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「鬼」から「人」になった戦犯たち | ||
于文=文・写真
中国の職員より豪華な食事 埼玉県川越市の外れにぽつんと建つ「中帰連平和記念館」は一見するとただの倉庫だ。しかし内部の書棚には膨大な量の書籍が並ぶ。「貴重な記録を研究資料として活用していただきたいんです」と芹沢昇雄事務局長が取り出した封筒に収められていたのは、会員が管理所で書いた「手記」の原本だった。そこには「なぜ」戦争加害者となったのか、「どうして」贖罪する気持ちになったのかが、それぞれの言葉で克明につづられていた。 戦犯管理所にシベリアから969人の戦犯が移送されたのは1950年。戦犯たちを驚かせたのは、その待遇だった。「過酷なシベリアから一転、中国人職員はコーリャン飯なのに、戦犯たちには白米と肉や野菜のおかずが毎食配られるなど破格で、当初は『これが最後の晩餐ということか…』と思ったそうですよ」と芹沢さんは言う。 戦犯を裁くための裁判は1956年、周恩来総理の下で行われた。周総理は一人の無期懲役も死刑も認めず、1062人の戦犯で起訴されたのは政府関係者と軍高官の45人のみ、他は全員起訴免除で即時帰国した。起訴された45人も刑期満了前の帰国を許されている。そんな戦犯たちに対する優遇と寛大な判決に、怒りの声を上げた中国人が多かったことは容易に想像がつく。しかし周総理は、「制裁や復讐では憎しみの連鎖は切れない。20年後には分かる」と諭したという。 官庁や大企業にとって帰国者差別はイメージダウンになるため、かつての在籍者は帰国後に復職を許された。しかし「大陸帰り」「アカ」とさげすまれ就職もできず、牛乳配達やくず鉄拾いでようやく生計を立てる人もいた。生活の困難を抱えつつも、「管理所の暮らしを忘るべからず」を旨に、帰国翌年の1957年に中帰連を誕生させる。 ある「鬼の憲兵」の悔悟 中帰連メンバーの一人、土屋芳雄さん(故人)は元憲兵で、1933年に関東軍憲兵隊に入隊。以降12年間、チチハルで1917人の中国人を検挙・投獄し、「鬼の憲兵」と呼ばれた。戦後は5年のシベリア抑留のあと撫順で6年の収容生活を過ごす。入所当初は「どうせ死刑だろう」と破れかぶれの気持ちだったが、人道主義を貫く管理所の方針に触れて次第に罪の意識が芽生え、供述書の記入に応じた。「供述書は私が『鬼』から『人』に変わるきっかけをつくってくれた」と土屋さんは後に述べている。 起訴を免れ帰国した土屋さんは、加害者の立場から戦争の悲惨さを訴える活動を続けた。中日国交正常化後も「中国の人に合わせる顔がない」と訪中の誘いをかたくなに断り続けたが、国交正常化から20年近くたった1990年、ついに訪中を決意する。 土屋さんが最も忘れられないのが、チチハルで共産党の地下活動をしていた張慶民さんら9人の検挙と銃殺だった。張さんは拷問にも屈せず、「私は愛国者だから命をもってこの仕事を成し遂げる」と胸を張って死んでいったという。90年の訪中では張さんの四女、張秋月さんが唯一面会に応じた。 土屋さんはチチハル烈士陵園の張さんの墓前で涙の謝罪をし、張秋月さん夫婦に「二度とこのような過ちをしないよう、平和と日中友好のために頑張ります」と土下座をしてわびた。張秋月さんは「生きているうちに中日友好に力を尽くしてください」と声を詰まらせた。 中帰連の意思を語り継ぐ 中帰連会員たちは全国で証言集会を開き、証言集やドキュメンタリーなども紹介されて大きな感動を呼んだ。しかし年月がたちメンバーが次々と亡くなり、2002年に解散したが、「撫順で起こった『奇蹟』を語り継ごう」と、戦犯たちの話に感銘を受けた若い人々を中心に、同年、中帰連の活動と意思を引き継ぐ形で「撫順の奇蹟を受け継ぐ会」が結成された。 「受け継ぐ会」の主な活動は証言の聴き取りと証言集会の開催で、関連施設の「中帰連平和記念館」では中帰連関連の資料と文献の収集、管理、公開を行う。「受け継ぐ会」代表の姫田光義さんは「戦争被害者の収容所職員が、私心を押し殺して戦犯たちの心を解きほぐしていったこと。それにより戦犯が罪深さに気付き、『鬼』から『人』へと生まれ変わり、真に謝罪できたこと。この二つの奇蹟があって初めて『撫順の奇蹟』と呼べるのではないですか」と言う。 今年は戦後70周年という節目の年。日本でも戦争に関する話題がメディアで多く取り上げられているが、「戦争被害」に比べて「加害の歴史」はあまりに少ない。戦犯だった中帰連の人びとは、「侵略と加害の歴史」に自ら向かい合い、罪を認めた稀有な存在ではないだろうか。
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