中日「新型国家関係」の構築:両輪駆動下の協力・ウインウイン

中国社会科学院日本研究所副所長 楊伯江

 

 

 

 習近平外交戦略は思想的な含意が豊富で、幅広く奥が深い。「協力・ウインウイン」は中国が提唱する「新型国際関係」の核心的理念であり、中日「新型国家関係」の全体的方向付けでもある。同時に、中日関係の特殊な複雑さから考えて、特に「両輪駆動」を強調することも必要であり、つまり四つの外交文書を順守する基礎の上に「協力・ウインウイン」を実現することだ。時代背景、世界の潮流、特に中国自身の根本的利益が、協力とウインウインを核心とする「新型国家関係」の方向に向かって中日関係の発展をけん引・推進するという全体的方向付けを決定した。同時に、中日関係の特殊な複雑さも、またこの目標を実現するためのルート選択とプラン立案が指向性、実行可能性を備え、オーダーメードが必要であるということを決定づけている。そのうち、実務協力を積み重ね、認知の再構成を促進し、戦略的相互信頼を築くことが必要だということは基本的な考え方になっている。

 

一、協力・ウインウインは「中日新型国家関係」構築の全体的方向付け

 

互恵協力、ウインウインの実現は、一貫して中日関係の発展を推し進める主線だった。国際大戦略的考慮に基づいた国交正常化であれ、中国の改革開放実施後の両国の経済・貿易協力の飛躍的発展であれ、その通りだ。協力・ウインウインは中日双方にとって共通の利益に合致しており、両国それぞれの発展戦略にも合致している。日本から見れば、長期に世界第二の経済大国の地位にあり、巨大な生産能力に相対して、人口規模、国内市場では十分に消化しきれない。これこそが日本が海外市場に対するニーズを決定しており、国際協力への依頼が長期的で変わらないことを決定している。中日間の発展段階、産業レベルの違いは、また中日協力の構造的な機会を決定している。まさにこの観点から出発し、早くも1960年代に日本の国際政治学現実主義派の先駆け高坂正堯氏は、「日本の真のライバルは中国ではなく、米国だ」と指摘した。

 

2008年に調印された「戦略的互恵関係の推進に関する中日共同声明」「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明は、長期にわたる平和・友好・協力が双方にとって唯一の選択であると宣言している。また、双方は、戦略的互恵関係を包括的に推進し、中日両国の平和共存、代々の友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現していくことを決意している。中日間の四つ目の政治文書としてこの声明は、1972年の国交正常化の「中日共同声明」、1978年の「中日平和友好条約」、1998年「中日共同宣言」で打ち立てられた中日関係の政治的基礎とともに、中日関係の発展を導く原則方針となっている。中日戦略的互恵関係の基本的内容は次のようになっている。相互に平和的発展を支持し、政治的相互信頼を増進する。互恵協力を深化し、共同発展を実現する。防衛事務対話と交流を強化し、地域の安定を守るために共に力を尽くす。人的・文化的交流を強め、両国人民の相互理解と友好的感情を増進する。協調と協力を強め、地域および世界的な課題に共に対応する。一方、互恵関係の基本精神は次のようになっている。両国は共にアジアおよび世界の平和、安定と発展に建設的な貢献を行う。二国間および国際など各レベルでの互恵協力を全面的に発展させ、両国、アジアひいては世界に共に貢献し、その過程で相互に利益を獲得し、また共同の利益を拡大し、それによって両国関係を新たな高みへと発展させる。

 

習近平氏は党と国家の指導者に就任してから、たびたび中日友好の重要意義を指摘し、中国は長期に中日代々の友好という基本的国策を堅持していくと表明している。特に2009年に国家副主席に就任し、日本を訪問する直前と訪日中に、習近平氏は、中国政府は一貫して戦略的な高みと長期的な観点から、中日関係を外交戦略全体の重要な位置に置き、中日友好政策を堅持していくとたびたび指摘した。10年に日本の公明党代表団と会見した際に、習近平氏は、互恵協力が双方の根本的利益に合致し、長期的な友好が唯一の正しい選択だということは、中日両国の長期にわたる付き合いの歴史が証明しているとはっきりと指摘した。12年に日本の民主党代表団と会見した際には、習近平氏は「人的・文化的交流を拡大し、代々続く友好を実現すべきである」と述べ、中日国交正常化40年の発展の歴程の重要な啓示の一つとした。14年には抗日戦争勝利69周年記念座談会で、習近平氏は、中日の長期にわたる平和友好関係は、両国人民の根本的利益に合致し、アジアと世界の平和と安定のニーズに合致すると、再び指摘した。

 

中国の外交新理念、新実践に相対して、日本も「新たな時代にふさわしい日中関係」の構築を提起した。今年4月、日本の自由民主党岸田派のリーダーである岸田文雄外相は訪中直前に、「読売国際経済懇話会」に出席し、「日本の最重要の二国間関係の一つは日中関係だ」として講演を行い、「新時代の日中関係」という構想の構築について比較的系統的に打ち出した。岸田外相の「新時代」についての表現は次のようになっている。20余年来、国際社会のパワーバランスの中で、日本、中国それぞれの立場に変化が生じ、世界第二、第三の経済大国として日中両国は、地域および世界の平和と繁栄に重大な責任を担う時代になっている。岸田外相は「新時代の日中関係」実現の三大措置を提起した。協力の拡大、課題と懸念への対応、国民間の相互理解と信頼関係の醸成である。

 

二、歴史正視が「中日新型国家関係」構築の政治的基礎である

 

中国の主要な二国間関係の中で、中日関係は特殊な複雑さを有する。こうした複雑さは、歴史に根ざしており、より現実に根ざしている。中日間には歴史認識と領土紛争、地政学的構造など「固有の問題」が同時に存在しており、これは両国と世界の他の大国間関係に多く見られるものではない。同時に、中日間の力関係の変化およびそれが引き起こす双方の戦略的心理の変化は、固有の矛盾と相互に激しくぶつかり合い、相互に助長し、悪循環に極めて陥りやすい。さらに複雑なのは、こうした状況はマクロなシステムの背景下で発生していることだ。従来の先進国から新興市場国家へ、西側から東側へ、「一つの超大国」から「多数の強国」へ、少なくともこの三つの次元で、過去20数年来グローバルな範囲でパワーバランスの変化が発生している。どの次元から考えても、中国は有利な立場に立っている。グローバルな範囲でパワーバランスの変化は「世界の経済や政治のアジア太平洋への重心の移動」に総合的に表されている。G7(主要7カ国)の全盛時代、日本はアジア唯一の代表だったが、G20(主要20カ国)時代の到来により、アジアの6カ国がそこに加わり、ほとんど「天下三分」の一角を占めるようになった。これはアジアの台頭、アジア太平洋の上昇を生き生きと説明している。アジア太平洋地域の情勢では、大国戦略要素は空前の濃厚さとなっており、中日二国間関係は大国の多国間戦略・駆け引きの中に深く組み入れられている。

 

歴史的、文化的原因に基づき、中日両国社会の間には絆が密集しているが、しかし国家関係と国内政治の連動度も極めて高く、中日関係は強靭さと敏感さ、ぜい弱さを持っており、いずれの面も際立っている。戦争の歴史だけでなく、戦後の歴史だけを見ても、一連の要素がこうした両面性をさらに深めている。これらの要素は主に次のようなものだ。日本に対する戦後処理の過程では中国など軍国主義侵略の被害を受けた重要な隣国が欠席していた。日本が戦後に「吉田茂路線」を取り、ここから迅速に経済を振興させて国力を回復し、社会の安定を実現したが、しかし侵略戦争の歴史に対する社会的反省運動のチャンスを逃した。新中国成立から1972年の国交正常化まで、両国間に正常な公式の付き合いが欠け、長い冷戦時代に中日がそれぞれ異なった陣営に属し、共通の国際経験が欠如していたことなどなどだ。

 

中日関係の複雑さは、「戦略的互恵関係」の理解と実施にも同じように影響しており、日本の認識と行為の間には明らかなずれが出現している。「戦略的互恵関係」にはまず「新時代が与えた両国の厳粛な使命」を基に、大国としての共同責任から出発し、世界と地域の平和と繁栄のために共に構想・実践し、世界と地域の利益を実現する過程で両国が自らの利益を実現することだ。まさに2008年の共同声明にあるように、中日は「アジアひいては世界に共に貢献し、その過程で相互に利益を獲得しまた共同の利益を拡大し、それによって両国関係を新たな高みに発展させる」である。中日の「戦略的互恵関係」には道義的基準が含まれており、決して「利」が先にあるのではなく、互恵は無原則な利益交換ではない。しかしながら日本では経済・社会の「失われた20年」と同時に、戦略的境地もほとんど失われ、「戦略」を無視しただ「互恵」を語っている。08年に東海共同開発が原則的共通認識に達したが、その後日本は何度も中国に「条約化」を催促し、「実恵」を手にすることを強く欲した。12年に安倍晋三氏が再び政権に戻ると、さらに歴史問題の基礎の上で「正常国家化」の目標を追い求め始めた。

 

「新型国際関係」は時代背景を表し、中国外交実践を導く核心的理念であり、当然中日関係にも同様に適用される。同時に、中日関係の特殊な複雑さに鑑みれば、また「両輪駆動」を必ず強調し、中日の「新型国家関係」を構築するための政治的基礎を断固として擁護しなければならない。まさにそのために、14227日に、第12期全人代常務委員会第7回会議では、国家立法によって、93日を中国人民抗日戦争勝利記念日に、1213日を南京大虐殺犠牲者国家追悼日に定め、毎年記念活動を行うこととした。13年以来、習近平氏は中日関係、日本問題について9度論述を公開したが、毎回いずれも歴史問題に言及し、中日関係の政治的基礎について言及し、「歴史問題は中日関係の政治的基礎に関わる重要な原則問題だ」「日本の軍国主義による侵略の歴史への正しい対応と深い反省は、中日関係を構築し発展させる重要な政治的基礎だ」「両国間の四つの政治文書は中日関係のバラストだ」と強調した。同時に、習近平氏は一貫して二面論と重点論の弁証法的統一を堅持し、日本の民衆と軍国主義分子を区別してきた。14年の南京大虐殺犠牲者国家追悼日の式典において、習近平氏は講話で、「われわれは一つの民族の中で少数の軍国主義分子が引き起こした侵略戦争をもってその民族を敵視すべきではなく、戦争の罪を犯した責任は少数の軍国主義分子にあり人民にあるのではない」と指摘した。

 

三、実務協力は「中日新型国家関係」構築の鍵となる部分

 

時代背景、世界の潮流、特に中国自身の根本的利益が、協力とウインウインを核心とする「新型国家関係」の方向に向かって中日関係の発展をけん引・推進するという全体的方向付けを決定した。同時に、中日関係の特殊な複雑さも、またこの目標を実現するためのルート選択とプラン立案が指向性、実行可能性を備え、オーダーメードが必要であるということを決定づけている。このうち、実務協力の拡大が鍵となる部分だ。世界経済・金融の課題に協調して対応すること、地域安全保障問題について政策対話など世界多国間に関わる「高級、堂々、上等」の協調・協力以外に、戦略的敏感度が相対的に高くない、ウインウインの特質が際立つ社会・経済分野の協力は、まず中日二国間協力を拡大すべき重点だ。その中には、大気汚染、水質汚染など環境汚染や保護問題、「ゾンビ企業」や不良債権問題、防災・減災、省エネ、食品安全、人口構造・高齢化問題などなどが含まれる。地域のインフラ整備面で中日が「世界主要経済体、アジア太平洋地域の大国」の立場に見合った世紀的で、シンボリックな協力プロジェクトを確立、実現することが考えられる。中日両国または第三国で行うことも考えられる。

 

実務協力の推進と同時に、中日両国民衆間の交際の促進に力を入れ、中日関係を「国交」がけん引するものから「社交」が支えるものへ推進すること、すなわち両国社会の間をつなぐ絆と民意の基礎を支えとすることも必要だ。1972年の中日国交正常化は、当時の国際戦略の背景下で、両国政府が実現を主導した。それから44年、中日両国社会には極めて大きな変化が起こり、特に情報化時代の背景下で、民衆、民意の外交政策への影響は空前の高まりを見せている。両国社会間の草の根レベルの深い付き合い、相互理解は、国家関係の改善に極めて重要なものになっている。習近平氏はたびたび中日友好の重要意義を強調し、「国の交わりは、民の親しむにある」ことを強調、身をもって中日民間交流促進をけん引している。20155月、習近平氏は中日友好交流大会に出席し重要講話を発表し、中日友好の基礎が民間にあること、中日関係の前途は両国人民の手に握られていることを指摘した。中国政府は両国民間交流を支持し、両国各界人士、とりわけ若い世代が中日友好事業に勇躍身を投じるよう奨励し、両国青年が友好の信念を固め、積極的に行動を取り、不断に友好の種をまき、中日友好を大樹に育て、生い茂る密林にしていくこと、中日両国人民の友好を子々孫々に伝えていくことを期待している。

 

実務協力、民間の交際の重要さは、それが協力する双方に実際的な現実の利益をもたらすばかりでなく、協力中の相互作用を通じて次第に相互信頼を積み重ねることができ、互いの連帯感、一体感を増進する効果があり、最終的にネガティブな議題が主導する両国関係の局面を、互いにポジティブな認識と積極的相互作用の好循環に向かわせることができるところにある。この連帯感、一体感は中日の政治的相互信頼、戦略的相互信頼の確立に極めて重要だ。西側の構築主義理論から見て、戦後の日米関係は戦前の敵対が今日では同盟する親友となっており、これは「認知再構成」の比較的成功した例だ。対日関係処理には、戦後の日米関係の段階的変化の過程を真摯に研究し、米国の対日戦略とその政策運営を参考にすること必要だ。

 

中日関係は目下戦略的苦境にあるが、これを難しくしている重要なポイントは相互信頼の不足であり、実務協力、民間の交際は両国間の相互認知をより深化させ、戦略的予期をさらに正確にし、そこから両国間の相互信頼の欠如を減少ないし解消するのを助けることができる。現在、中日間には認識と評価のし直しが必要で、根本的な問題が非常に多い。例えば、日本は「生きている中国」すなわち現実の中国を本当に理解しているか、いかにして本当に理解できるか、いかに正確に中国の未来を予見できるかということだ。日本は自身の軍国主義拡張という歴史的経験を持っているため、中国が「国が強くなれば必ず覇を唱える」「権力の移行には必ず血と火の洗礼が伴う」の歴史的呪いを脱し、平和的に台頭することができるかを疑っている。逆もまた然りで、戦後70年余りの平和主義の浸透によって、日本の基礎的民意、社会思潮、政治思潮の現状がどうなっているか。日本の文化的遺伝子、民族性にはなにか変化起こったのか。戦後政治体制の変革、冷戦後のグローバル化の国際環境の二重制約は、日本の未来に続く道の選択にどのような規定的作用を与えているのかなどを中国がいかに認知するかだ。

人民中国インターネット版2016年9月5日

 
 
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