています。万博はそのためのジャンピングボードだと言ってもいいでしょう。「より良い都市、より良い生活」という上海万博のメインテーマは、都市的住民の風格をそなえはじめた上海市民には、わけても身近なものに感じられるはずです。国際的な都市型の住民が生まれてきているということが、中国のなかで上海のもっとも特異な点だということです。いっそう大きな発展が約束されていると言っても決して過言ではありません。いずれ世界の大企業はここ上海に本社を置くことになるのではないか、私はそう思います。万博を契機に上海は東アジア経済の中心地になることでしょう。

長期滞在者が五倍に

――それでは躍進目覚ましい上海と日本との今後の関係はどうあるべきか、また日本は上海そして中国とどうかかわっていったらよいのか、総領事のお考えをお聞かせいただけますか。

日本は、中国の上海を中心にした経済的な発展と緊密に連携をとり、ともに発展していかなければなりません。それも両国国民のコンセンサスの上に立ち東アジア共同体を視野におさめた形ですすめる。そのためには日中両国の国民的な相互理解が欠かせません。上海万博は、この意味でも時宜にかなっています。中国各地の各階各層の人々が連日つめかけ、日本館、日本産業館、大阪館を長時間行列してでも見たいと願ってくれています。展示やイベントを通して、ハード面だけでなく日本のソフトパワーへの関心も高まっていますので、日本に対する好ましいイメージが固まるのではないか。そうした中国の人々の期待に十分応えられるような日本でありたいとの思いを私は上海に在住する五万人近くの日本人長期滞在者と共有しています。

万博会場に繰り出した上海市民の笑顔

上海の日本人長期滞在者数は2001年には一万人ほどでした。それが十年足らずで五倍に増えています。5万人に近い48000人という長期滞在者数はロサンゼルスの4万1000人、ニューヨークの3万8000人を超えて世界一なのです。市内に二校ある日本人学校の小学部・中学部には合計2500人が在学しており、この数も世界一です。上海市の日系企業は7600社。この数も世界一です。総領事館では上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省の一市四省をカバーしていますが、昨年一年間にビザを27万3千件発給いたしました。これも世界一です。そのうち観光ビザは16万件近くで、これも世界一の数です。昨年から、中国大陸の中国人の海外旅行先のトップに日本が躍り出ましたが、上海からの日本への観光希望は特に多く、ビザの発給に総領事館はうれしい悲鳴をあげています。上海を中心にした華東地区と日本とのかかわりがいかに深いかがこうした数字からもうかがえます。上海を中心とする中国の経済的な発展は日本の各分野に大きな利益をもたらすという基本的な認識は多くの人が共有する点です。相互往来と相互協力を通じて相互理解をいっそう促し、「戦略的互恵関係」を確固たるものにしていかなければなりません。

ともに力を合わせて

――『週刊万博』はお読みになっていますか。ご感想、ご意見をお聞かせいただければ幸いです。

もちろん毎号読ませていただいています。外国語では英語版と日本語版だけとうかがって、中国政府の日本への配慮と外文出版発行事業局のご尽力に敬意を表します。毎週、オールカラーで62ページの内容を取材・編集するのはたいへんな作業だとお察ししますが、上海ではこの6月10日から13日までの四日間、「万博祝賀中日演劇名優公演」が行われ、上海万博を記念して、歌舞伎の坂東玉三郎さん、能の関根祥六さん、そして京劇の梅葆玖さんの初めての共演が実現しました。歌舞伎、能楽、京劇と昆曲というアジアの四大演劇の名舞台に観衆は息を呑み、拍手喝采が鳴り止みませんでした。残念なことに『週刊万博』の「公演&イベント」案内には取り上げられていません。万博会期中、上海では万博会場以外でもさまざまな記念公演や祝賀イベントが開催されます。ぜひそうした催事も取り上げていただきたい。総領事館には情報が集まってきますので、そのつど提供させていただきます。『週刊万博』をともに力を合わせてもり立ててまいりましょう。内容のいっそうの充実を期待します。

万博を契機に、日中間の報道やマスコミも含めた相互交流が格段に促進されるよう願ってやみません。

 

人民中国インターネット版 2010年7月6日

 

 

 
 
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