歴史という大河の一滴として

蘆璐璐(嘉興学院)

 

現在の中日関係は、1972年の中日国交正常化以来最悪の状態であると言われている。中日関係はこれからどうなるのか。このことは両国の政府関係者だけに任せておけばいいという問題ではない。両国の国民自らが考えなければならない問題であると私は考えている。

私は一人の中国人として、今後の中日関係がよりよくなることを心から強く願っている。しかしそれはかつての中日間の不幸な歴史を忘れてもいいということではない。そうかと言って、現在においても多くの中国人が過去の歴史にこだわり、日本や日本人を嫌っているという事実があるが、それは余りにも心が狭いと言わざるを得ないのではないだろうか。私も一人の中国人として、かつて日本が中国を侵略した歴史というものを決して忘れることはない。しかしそれは日本との関係を悪化させようとか、日本との問題を戦争で解決しようとかいうことにつながるものではない。いや、反対に、そのような不幸な歴史を再び繰り返さないためにこそ、過去の歴史を忘れてはならないと考えているのだ

では、一人の中国人として、一人の大学生として、私に何ができるだろうか。

私は、今、日本語専攻の学生として大学で日本語を学んでいる。一つの言語を学ぶということは、ただ単にコミュニケーションの道具として言葉を覚えればいいということではない。それはその言語の背景にあってその言語を生み育ててきた社会や政治、経済、生活習慣や思考様式、歴史といった、すなわちその言語に特有の文化そのものを学ぶということである。私自身、日本語を学び始めるまでは、特に日本に関心をもっていたというわけではなかった。しかし、日本語を勉強するにつれ、そして日本から来た日本人の先生たちとのふれあいが増すにつれ、私はどんどん日本や日本人が好きになっていった。そういった私の体験から言うと、現在の日本や日本人を知らずに、あるいは一部の日本の政治家や国民の言動だけを見て、一方的に非難するというのは偏狭に過ぎるのではないだろうか。私は、今の困難な中日関係の中においても、かつての侵略の歴史を心から反省し、両国の平和的な関係と両国民の友好関係が発展することを願っている多くの日本人がいることを学んだし、私の身近にもそのような日本人がいることを知っている。ただ残念なことは、そのような平和と友好を願う人々の思いが言語という壁のためにうまく結びついていないということである。しかしまさにそこにこそ、私たち日本語を勉強している学生の活躍の場が用意されていると私は考えている。

現在のような状況においてさえ、中国には多くの日本企業が工場や事業所を展開しているし、観光で中国を訪れる日本人もたくさんいる。また日本人の先生から聞いた話では、「三国志」や「漢詩」など中国の歴史と文化を好む日本人は少なくないという。このような仕事や旅行で中国を訪れた日本人に、日本のテレビや新聞などがあまり紹介しない本当の中国と中国人の姿を紹介し、中国の魅力を知ってもらうこと。そのような民間における交流をどんどん進めていくこと。それが私たちにできる、また私たちにしかできない仕事ではないだろうか。

そう考えると、今すぐにはできないかもしれないが、わたしたちの未来はいろいろな可能性に溢れている。たとえば、観光ガイドとして日本人観光客に国内を案内して、中国の歴史や魅力を紹介することもできる。わたしは、中国の美しさを日本人観光客に伝えたいし、たくさんの人に我が国のことを知ってもらいたいと思っている。あるいは、日本企業で働く通訳として現在の日本社会をより深く理解しながら、日本人と中国人の間のコミュニケーションがうまく進むように努力することも大切な仕事だ。あるいはまた、中国人に日本語を教える日本語教師として、日本語はもちろん、学生たちが日本のことをよく理解し中日の友好を深めようという気持ちになるように教えることも魅力的な仕事だ。また、これは仕事ということではないが、多くの日本人とメールを交換し、互いの情報を伝え合うことで相互理解を深めることもできる。

このような活動は、日本語を専攻したわたしたちにしかできない、またわたしたちがぜひともしなければならない、言わばわたしたちに課せたれた使命とでも言うことができるだろう。そして、それぞれの交流のあり方がもとになり両国国民の相互理解がより深まることだろう。そうすることで、両国の未来に一筋の光が、今の暗闇を溶かすような春の光が、降り注いで来るのではないだろうか。わたしもそのような責任ある立場の一人として、もし機会があったらぜひとも日本へ行き、日本で見聞したことを今度は中国の人々に伝えたいと思っている。

最後に、中日両国は先ごろの数十年間を除いては、二千年以上にわたって友好的な関係を保ってきた。そして中国の進んだ文化を採り入れることで日本は文化を発展させてきたし、文化的な共通点も多い。大きな歴史の流れから見ると、現在の困難も永遠に続く解決不可能なものではないと確信をもって断言することができるだろう。それだからこそ、私たちに、私にできることはほんの少しの小さなことに過ぎないかもしれないが、歴史という大きい流れの中の一滴として、そしてその一滴一滴が集まり重なって大きな流れ、大河の流れになるように、わたしもまた歴史の示す方向に向かって小さな一歩を進めていきたいと願っている。

 

 

 
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