建築家 堤由匡

 

中国人建築家王樹氏の初受賞

2012年2月末、1つのニュースが世界の建築界を駆け巡った。ハイアット財団が運営し、建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞を中国人として初めて王樹氏が受賞したのである。

世界の中国建築に対する思いは愛憎半ばしている。欧米や日本をはじめ長引く不況に苦しむかつての建築大国は、その自尊心から未熟な技術や体制を下に見る一方で、母国では実現できない挑戦的な建築が実現されている状況を羨望したりもする。建築は元来、政治のプロパガンダに利用されていた物だから、今回の王樹氏のプリツカー賞受賞も政治的な力によるものだと当初は専ら言われていたし、私もそうだろうと思った。

しかし、彼の作品を詳しく調べ、設計手法を聞き、実際その建築を訪れた人の感想を聞いて行くうちに考えを改めることになる。大規模な不動産開発とは距離を置き、ローカルな材料で、安く、しかし静謐で現代的な空間を作り出す彼は、間違いなく本物の建築家だ。そこに中国バブルのおかげなどといういわれの無い嫉妬が入り込む余地はない。

建築を通して社会を変革する

建築家は、社会の状況をよく観察し、それに適応する建築をつくり、また建築をつくることで社会を変革しなければならないと考えている。開発の波に飲み込まれて、何かやった気になっていても、実際それが社会に与える影響は皆無であったりする 。私には建築を通して社会を変革するという「目的」があり、その「手段」として中国にいるのであり、決して資本主義の歯車としてビジネスをしに来たのではない。重要なのは目的と手段を明確にしておくことだ。資本主義はそれを容易に履き違えさせる。

大学を卒業したばかりの私は、閉塞する日本を飛び出し、大規模な建築や都市設計に憧れて2004年に中国にやってきた。設計事務所勤務ののちに2009年に独立してからも、友人たちに助けられながら大小さまざまなチャンスをもらってきた。上手く成果が出たのもあるが、そうでないもののほうが大半である。夢のような話が来る事もあるが、そう簡単に話が進むものではない。バブルの泡沫に隠れて、その奥は霞みがちだ 。だからこそ我々建築家は慎重にその根をたどらねばならない。

この文章の最後はある建築家の言葉で結ばれるべきだと思う。彼は、特にアジア諸国の強烈な資本主義をバックに生み出される巨大建築について、否定も肯定もせずに只こう言っている。Architecture is a hazardous mixture of omnipotence and impotence. 建築は全能と無能の危険な混合物である、と。

 

 

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