日本就労の夢をかなえる 貧困脱出のため職業訓練

 

高原=文 馮進=写真

 

 「精準扶貧(細やかで的確な貧困対策)」は習近平国家主席が2013年に湖南省を視察した際に打ち出した新しい概念だ。しかも、「第135カ年計画」の中でも重要な位置を占めている。この概念は、労働者の技能を向上させることで、新たな就職への道、豊かになるための道を切り開き、貧困層の貧困脱却を促すことを目的としている。

 重慶市の農村部出身の王中維さんは、貧困地域の若者が苦境から抜け出すためには「学習」と「広い視野」がいかに重要かということを十分に理解している。そのため、王さんは中国貧困扶助開発協会と協力して、2012年から「啓程計画」に取り組み始めた。この計画を通して中国の中西部貧困地域の若者を対象に無料で職業訓練の場を提供する上に、彼らの技能強化と視野を広げることを目的として海外への派遣を行っている。

 

西部地域で新入生獲得

 

 王さんは1994年に安徽省にある淮北石炭学院の英語学科を卒業した後、妻のふるさとである江蘇省如皋市にやって来た。「大きな川の河口両岸は均等に経済が発展していくことが分かっています。例えば、珠江デルタや米国のマンハッタンなどが挙げられます。でも、長江だけは例外だと言わざるを得ません。長江の北側にある如皋市と南側にある上海市との経済格差は大き過ぎます。しかし一方で、如皋市には非常に大きな潜在力が眠っていることを意味してもいるのです」と王さんは言う。この如皋市に来てから、王さんは労働力輸出事業を展開している国営企業に勤めていた。その後、2002年に国営企業の所有権改革が行われたため、王さんと同僚の7人が共同で会社を買い取り、蘇中江人的資源サービス有限公司(以下、蘇中江公司)を設立した。

 国営の時と同じように、この会社でも中学を卒業した若者を対象としている。そして、中等職業訓練を終えた彼らを労働者派遣という形で海外に送り出している。しかし、2012年から新入生の獲得が徐々に難しくなっていった。王さんによると、その原因は地元の経済成長にともない、生活が豊かになり、海外で出稼ぎをしようとする人が少なくなったからだという。しかも、現在では海外留学が当たり前となり、職業訓練を経て海外へ労働者として派遣される道を歩もうとする人はほとんどいなくなった。そんな時、王さんは西部地域に目を向けた。

 王さんは勉強や仕事のために10代から家を離れていた。そのため、ふるさとは遠くて馴染みのない場所となってしまっていた。重慶市や貴州市などの西部地域へ新入生を募集しに行った時のことについて、「実際に行って、初めて中西部と沿海地域との格差の大きさを肌で感じました。そこで生活をしている若者たちは、国を出て働けるということを全く知りませんでした。彼らの親もまた、子どもが海外で3年も働けば20万元(約340万円)以上稼げることを信じませんでした。西部の貧困家庭にとって、20万元という金額は家族全員の運命を変えることができるほどの大きな金額なのです」と王さんは言う。

 

誰もが喜ぶ「啓程計画」

 

 王さんは2013年から西部地域に場所を移し、中国貧困扶助開発協会と共に「啓程計画」を始めた。応募してきた貧困地域の若者は、まず、同公司が契約を結んでいる地元の職業専門学校で職業訓練を受ける。訓練終了前に如皋市の企業で1年間実習した後、技能検定試験に合格しなければならない。合格後は、日本語教育を受けてから日本へ赴き、アパレル加工、水産、機械電子、農業などの業種で働くことになる。海外に出たくない場合には、如皋市で就職したり、ふるさとに戻ったりしても良い。このように派遣にまで至らなかった場合でも、蘇中江公司が研修生に必要経費を請求することはない。

 以前、国務院貧困扶助弁公室は貧困地域の働き盛りの人々を対象に「雨露計画」を打ち出したことがある。これは主に技能訓練と就職訓練の提供を目的としていたが、若者の雇用問題を解決にまで導くことはできなかった。その点、「啓程計画」は貧困脱却を支援する上でより良いモデルを提供したといえる。

 「中国で事業を展開したいのであれば、個人の夢を会社の夢と、ひいては国家の夢と結び付けないことには達成できないと思います。現在の『啓程計画』は多方面に利益をもたらす事業ということができます。若者は教育を受けることができます。また、働くことでお金を得ることもできます。彼らが実習生として如皋市に行くので、如皋市の労働力不足の問題が緩和されます。日本側では企業の需要が満たされ、そして私の会社もまた、成長することができます。もちろん、中国の貧困脱却にもつながります。この計画に関わる全ての人に利点があるのです」

 

期待に胸膨らむ日本派遣

 

 蘇中江公司の研修室で出国を目前に語学教育を受けているあどけない顔の研修生たちは、未来への希望で満ちあふれている。貴州省出身の研修生の中には、日本は遠過ぎるからと両親に反対されたが、外の世界を見るために応募したという若者が少なくない。日本語の先生に将来の夢について聞かれると、通訳者になりたいとか、起業したいなどと答えている。彼女たちは日本での滞在経験が自分の未来に、より多くの可能性をもたらしてくれることを期待しているのだ。

 研修生宿舎の入り口からは、日本式の下駄箱や玄関が見える。また、廊下には日本の安全啓発ポスターが貼られており、各部屋のドア上には日本語で、例えば「図書館」などといったプレートが付けられている。このように、研修生が日本での生活に慣れるように、教室の中だけではなく日常生活においても訓練は行われている。

 今年、「啓程計画」を通じて日本に渡った西部地域からの研修生の第一陣が戻って来る。これまでに帰国した江蘇省の研修生の中にはアパレル加工工場を創設した者もいれば、留学のために再度訪日し、日本の大学で経済学の修士号を取得した者もいる。彼らは「啓程計画」に参加した若者たちの良い手本となっている。

 「啓程計画」は現在に至るまで、貴州、重慶、河南、湖南、湖北、甘粛、山西、黒龍江などの省直轄市で地元の職業専門学校と提携し、そこでの職業訓練、そして、様々な研修を終えた中国の若者たちを日本の北海道、沖縄以外の各都府県に派遣してきている。

 
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