傅瑩の「柔と剛」

『北京週報』記者 蘭辛珍

仕事の関係で、傅瑩氏とは早くから面識がある。知り合った頃彼女はまだ外交部で働いていた。2013年、60歳の傅瑩氏は報道官として両会に姿を現した。全国人民代表大会(全人代)が報道官制度を設けて以来30年で初の女性報道官であった。傅瑩報道官の気高く優美な風格ある女性的魅力と、スタイリッシュかつ親しみやすい雰囲気、英知に富んだ理性的な考え方は、多くの人々から称賛されている。

今年3月4日、第12期全人代第4回会議の第1回記者会見で、傅瑩報道官は再び大会報道官として登場した。各メディアの質問に対する英知に富んだ理性的かつ誠実な回答のほか、米国記者の友好的とは言えない質問に回答する際の「柔中に剛ある」言葉によりいっそう感服させられた。

記者会見が始まって間もなく、米CBSの記者が3番目の質問の機会を得た。この見たところまだ若い米国人記者の質問は南中国海紛争に関するもので、米国式の偏見を帯びていた。質問は、「中国は南中国海で軍事化は行わないと宣言したが、実際には南中国海の島嶼や岩礁でミサイル配備や滑走路建設など軍事配備をしている。国際社会はこうした行為が南中国海の平和と安定を脅かすと見ているが、これについてどう考えるか」というものだった。

南中国海軍事化問題について、実際のところ国際社会は本当に軍事化手段で南中国海に影響を与えているのは米国であり、中国ではないということを分かっている。しかし米国メディアは自身の利益、さらに傲慢や偏見から、このように考えないだけでなく、自身の影響力を通じて、事情をよく知ろうとしない米国の民衆に影響を与え、中国に対する悪い印象を植え付けている。

そのため、この記者の質問に答える際、傅瑩報道官は南中国海軍事化問題について直接答えるのではなく、まず南中国海問題を客観的に報道しない米国メディアをそれとなしに批判した。「CBSや米国メディアの報道は注視しています。米国メディアは中国に触れるたびに南中国海や南沙諸島の軍事化を持ち出し、『軍事化』という言葉を恐ろしく煽っていますが、これは言論における覇権主義ではありませんか?多くの米国メディアが『地域の平和を脅かす、航行の自由を妨げる』と報じ、中国にこのようなレッテルを貼ろうとしています。こうしたやり方は事態を誤った方向に誘導しかねません」。

傅瑩報道官がこう述べた時、CBSの記者は一瞬気まずい表情を浮かべた。それが自分の偏見を恥じたからであるなら、この記者はまだ善良だと思う。ただ、彼の気まずい表情が恥じ入る気持ちから出たものどうかは分からない。

その後、傅瑩報道官は南中国海軍事化に話を戻した。しかしその口調は柔らかく悠然としたもので、まるで親友どうしが自分の考えについて話しているようなものだった。「軍事化と言いますが、南中国海に出入りしている先進の飛行機や軍艦を詳細に見てみると、最も多いのは米国のものではありませんか?しかも米国がアジア太平洋回帰で打ち出した重要な決定は、海軍の60%以上をアジア太平洋地域に配置するというものです。ここしばらくの間に、米国はアジア太平洋地域でどれだけの軍事上の措置を打ち出していますか?同盟国とともにアジア太平洋地域における軍事プレゼンスと軍事配置を完全に強化しています。軍事化について持ち出すなら、これは何ですか?軍事化ではないのですか?」柔らかで、反問の形で注意を与える口調には、真剣に考えることを促し、言い訳を許さない力があった。

続いて傅瑩報道官は、南中国海問題における中国の態度と、米国が考えるところの南中国海で中国が進める軍事化について説明した。「南中国海問題については、先般中国の外交部部長が米国を訪問し、詳細に説明してきました。全人代代表を含む中国の一般の人々の考えを2つお話しましょう。第一に、米国が南沙諸島の島嶼や岩礁からあんなにも近いところに軍艦を派遣して武力を誇示することを、中国人はよく思っていません。非常に反感を買っています。南沙紛争について、米国はもともと特定の立場は取らないと言っていました。今の米国のやり方や発言は緊張感を煽っているように感じられ、米国の動機に大きな疑問を抱かせるものです。第二に、中国の南沙諸島での島嶼や岩礁の拡張は必要なものです。中国の国民も支持していますし、こうした島嶼や岩礁は大陸からかなり離れており、自前の防御能力を持ち、必要な防衛措置を取らなければならないと考えています。これが大方の人の考え方です。なぜなら中国はこうした国々が南沙の島嶼や岩礁を不法占拠するのを認めたことは一度もないからです。中国の『争いを棚上げし、共同で開発する』という方針は、主権を放棄しないことを基礎にして打ち出したもので、この地域の平和と安定を守るためでもあります」。

米国のこの記者は軍事化を理由に南中国海問題に言及したが、南中国海問題の実質は軍事化問題ではない。そのため傅瑩報道官は真剣かつ厳粛な口調で次のように述べた。「我々の領土主権と我々の海洋権益がさらに侵害されたら、中国人民は不愉快だし、賛成もしない。しかも心配になるでしょう。南沙の島嶼・岩礁を拡張すれば、より良く我々の利益を守ることができるようになります。同時に中国がこの地域で公共サービスを提供する力も高まり、この地域の平和を守る力も高まります。これは良いことです。この問題について、中国人の考え方は一致していると考えます。これは軍事化ではない。防御能力を持ったからといって軍事化と言うことはできない。この問題はしっかりと話し合わねばなりません。何が軍事化なのか、線引きはどこかを、学者の皆さんにじっくり話し合っていただいてもいい。この問題に関して、中国にこんな風にレッテルを貼るのは望ましくありません。かえって多くの問題を混同させてしまいます」。

最後に、傅瑩報道官はなおも米国にそれとなく注意を促すことを忘れなかった。「米国が本当にこの地域の平和と安定に関心を寄せるなら、中国と周辺諸国の対話による紛争解決を支持するべきで、反対の方向に力を注ぐべきではありません。それではほかに何か別の思惑があるように思えます」。この言葉は柔らかな口調ではあったが、非常に重みのあるものだった。質問した米国人記者が聞き取れたかどうかは分からないが、いずれにしても私には分かった。メッセージは1つ。「あなたがた米国が南中国海問題で私心を持っていることは分かっている。やりすぎは禁物だ」。

傅瑩報道官の受け答えを詳しく聞いてみると、口調、表情や態度、言葉の選び方のどれをとっても、第一印象は温和で、謙虚で、穏やかであり、はっきりとした強さには欠けている。だが後でよく振り返ってみると、傅瑩報道官の言葉は「柔中に剛あり」で、柔らかさの中に剛毅さがある。しかも礼儀深く節度があり、傲慢でも卑屈でもない。これは実のところ数千年の儒家文化の薫陶によって育まれた典型的な中国人の姿であり、国際関係処理において一貫して堅持してきた規範である。国際関係処理に当たって一部の西側政治家の脅迫めいた発言をよく耳にするが、それでは問題は何も解決しない。中国人は大げさな話や脅しの言葉を口にするのは得意ではない。だが上記のような中国人の英知は、真似しようと思ってもできるものではない。

傅瑩報道官の「柔と剛」は、実のところ中国の国際問題における態度の象徴なのだ。

 

北京週報日本語部より 

 

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