則天武后にちなむ24品──洛陽水席

 

洛陽水席 食卓の中央に置いたのはメーンディッシュの「牡丹燕菜」、周りは前菜8品と主菜4品である

 

行雲流水のように

「お料理をお出しします!」という声が聞こえたと思うと、頭にボタンの花の髪飾りを付け、唐代の金色の女官服をまとった8人のウエートレスが整然と並んで進んできた。左手で料理を載せた木製の皿を捧げ、右手はその縁に添えている。軒先にぶら下げた灯篭から、黄金色の光が唐代風の笠を通して、皿をきらきらと輝かせている。ここは洛陽水席の老舗「真不同」。ウエートレスたちが捧げていたのは、「洛陽の三大絶品」の一つに数えられている水席の前菜8品だ。

洛陽と言えば「洛陽の三大絶品」をすぐに思い浮かべる。龍門石窟、ボタン鑑賞と洛陽水席の三つだ。洛陽に行くと、繁華街にも路地裏にも水席料理店が軒を連ねている。その中で一番評判の高い店がこの老舗「真不同」だ。「『真不同』に行かずば、未だ洛陽城に至らず」─洛陽人の間ではやった名調子に言う通りだ。

唐代の女官服で料理を運ぶ8人のウエートレス

1895年開業の「真不同」は、すでに100年以上の歴史を持つ老舗だが、その看板料理の洛陽水席の源流は、盛唐時代にさかのぼる。水席が洛陽に生まれたのは、その地理的条件や気候風土と深い関わりがある。洛陽は山に囲まれ、一年中雨が少なく乾燥している。当時の気温は今よりずっと低かったので、果物は実りにくかった。それで、水分を取るためにスープが民間の食事で重要な位置を占めており、大根や山芋などの食材に酸味と辛味の調味料を加えた料理が主だった。長い年月を経て進化し、洛陽独自の水席が生まれた。なぜ「水席」なのか。理由は二つある。一つは温かい料理には必ずスープがついていること。もう一つは食事の流れのことで、ウエートレスが料理を1品ずつサーブし、食べ終えたら、次の料理が直ちに運ばれる。その流れは行雲流水と言える。

水席の起源に関わる面白い伝説がある。唐の高宗の時代に、袁天罡という星占師が天体を観測し、高宗の皇后・武媚娘(後の則天武后)はいずれ皇帝の座に着くと占った。しかし、天機は漏らせない。そこで袁は宴席を設け、彼女のその後24年間の飲み食いの光景を予言してみせた。宴では、温かい料理には必ずスープがつけられ、水が用水路を流れるように彼女が帝位につくことを暗示した。また、どの料理にも水分の少ない(中国語で「干」)食材もあれば、濃厚なスープ(中国語で「稀」)もあり、彼女の24年間にわたる責任を暗示した。中国語で責任を意味する「干系」と「干稀」が同音語であることを使った掛け言葉だ。「洛陽水席」にはオードブル8品、メーンディッシュ4品、添え料理8品、締めくくり料理4で合わせて24品ある。その数字は則天武后が朝政を総覧するようになった永隆元年(680年)から、洛陽の上陽宮で崩御する神龍元年(705年)までの24年間と重なる。

ツバメの巣?大根?

水席が24品の料理からなり、本場の味かどうかを判断する要素は二つある。一つは「水」、もう一つは最初のメーンディッシュの「牡丹燕菜」だ。

「真不同」の6代目の継承者・李玉賓さん(39)によれば、昔からスープに使う水は泉の水でなくてはならないそうだ。そこで、古代の水席を再現するためには、調理用水として、前の日に洛陽龍門山から常温17度の山の泉を運ばなければならない。しかもその水は1日で使い切ってしまう。毎月、半分以上の時間が泉の水汲みに費やされるそうだ。

ヒレ肉、エノキ、カニ脚、大根の千切りなどでツバメの巣状に形作り、卵のクレープで作った「ボタンの花」を載せ、秘伝のスープをかけると、「牡丹燕菜」の出来上がり。口当たりはツバメの巣のようであり、スープもおいしく、酸味と辛味がほどほどで口に合い、食材それぞれの味を保ちながら、スープがしっかり食材の中へしみ込んでいる。これが最上の「牡丹燕菜」の食感だ。「牡丹燕菜」の最も不思議なところは、大根を食べているのに大根とは思わせず、最高級料理のツバメの巣を楽しんでいると思い込ませるワザだろう。特に魚肉やブタ肉の生臭物に飽きた人々に、「牡丹燕菜」は一品ごとに思いがけない味と喜びを感じさせてくれるだろう。

2008年6月14日、洛陽水席は正式に「国家級無形文化財」に登録された。中国の古い言い方に「世の中に終わらない宴席はない」というのがある。しかし、洛陽水席は唐代から今日まで1000年も受け継がれている。李さんのところで今4人の弟子が修業している。李さんは技術指導に務めるだけでなく、人格の陶冶に重きを置いている。李さんは「卓越した腕前を持ち優れた人格の料理人に育てることが、水席を伝承し、盛んにしていく鍵です」と語っていた。

 

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