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歴史を共有し永久平和を |
東洋学園大学教授 朱建栄=文 今年は中日甲午戦争(日清戦争)開戦120周年、第1次世界大戦勃発100周年にあたり、来年は第2次世界大戦の終結、中国にとっての抗日戦争勝利70周年の節目の年になる。中国各地では甲午戦争や第1次大戦に関する一連の記念行事、学術会議が開かれており、習近平国家主席はこの7月初めの韓国訪問で、来年の戦勝記念日の記念行事を共同で行うことで朴槿惠大統領と合意した。 これらの歴史にまつわる記念活動と会議について、日本の一部は「日本たたき」「反日宣伝」と簡単に決めつけてしまうが、よく調べると、そのような浅い「利用」のレベルを超えて、中国は歴史の教訓を対日関係のみならず、むしろ自国の今後の進路に生かしたい「未来のための歴史総括」の一環であることが明らかになった。 日本を含めた東洋世界は昔から、歴史の経験と教訓の探求と総括を極めて重視する。『詩経』に収録されている3000年前の詩「大雅・蕩」に「殷鑒不遠 在夏后之世――殷鑒(いんかん)遠からず 夏后(かこう)の世に在り」という句があり、筆者は中学生時代にこれを学んだ。殷商の人々にとって未来のための鏡は、遠くない過去に国を滅ぼした夏の教訓にある、という「歴史に学べ」の思想が込められている。2300年前の戦国時代では最後の儒家と言われ、「性悪説」で有名な荀子が「往事を観て、以て自ら戒しめば、治乱是非も亦た識るべし」との名言を残している(『荀子・成相』)。 関心は清朝の敗戦理由に 甲午戦争120周年関連の一連の記念活動と学術会議をずっと注目してきたが、中国の識者の関心の重点は、交戦相手の日本の「悪」を暴露するより、「当時の中国はなぜいとも簡単に負けたのか」「今日への教訓は何なのか」という中国自身の問題、原因の探求に置かれていることがよく分かった。今年6月3日、北京の国防大学で行われた同テーマのシンポジウムで3人の著名な軍関係者が講演したが、劉亜洲上将は、「甲午戦争は中国の海軍や陸軍の敗戦ではなく、国家、制度の敗戦だった」と指摘して「今日も制度改革が急務」と強調した。徐焔教官は、甲午戦争が近代中国を覚醒させた転換点で、その後、中国は日本から多く学んだことを検証し、今日の中国も諸外国に学ぶ謙虚な気持ちを忘れるなと総括した。もう一人の金一南教官は、甲午戦争の敗北は辛亥革命の到来を促進した点に触れ、その今日的示唆は「歴史の重荷を現実の財産に、民族が発奮して向上する原動力に転換させること」と力説した。(香港『鳳凰網』サイト6月8日) 今年7月7日、北京・盧溝橋で抗日戦争77周年記念集会が開かれ、習主席が基調演説を行い、「武力に頼る対外的侵略と拡張は必ず失敗することは歴史の法則である」こと、「中国は断固として平和的発展の道を歩み、世界各国も共同で平和的発展の道を歩むよう望む」ことを主旨として強調した。それと同時に、「少数の人が歴史事実を無視し、1000万人単位の戦争犠牲者を無視し、ひいては侵略の歴史を美化する」ことへの懸念にも言及した。 警戒感の根底にあるもの 日本の一部には、70年も前の戦争を中国は何でこんなに繰り返し語るのかとの不満があるが、別の見方もある。「日本は自分の対外侵略戦争への言及を嫌うが、日露戦争、日本海大海戦といった近代の戦争勝利については今もよく映画、ドラマが制作される。これは自分に都合のよい歴史のみ覚える『選択的な歴史忘却』だ」と岡山大学の姜克実教授は、この7月に東京大学で開かれた国際会議で指摘した。確かにその通り、他の国に多大な損害、傷痕を残した対外侵略の歴史を選択的に忘却することは、日本自身が歴史を未来への鏡としていないことであり、特にかつてその侵略や植民地支配を受けた国からは不誠実に見える。「侵略や植民地支配の歴史を深く反省し、総括できない民族の将来を、我々はどうやって信頼するか」との警戒感の根底にあるのもそのためだ。 国際社会も決してあの戦争の歴史を忘れず、その教訓を重視している。米国で「9・11事件」が起きると、当時のブッシュ大統領はそれを第2の真珠湾攻撃と例えた。この6月、第2次世界大戦の転換点だったノルマンディー上陸作戦70周年の記念行事に、関係主要国の首脳はほとんど出席し、ホスト国フランスのオランド大統領は、「同盟国はかつて共同でファシストと戦い、現在は共に貧困と飢餓の減少に努力する」と語り、オバマ大統領は「われわれは単に勝利を祝い、犠牲になった兵士たちに敬意を表するだけではなく、われわれは最大の危機に直面している今、なぜ米国と同盟国が自由の存続のために大きな犠牲を払ったのかをあらためて思い出している」と演説した。 山梨学院大学の小菅信子教授は著書『戦後和解』(中公新書)の中で、第2次世界大戦後の国際社会では、「2度とあのような惨害をくりかえさないために、侵略と残虐とを記憶にとどめることで平和を強化し、世論とジャーナリズムがそれを監視するという政治・文化システムが完成した」と指摘する。しかし日本の一部の政治指導者はいまだに侵略や植民地支配の罪を素直に認めようとせず、時々また弁解じみた発言をする。日本の書店であの戦争を美化する書籍はずらりと並んでおり、これは国際社会にどういう印象を与えるだろうか。 あの戦争は「現在進行形」 さらに忘れてはならないのは、あの忌まわしい戦争は多くの中国人、韓国人にとって「過去形」ではなく、「現在進行形」であることだ。旧日本軍が中国の東北、華北各地で残した化学兵器は今も時々発見され、その一部は毒ガスが漏れて複数の住民に害を与えている。かつての従軍慰安婦や強制連行された人は生存者が減っているが、遺族は多数いて、訴訟が行われている。そのような認識と感情を持つ近隣諸国とどのように「過去」を克服すればよいか。筆者は、まず日本の中で隣国に甚大な被害をもたらした侵略戦争の歴史について弁解、美化、歪曲をする動きにストップをかける国民世論を形成する必要があると感じる。その上で、フランスとドイツなどがすでに実践しているように、近現代の歴史を東アジア諸国・地域が共有する努力を払い、「歴史」をこの地域で戦争を防止し永久平和を構築するための共通の財産、共通の「鏡」にしていくべきだ。
朱 建栄(Zhu Jianrong) 1957年生まれ。中華人民共和国出身の政治学者。東洋学園大学教授。専門は、中国の政治外交史・現代史に関する研究、東アジアの国際関係に関する研究。日本華人教授会議代表を歴任。著書は『中国で尊敬される日本人たち:「井戸を掘った人」のことは忘れない』など多数。
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