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文字でつながる中国とわたし

 

露木 春那

「今日から教育実習をさせていただく中国美術學院書道学科の学生です。どうぞよろしくお願いします。」小学校の守衛室でどきどきしながら中国語で挨拶をした。昨晩何度も繰り返し声に出して練習した一つ目の挨拶だ。中国で大学生活を開始してから約二年が経った2013年の秋、人生初めての教育実習をまさか異国の地ですることになるとは…。教室へ案内される途中、校庭で全校児童が集まり朝の体操をしているのが見えた。こんな元気いっぱいの子供たちと書道の授業をするなんて、私のような留学生に務まるのだろうかと急に不安になってきた。

小学校の書道教室は広々として、机とイスも古風なデザインで揃えられており、先生の手元を拡大した映像をプロジェクターで映しだす設備もあった。なんて心地よい教室なのだろう。窓辺の白いカーテンがふわっと膨らみ、涼しい風とやさしい光が教室に入ってきた。授業開始のチャイムが鳴ると、さっきまで校庭にいた子どもたちがどっと教室に駆け込んできた。

実習第一日目、早速普段行われている授業を見学させてもらえることになった。先生は筆を持つ前にこんなことを呼びかけた。「さあ、みなさん、窓の外の木を見てください。枝にはたくさんの葉っぱが付いていますが、どれも大きさや形が微妙に違います。では次に自分の手を見てみましょう。五本の指はどれも、長さや太さが違います。自然の美しさは少しずつ違うものが集まってできているのです。ですから私たちも美しい字を書くために、大きい小さい、長い短い、太い細いの対比や、余白や運筆の変化を意識しましょう。」小学三年生でも理解できるわかりやすい説明方法に私は深く感銘を受けた。きっと先生のお話は、書道芸術についてだけではなく、学校の友達、もっと広く考えれば社会、そして世界はみんな違って当たり前、みんな違うから面白いのだというメッセージも含んでいるのだろうと思った。

二週間目からは自分ひとりで教壇に立ち授業をすることが決まった。授業のやり方や内容はすべて私に任せると言ってくださった。あれこれ悩んだ末、日本はいかにして中国の文化を学んできたかを説明するために、遣唐使の歴史を紹介し、当時の日本の書道作品を臨書することにした。普段使われている教科書の内容から脱線してはならないと考え、漢字の古典作品、空海の『風信帖』を教材として選んだ。二週間目最後の授業が終わると先生は私にこう声をかけた。「今週の授業はとても素晴らしかったよ。みんな楽しそうでしたね。子どもたちは常に新しいことを学びたいという気持ちでいっぱいです。ですから来週からは私が普段教えることのできないようなことをぜひ授業でやってください。日本のひらがなをみんなで書いてみてはどうでしょう。」まさかこんな素敵な心躍る提案を先生からしてくださるとは思ってもいなかった。この瞬間、先生方が、子どもたちが、学校が、このまちが、私の個性を歓迎し見守ってくれているのだと強く実感した。  

いよいよ実習の三週間目がスタートした。授業では童謡『紅葉』の一節「あきゆうひにてるやまもみじ」と宮沢賢治の詩の一節「雨二モマケズ風二モマケズ」をみんなで一緒に筆で書く練習をした。ひらがなとカタカナは日本のみで使用される文字であるが、どちらも中国の漢字にルーツがある。ひらがなは漢字の草書体をもとにして、カタカナは漢字の一部分を借りてつくられた文字であるということをクイズ形式で説明をした。古来、中国の文化と日本の文化は強く結びつき、影響し合ってきたということを子どもたちに知ってほしかった。そう、私たちはこれからもずっとお互いに手を取り合い、より明るい未来へと一緒に歩んでいくのだ。授業終了のチャイムが鳴った。「露木先生!今日書いた作品を家に持ち帰ってもいいですか?記念にとっておきたいのです。」子どもたちの瞳には明るい未来が映っている。もちろん私の瞳にも。

 

人民中国インターネット版 2015 年12月

 

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