現在位置: サイト特集>Panda杯 全日本青年作文コンクール
気が付けば第二の故郷

和泉澤 大地

以前の私にとって、日中交流とは程遠い存在だった。テレビのニュース、学校の社会科の授業等、脚色のかかったそれらの情報を鵜呑みにしていた。

中学時代は、中国人のクラスメートもいたが、それによって中国に対するイメージが変わることもなく、むしろ友人に対して失礼な発言もしていた。今思えば申し訳ない。 

そんな私にまず一つ目の転機が訪れた。

大学1年の冬、当時中学生の弟が、(公財)陽光美術館と中国の揚州市が主催する、日中の少年交流行事「豆遣唐使」で中国を訪問した。当美術館は、中国本土でも幻の名品といわれるような陶磁器を展示しており、さらには中国の水墨画の大家「崔如琢」氏の作品を日本で唯一展示している。当館館長の関口勝利氏は、日中友好に非常に関心が高く、文化交流を通して、お互いの理解が深まるよう、その土台作りに取り組んでいる。「豆遣唐使」もその一環で、日本の中学生が、遣唐使が辿った道のりを、現地の中学生らと交流しながら体験するというものであった。弟は中国語が出来るわけでも、以前から興味があったわけでもなかったが、訪中時の楽しい思い出をただひたすら語ってくれた。

その後、訪中団の家族として、当館から懇親会に招かれ、関口館長にも面接する機会が与えられた。関口氏は「メディアを通してではなく、人と人との交流の中にこそ、本当の情報が伝わり合う。李白と阿倍仲麻呂のような友情を、現代の若者にも引き継いでもらいたい。」と熱い思いを語った。その言葉に、私は深い感銘を受けた。

大きな「使命感」にかられた私は、翌年4月から中国語の勉強を始めた。2年生の春休みには、復旦大学の短期留学にも行った。そして語学のさらなる進歩を求め、大学の国際交流課にある留学生との交流スペースに赴いた。

そこで二つ目の転機が訪れた。「日中学生交流団体freebird」との出会いである。

偶然にもfreebirdに所属する学生がおり、私にその活動について紹介してくれた。当団体は、学生同士の相互理解を深めるために、草の根交流を企画している。毎年夏には、討論会や企業訪問、フィールドワークなどを行う合宿イベントも行っている。言語を学ぶだけでなく、日中友好というテーマに向かって真っすぐに取り組む機会があるのだと、私はとても感動した。

そして3年の夏休みには、その合宿イベント“JAPANTRIP2013”に参加した。7泊8日の日程で、歴史問題などについての討論会、清掃工場や教科書会社などの企業訪問、最終日には一般公開での成果発表会を行うといった、盛りだくさんの内容であった。中国人の学生と面と向かって議論し、寝食を共にしたその生活は、たとえ小さな一歩でも、日中友好に必ずつながっていくと確信している。

それからというもの、私は「中国」、「日中○○」と名の付く催しには、積極的に参加するようになった。大学でも、中国の留学生に自分から中国語で話しかけるようにし、外食の際にも、中華料理屋に行っては、中国人のスタッフに話しかけたりした。

ここで重要なのは、この行動の原動力となっているのは、もう日中友好への「使命感」というよりも、中国というものへの「親近感」であることだ。何度も何度も中国の人と交流していくうちに、その暖かな人柄や明るさが、ついには家族のような「親近感」を私に感じさせたのだ。

そして、この春、社会人となり、職場では4人の中国人の同期にも恵まれ、日々中国語が話せる環境にある。6月からは、清水隆志氏が経営する日中交流をテーマにしたシェアハウス「パンダハウス」に居住している。普段から中国人などのアジア人とともに暮らすことができるのだ。

親元を離れ、独り立ちした今、学生のころとは違った形で、社会人ならではの日中交流活動を楽しみ、模索し続けていきたいと思う。

 

人民中国インターネット版 2016年3月

 

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。 京ICP備14043293号
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010)6831-3990  FAX: (010)6831-3850