嘉興・南湖

中国共産党の成立を宣言した第一回全国代表大会は、極秘裏に行われた。

綱領と「当面の実際活動」を討議、陳独秀を書記に、陳独秀、張国燾、李達を中央局成員に任じることになったが、決議の段階になって、フランス租界の警察の手が伸び、危険が迫った。

このまま続行するのは危ない。

租界を離れ、どこか人目につかない所に移るしかない。

この時、李達夫人の王会悟が「妙案」を提起したのだった。王はその年の前年に李と結婚、夫と行動をともにして代表たちの宿舎や食事に至るまで、心をこめて世話していた。

「嘉興の南湖に船を浮かべて、その船の中で会議をもったらどうかしら」

嘉興は上海から最も近い浙江省の水郷で、南湖は杭州の西湖、紹興の東湖と並ぶ浙江3大名湖の一つとして知られていた。

この提案に一同が同意。

二人の外国人（コミンテルン代表のマーリンとニコルスキー）は上海を一歩外に出ると目立つため、租界内に留まることに。警察の目をくらますため、2組に分かれて汽車に乗り、嘉興へ。

王は嘉興師範学校で学んだ時期があり、水郷の街を熟知していた。南湖の遊覧船をチャーターし、酒席を用意、加えてマージャン卓までしつらえて、自分はガイドの娘役を買って出た。船尾に立って、異常があれば、すぐに知らせる。会議のテーブルはたちまち、マージャン卓に早変わりした。

こうして、船中で綱領が採択され、最初の中央局リーダーが確定したのだった。

王会悟は1898年、現在の嘉興市桐郷烏鎮に生まれた。中国最初の革命的女性団体である「上海中華女界聯合会」の創設に尽力し、機関誌『婦女声』の編集も手がけた。彼女を主人公にした物語は南湖での活躍を中心にテレビドラマ『水郷の娘』（原題は『水的女児』）として2001年に嘉興テレビで放映され、王会悟の名は地元ではよく知られている。

中国共産党成立90周年を記念して制作・公開される映画『建党偉業』では、女優の周迅が王会悟に扮することが決まった。周迅は映画『ふたりの人魚』（原題『蘇州河』）や嘉興・海寧出身の武侠小説作家、金庸の原作をテレビドラマ化した『射雕英雄伝』などでヒロインを演じた実力派だ。

1991年6月に嘉興市民の寄付を元に完成した南湖革命記念館	煙雨楼。楼上からは南湖の風光が眼下に開ける

7月に記念館新館がオープン

南湖のほとりに建つ南湖革命記念館は1991年に嘉興市民の寄付を元に建設された。300万人の市民が協力。党創設にかかわる多くの資料が陳列されている。

私たちは嘉興駅から輪タクで南湖に向かった。運転手の周さんは63歳。「嘉興はいいところで、古来、風光だけでなく風水にも恵まれている。南湖の遊覧船で党が誕生したことで、今じゃ嘉興を知らない中国人はいないほどだ。革命記念館を建てる時には、私のような普通の労働者も喜んで寄付したものさ。え？いくら寄付したかって。私は10元だったが、多いか少ないかじゃない。みんながこの街に誇りを持っているということだよ」

60歳で工場を定年退職し、以来、輪タクの運転手をしながら、観光客に嘉興の風光と風水の素晴らしさを説いている、と胸を張る。

「市庁舎の隣に新しい記念館が建った。来年（2011年）の7月1日までには陳列も整い、公開される。その時もう一度、嘉興に来ることだね」

南湖遊覧区

南湖の一帯は古来、江南の代表的な水郷として知られ、多くの文人墨客が訪れている。清の乾隆帝はその生涯に6回、江南を訪れたが、そのつど南湖を遊覧し、前後あわせて15首の詩を書き残した。

南湖の遊覧には船が欠かせない。

南門から入り、「会景園」内をめぐった後、「南湖渡口」から遊覧船に乗って湖心島へ。

湖心島は明の嘉靖27年（1548年）に、時の嘉興知府（府知事）が堀の泥をさらわせ、南湖の「湖心」に盛り土して造った人工島。島の最高所には杜牧の有名な詩『江南の春』の結句「多少の楼台　煙雨の中」からその名を取った「煙雨楼」が建つ。扁額の「煙雨楼」の3字は董必武の揮毫。島の東南岸に「秘密会議」が開かれた遊覧船が係留されている。

島内には嘉靖27年に植えられた2本のイチョウの木をはじめ多くの古樹が残されており、樹間をめぐるようにして回廊や亭がしつらえられ、島全体が江南の庭園の風情に満ちている。

船で対岸の南湖革命記念館へ。さらに攬秀園や壕股塔などのスポットをめぐって、船は「南湖渡口」にもどる。