心にしみるアカシアの香り 白い花へ中日それぞれの思い

 

大連の街を代表するアカシアの花(東方IC) 
 「五月の半ばを過ぎた頃、南山麓の歩道のあちこちに沢山植えられている並木のアカシヤは、一斉に花を開いた。すると、町全体に、あの悩ましく甘美な匂い、あの、純潔のうちに疼く欲望のような、あるいは、逸楽のうちに回想される清らかな夢のような、どこかしら寂しげな匂いが、いっぱいに溢れたのであった。」

これは日本の詩人で小説家の清岡卓行(1922~2006年)の小説『アカシヤの大連』の中の大連のアカシアについての描写だ。清岡は大連に生まれ、少年期、青年期を大連で過ごした。アカシアの花は彼の脳裏に深く刻み込まれたのだ。

大連は温暖で湿潤な気候で、アカシアの生育に適している。アカシアは市内の至る所に植えられており、その数は5万本以上とされ、アカシアが街路樹として植えられている通りは300余りある。一般に「アカシア」と語られるが、実は品種は主にハリエンジュ(ニセアカシア)とエンジュで、ハリエンジュの植樹面積は47平方キロに及ぶ。毎年5月下旬、ひと房ごとの白い花が枝いっぱいに咲き、淡く上品な香りが漂って人々の心にしみる。大連っ子ならきっと、学校帰りに花を摘み花蕊の甘い蜜をなめてみた思い出を持っているはずだ。

実はアカシアはとりたてて貴重な植物というわけではなく、花も目を奪われるほど美しくはない。しかし、アカシアは大連の人々の心の中でとても高い位置にある。過去の食糧不足の時期、山や野に咲き乱れるアカシアの花は人々の飢えを救う命綱の存在となったこともある。新鮮なアカシアの花を摘み、タケのすだれの上に敷いてトウモロコシの粉をまぶして大鍋で蒸すと、間もなく濃厚な香りが部屋いっぱいに広がり、その時代にアカシアの花を味わった人たちは特に満足したものだ。

今でも大連の人たちは前の世代の人々が残した伝統を受け継いでいる。アカシアの花の季節になると、一般家庭の食卓にアカシアの花を食材にした美食が並ぶのだ。アカシアの花をあんにした蒸しまんやギョーザ、アカシアの花のパンケーキ、アカシアの花のご飯など、さまざまなものが作られる。アカシアのパンケーキの作り方は簡単だ。洗ったアカシアの花に小麦粉と水を加え、混ぜてのり状にし、さらにタマゴを二つ入れ、むらのないようにかき混ぜて、フライパンに少量の油を敷いて焼き、黄金色になったら出来上がりだ。

歴史的原因でかつて大連に暮らした多くの日本人は、アカシアの花に特別な思い入れを持っている。毎年5月にアカシアの花が咲くと、彼らは連れ立って大連を訪れ花見を楽しむ。あるいは花の下で記念撮影をし、あるいは花を摘んで味わう。本に挟んで押し花にする様子も見られる。これは大連だけに見られる光景だろう。アカシアの花の時期は一般に10日から15日間で、より多くの人に花の盛りを楽しんでもらおうと、1989年から大連では毎年盛大な「観槐会」(アカシアの花見会)を行っており、世界各地から訪れた人々が、ともにアカシアの花の美しい景色や美食を楽しんでいる。

 

人民中国インターネット版 2014年3月

 

 
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