担当区住民の65%が韓国人
信頼得るまでの地道な努力

 

高原=文  馮進=写真

程金栄さん(54)は北京市朝陽区花家地に勤務する「片警」。中国の「片警」はそれぞれに担当コミュニティーが割り当てられ、治安維持に尽力している。そのため、片警は担当コミュニティー内でほとんどの時間を過ごす。この片警と「刑警」は共に公安局に所属している。「刑警」は管轄区内の刑事事件を担当するが、片警は住民間のトラブルや外国人登録、戸籍管理などを担当している。このように、片警は公安局の中でも人との触れ合いが多い警官といえる。

片警の日々の仕事は細かいが複雑。程さんの担当地区は住民の65%が韓国人だからなおさらだと言う。言葉が通じない、文化も違う、その上流動も激しいなどの問題がある。現在もなお、程さんの仕事に対する挑戦は続いている。

転属先ではゼロからのデータ作り

程さんは1981年から働き始め、その後23年間、北京市公安局刑警隊(日本の刑事課に相当)の事務を担当していた。そこでは、経費申請や清算、車両管理、人事などが通常業務だった。2004年に北京市公安局朝陽区分局へ異動となり、さらに3年半働いた時、同分局からコミュニティーの警官に推薦された。程さんはこのようにして望京園コミュニティーへ派遣され、同コミュニティー担当の片警となった。「来たばかりの時は本当に大変でした。当時ここはできたばかりで住民に関するデータなど全く無かったですし、私自身も片警は初めてだったので、ゼロから一歩ずつ始めるしかありませんでした」

程さんはまず、不動産会社に行き、住民の氏名と連絡方法を一つ一つ書き写し、1世帯ずつに電話し、1戸1戸を訪問することで不動産会社の登録情報や、賃貸状況を確認していった。外国人居住者のためには外国人臨時宿泊登録の手続きをし、30日後さらに居留許可に変更する。昼間は住民が不在になるため、入居登録にかける時間は午前8時から9時半、午後3時半から9時とした。このようにして半年かけ、やっとのことで担当区の住民と借り主の基本的な情報が分かり、彼女自身のデータベースが出来上がった。

「以前は無口だったのですが、片警になってからは話さないでいるということができなくなりました。白タクが来たり、駐車している車の後ろに渋滞ができたりした時、口を開かず、注意もしなければ彼らを止めることはできません。そのため、女性片警には35歳以上を選ぶように要望を出しています。この仕事ではなんといってもさまざまな人々と関わり合う必要があるため、一定の社会経験が必要となってきます。私たちのようにある程度年齢がいっていれば、やはり若い子に比べると物を言いますし、注意もできます」と程さんは言う。

異文化を尊重し仕事をスムーズに

望京園コミュニティー内には多くの韓国人が住んでいる。程さんは韓国語が分からず仕事上で不都合を感じることが多いという。そのため、程さんはまず「こんにちは」「パスポート」「不動産」という三つの単語を覚えた。玄関先でこの三つの単語を言うと、パスポートの提示を求めていることや、仲介会社の人を呼んで説明が必要だなどとすぐに分かってもらえる。言葉が通じないこと以外にも、絶えず中韓文化の違いを経験するという。たとえば、韓国人の入居登録へ行くときには、必ず前もって時間を約束しておかなければならず、玄関先であいさつをするときにはお辞儀をし、靴を脱いで部屋に上がる。中国人はこれらに関する決まりごとは特に無いため、程さんは韓国人宅を訪問する時には敬意を表すためにこれらの細かいことに注意を払っているという。

時間がたつとコミュニティー内の韓国人主婦たちも中国語を覚えるため、双方の交流は多くなってくる。ある時、1人の韓国人女性から程さんに電話がかかってきた。彼女の娘が飼っている2匹の犬の予防注射をしたいが、場所が分からないので連れて行ってほしいという。程さんは「正直な話、犬が怖いんです。しかもあの2匹はけんかをして一緒に歩かなかったんです。彼女は私に1匹を抱かせたのですが、私が抱っこできるわけありません。恐る恐る抱っこしましたが結局はひっかかれてしまいました。もちろんこれは私の仕事の範囲外です。でも彼女に私の助けを必要とされた以上、今後の仕事がスムーズに行くように痩せ我慢するしかありませんでした。その後、彼女とは友達になり、犬との接し方も教わりました」と言う。

息子の受験期も仕事を優先させた

片警になって8年、程さんは自分が強くなり、彼女なりの考えを持つようになったという。以前は夜遅くに一人で入居登録が必要な家を訪問するとき、真っ暗な廊下を抜けて見知らぬ人の家に行くのは気が引けた。今ではコミュニティーでのもめごとや訴訟に遭遇したときにはすべて彼女一人で双方の住民を呼び出し、仲介会社と話し合いをして、それぞれの妥協点を見つけて調整したり、問題解決の最終期限を決めたりする。また、中国人と韓国人の近所付き合いでの対立を適切に解決もする。住民はすでに、最も信頼がおけ、問題解決のできる人物だと程さんを見ている。

この8年間、程さんはほとんどの時間を片警の仕事に費やしてきた。そのため、家族に対して申し訳ない気持ちがあるという。特に息子が大学受験の年、毎日のように当直があったため、息子は作り置きのジャージャー麺を食べるしかなく、また勉強を見てあげる人もいなかった。試験が終わってから、息子は泣きながら「ママ、できなかった」と言ったという。しかし、程さんは「だからってどうしようもないでしょう、行きたい学校じゃなくても行きなさい」と答えたという。息子は現在は仕事も問題なく、結婚もしているが、ことあるごとに当時のことに触れるため、程さんは息子に対する負い目に何度も胸を痛めるという。

「事務を担当していた頃は、何かあると休暇を取っていました。でもコミュニティーの仕事は抜け出すことができません。夫は退職後、自分で店を持ったため、やはり息子に構っている暇はありませんでした。夫と息子は反りが合わず、私が仲裁に入らなければなりません。外では仲裁人、家の中でも仲裁人でした。若い頃は自分よりも年上で、自分なりの考えをきちんと持っている男性と結婚し、良妻であればいいと考えていました。でも、以前考えていたことと今とではまるで違うんです。今の一番の希望は退職後、夫と息子の面倒をきちんとみることです」と程さんは言う。

 

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