四つのキーワードで知る「十三・五」の核心

 

2015年10月に開催された中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で国民経済および社会発展第13次5カ年計画(十三・五)制定に関する党中央の建議が採択されました。その最も重要なキーワードは、「小康社会(いくらかゆとりある社会)」と言えるでしょう。

 「小康」という言葉の出所は「礼記」にあるとされますが、この言葉を現代社会に知らしめたのは、改革開放政策の生みの親である鄧小平氏でした。改革開放政策の発表からちょうど1年後の1979年12月に鄧氏は、時の大平正芳首相との会見で、「中国は四つの現代化(注2)を実現しなければならない。その求めるところは『小康社会』において、人民の生活を小康状態にすることにある」と語ったと言われています。

 十三・五では、その最終年にあたる2020年までに「小康社会」を全面的に達成するとしています。全面的な小康社会とは未曾有の事態でしょう。「礼記」から数えて二千数百年間夢みてきた「小康社会」が、新中国成立から66年余り、改革開放からわずか36年余りの現代中国で達成される、としたら、正に歴史的偉業と言って良いのではないでしょうか。

都市戸籍比率は52%時代に

 「いくらかゆとりある社会」と言われる小康社会とは、どんな社会なのでしょうか。客観的かつ具体的に定義するのは困難ですが、人々が、それぞれ頭に描く小康イメージが実現されつつあると「実感できる」社会、ということにとなります。中国には人口分、すなわち13億余の一人一人にとっての「小康社会」がある、ということです。

 小康イメージとは極めてあいまいな言い方ですが、その公約数は求められており、すでにその建設に向けた政策対応がとられています。例えば、都市化の推進があげられます。中でも「規模の都市化」から「人口の都市化」が推進されていることが注目点です。現在、都市常住者は7億5000万人(規模都市化率57%)ですが、うち、2億5000万人が農民工(出稼ぎ労働者)など外来移住者で、そのほとんどが都市戸籍をもっていないため、教育、就業、医療、社会保障、保障型住宅手当面などで不利な状況にあるとされます。条件付きではありますが、戸籍制度改革はすでに実施され始めており、2020年までに戸籍人口都市化率(全人口に占める都市戸籍所有者の比率)を現在の40%弱から52%前後に引き上げるとしています。このほか、2020年までに農村貧困人口(2014年時点で7000万余)の解消を目指している点や、今年10月に開催された5中全会で発表された「一人っ子政策」の見直しなども小康イメージの実現に向けた政策対応といえるでしょう。13億人の描く小康イメージの公約数は多々あり、その一つ一つに政策対応するというのは現実的ではないでしょう。十三・五期間中には、その最大公約数が提起されるのではないでしょうか。

 世界最多の人口を擁し、世界第2位の経済規模を有する中国の小康社会の達成への道のりは、同じく近代化途上の世界各国・地域にとっても大きな参考となり福音ともなるはずです。その意味で、十三・五には、世界の今後の行方、あり方に対する問題提起を含んでいると言えるのではないでしょうか。

所得倍増達成へ最低限示す

 十三・五の次のキーワードは「6・5%」です。十三・五では、期間中の国内総生産(GDP)の年平均成長率を6・5%以上としています。2020年までに、GDPの規模と一人当たりGDPを2000年水準の2倍増にする(翻一番)ことを目標にしていますが、6・5%はそのための最低限(底線)の成長率です。十二・五期間中(2011~15年)のうち14年までの4年間の年平均成長率が7・5%だったことから見ると、成長率はやや低めとなっています。

 習近平総書記(国家主席)は、「十三・五期間中、『翻一番』を前提に中高速成長を維持する。民生を改善し、人民大衆に全面的な『小康社会』達成の成果を実感してもらう」(注3)と説明しています。6・5%以上の成長は「小康社会」の達成のための保証というわけです。6・5%以上の成長は十分達成可能との見方をする識者は少なくありませんが、習総書記は、十三・五と中国の今後の発展戦略と政策の基本方向を、「中国共産党第18回全国代表会議(12年11月の党大会)以来、党中央が提起した発展パターンの転換と『双創』を実施し、かつ、『創新』を新たな経済発展と思想のさらなる深化のエネルギーとすることにある」と指摘しています。「双創」とは、「大衆創業、万衆創新」を指し、創業(起業)しやすい環境をつくり、イノベーションを生み出す社会ヘの転換を図ること、「創新」とは、新機軸を打ち出すというほどの意味です。

ケネディ大統領演説を連想

創新、双創の「創」も十三・五の重要なキーワードです。「創」は最近の中国で最も多用されている漢字の一つですが、十三・五の建議においても例外ではありません。習総書記の5中全会での指摘は、党と政府は発展パターンを転換させ、中高速成長下で小康社会の達成を約束するが、企業、人民にもこれに積極参加できる新たな機会があるとのメッセージとも受け止められるでしょう。

筆者は、この新たな時代を刻む「創」の字から、ジョン・F・ケネディ米国35代大統領の就任演説(1961年1月20日)の中の有名な言葉を連想しました。

「アメリカ国民の皆さん、あなたの国家があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたがあなたの国家のために何ができるかを問うて下さい。世界の皆さん、アメリカがあなたのために何をするかではなく、私たちが一緒になって、共に人類のために何ができるかを問うて下さい」

このケネディ大統領の言葉を、時代的背景も国情も異なる現代中国の「双創」や「創新」のイメージに重ねることには少々無理がありますが、新たな時代を党・政府、企業、人民が三位一体で切り開こうとする姿勢は、相通じるものがあるのではないでしょうか。

アジア・太平洋地域と連携

本稿における十三・五を読み解く最後のキーワードは「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」戦略です。十三・五期には、世界経済におけるアジア・太平洋地域のプレゼンスが一段と高まることが確実な情勢にあります。中国が2013年に打ち出した「一帯一路」戦略は、この地域全域をカバーしています。十三・五では、創新、協調、グリーン(環境保護)、開放、発展の享受が発展理念となっていますが、「一帯一路」建設でもウインウイン関係を推進すると、言及しています。アジア・太平洋地域とますます密接な関係を構築しつつある中国が同地域の発展にどう関わっていこうとしているのか、「一帯一路」戦略の行方はまさにその試金石となるのではないでしょうか。

 

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