103番バスの安全サービス 運転手の自発的な努力広まる

 

 

高原=文  馮進=写真

 

 馮凱さん(29)は北京公共交通集団傘下のトロリーバス旅客輸送支社が運営するバス路線、103番の運転手。仕事は大変な上に無味乾燥なため、多くの若者はこの仕事に就こうとはしない。若手運転手を募集しても、その半分くらいは1年以内に辞めてしまう。馮さんも入社当時はこの仕事をやめようと思っていたが、上司に説得され、結局は続けていくことにした。ところが、平凡に見える仕事の中に自分の生きがいと楽しみを次第に見つけていったのだった。ここ数年、深刻になっている大気汚染対策として、北京市政府は都市部でトロリーバスシステムを大いに進展させることにした。業界の明るい未来を考えて、馮さんもより一層やる気を起こしている。

 

三つの「常」と五つの「慢」 

 

北京市で初めてのトロリーバス路線、103番は、1957年の開通後、今日まで運営されてきた古い路線。そのため、現存するのはたったの数本のみ。この路線には北京駅、王府井、中国美術館、故宮、天意雑貨卸売り市場、動物園交通ターミナルなどの商店街、観光スポット、旅客センターがあり、乗降数が多いだけではなく、乗客も荷物もごった返している。途中には歩行者専用道路のほかに、自動車と自転車などの混用車線も多い。かつては、車内での切符販売、乗客の誘導、バス停への停車や出発を注意する業務を担う乗務員がいたものの、昨年6月からはワンマンバスとなった。また、昨年末には一律運賃制から距離別料金制へ変更となったため、運転手たちの仕事量は急増した。  

 

「103番に乗るのは地方からやお年寄りのお客さんが多いため、運転手として常に注意を促し、常に乗降の様子に気を配り、常に座りっぱなしにならないように心がけています。常に注意を促すのは、似ているバス停の名前と間違えないようにするためです。例えば、『北京駅西』と『北京西駅』は違います。また、高齢者のお客さんが乗り過ごさないように声をかけます。運動のために朝5時過ぎに私が運転するバスに乗って公園へ行き、10時過ぎにまた私のバスに乗って帰る高齢者が少なくありません。そのため、いつも『お帰りですか』と尋ねてから、どのバス停で降りるのかを覚えておき、乗り過ごさないように声を掛けています。時間が経つと、顔見知りになります」  

 

「常に乗降の様子に気を配り、常に座りっぱなしにならないように心がけるとは、バックミラーを通して、また立つことでお客さんのニーズをタイムリーに把握するということです。お客さんがすべて降りて、高齢者の方がきちんと座ってからドアを閉めます。運転、バス停への乗り入れ、停車、ドアの開閉、そして出発はすべてゆっくりと行うように心がけています。正直に言えば、この仕事には忍耐が必要です。以前はハイスピードで自家用車を運転していましたが、バスの運転手になってからは、ゆっくりと運転するようになりました。最近では、バス運行中に追い越そうとする車がいたら、道を譲るようにしています。多くのお客さんが乗っているからです。せっかちではだめですね」  

 

現在、馮さんが提唱するこの「三つの『常』と五つの『慢』」という注意事項は、すべての103番バスに普及している。「なかなかできる若者だよ。経験を生かすのがうまい。こんな若いのに、後輩を指導するようになってるからね」と、チームリーダーからの高い評価を得ている。

 

休日のボランティア活動 

 

馮さんの後輩の孫岩さんは昨年から仕事を始めたばかりの運転手だ。ベテランについて2、3カ月の見習期間を経て、初めて一人で運転することができる。早番の日、馮さんと孫さんは早朝3時半くらいに職場へ着き、アルコール検査や車両点検を終わらせ、4時半にその日の始発を出発させる。一周するのは約2時間。ターミナルに戻ると、馮さんはわずかな休憩時間内に朝ごはんを食べながら、孫さんに運転中のさまざまな緊急事態への対処法を指導する。バスにはトロリーポール(棹状の集電装置)が設置されているため、運転の速度、カーブを曲がる時の角度について、特に気を配らなければならない。運転手は前後左右の路面状況を確認する一方、トロリーポールが落ちて周りの車や通行人の安全を脅かさないように常にモニターを通じてその様子を見張る。  

 

また、「走地理」という、以前から受け継がれてきた現地調査のような研修を行う。馮さんは余暇を利用して、全てのバス停を下見し、付近の観光スポット、公衆施設、ランドマークとされる建築、地下鉄・バスの乗り換えなどの情報を孫さんに伝える。バスの運転手として、いつでも乗客からの質問に答えられるようにしておかなければならない。  

 

馮さんや同僚たちの通常の勤務時間は、毎日8時間、週休2日制だが、人手不足のため、ほとんどの運転手は毎週8時間残業している。また、強制的なものではなくとも、全員が責任感と奉仕精神を持ち、進んで余暇の時間を利用して、「走地理」や「バス停での助け合い」などの活動を行っている。  

 

もともと103番の路線上には観光スポットが多く、祝祭日になると観光客はいっそう増え、バス停から車道まで、バスを待つ人と通行人とで混雑し、バスの出入りはかなり不便になる。そのため、休暇中のバス運転手たちは自発的にボランティアとして、乗客が集中しているバス停でバスがスムーズに出入りできるように乗客を誘導し、現場の秩序を維持する。「メーデーと国慶節の連休になると、故宮、動物園近くのバス停はいつも大混雑します。私たちはこの時期になると、休暇中または手が空いている者は必ず手伝いに行きます。お客さんの案内をしたり、同僚の運転手を助けたりするのは、すでに習慣となっています」と馮さん。  

 

大半の時間を仕事に費やしているが、馮さんはそれでも自分の興味あることや趣味を追求している。スキー、乗馬、卓球が好きで、休日にはマイカーを運転して家族全員で郊外の草原へ遊びに行く。スポーツ以外にも、歌を歌うことが好きで、同僚数人と組んだ合唱団は、コミュニティーで開催された歌のコンクールで入賞したことがある。  

 

現在、会社には若者がだんだん増えてきており、103番に属す300人余りの運転手はその半分が24~33歳の若者。これらの若者は長い歴史を持つ103番の新たな活力と発展の原動力となっている。

 
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