「一帯一路」と日中関係を考える

ジャーナリスト 木村知義(談)

 

木村 知義

(きむら ともよし)

1948年生まれ。

21世紀社会動態研究所(個人研究所)主宰。多摩大学経営情報学部客員教授。元NHKアナウンサー。1970年NHK入社。報道、情報番組を担当。アジアをテーマにした番組の企画・制作にも取り組む。1990年中国放送大学「日本語講座」制作協力で訪中。

5月14日と15日の2日間にかけ、国際社会に向けて「世界のあり方」について共に考えるためのプラットホームとする「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが北京で開催された。長年にわたって中国とアジアを注視し続けてきたメディア関係者として、学者や専門家とは異なる視点から「一帯一路」イニシアチブと現状の日中関係について語ってみたい。

21世紀を変える力を持つ「一帯一路」

「一帯一路」の構想を、私は「壮大な物語」と見ている。閉塞感に覆われ、未来の方向性が見えない現代世界において、「一帯一路」の持つ、人々に未来に展望や夢を抱かせる力に魅力を感じた。

賛否はあるが、冷戦時代の遺物「地政学」が息を吹き返してきたと言われている。地政学の世界では「一帯一路」の中の「一帯」、つまり陸のシルクロードは「歴史の回転軸」「ハートランド」と呼ばれ、世界の覇権争いに重要な地域として対立や抗争の火種が絶えなかった。しかし「一帯一路」は旧来の対立や紛争を乗り越え、この地域で協力、共同建設、平和的発展の物語を描こうという構想により成り立っている。

その考えを明確に表わしているのが、2015年に中国国家発展改革委員会、外交部、商務部が共同で発表した「『一帯一路』のビジョンとアクション」という文書である。「2000年あまり前、ユーラシア大陸の勤勉で勇敢な人民は、アジア、欧州、アフリカの文明を結ぶ複数の貿易と人文、交流のルートを探り出し、後世の人はそれをまとめてシルクロードと呼んだ」という書き出しから「何百何千年来、平和、協力、解放、包摂、相互学習、参照、互恵、ウィンウィンというシルクロード精神は連綿と受け継がれ…」と続く文言に私は驚き、興味を持って読み進めた。

はるか昔、遠くエジプト、ギリシャ、ローマ、イラン、中国の西域と続くシルクロードから宝物が届けられたことから、奈良の正倉院はシルクロードの東の終点とも呼ばれている。つまりシルクロードは日本人にとっても、夢を感じさせてくれる場所なのだ。私の感じる「一帯一路」はそんなイマジネーションを刺激する壮大な物語であり、さらにこの場所を平和的経済発展の地域と定めることで、これからの21世紀を大きく変えていく力と可能性が秘められていると考えている。

変わりゆく「力による秩序」

20世紀の世界は、米国が唯一の覇権国として差配し、戦争や紛争などの「力の秩序」をもって成り立っていた。平和的な環境で世界の仕組みを変えていこうとする壮大な転換点に立つ現代は、まさに「世界史的大転換の時代」と言えるだろう。

そして世界は今、「中国の衝撃」の時代に生きていると私は考える。「中国の衝撃」とはいささか強烈に聞こえるかもしれないので、中国の歴史的立ち位置から説明を加えよう。古代からある時期までの中国は文明文化の中心で、国力も大きかった。しかし近代以降の中国は半植民地下で苦しみ、世界に「自分たちよりも遅れた国、苦しんでいる国」とイメージされつづけることとなる。ところが近年になって中国の国力が増し、近代以降初めての「大国」に変貌したことが、「大国・中国」の姿を見たことがない世界に、また中国自身にも衝撃を与えているということだ。日本で高まる嫌中意識は、まぎれもなくこの「中国の衝撃」に対峙する方法や自分の立ち位置がわからない人々が、中国のネガティブな側面を探そうとする行為の表れだと私は見ている。

しかし日本はここを抜け出ないと、新しい時代は見えてこないだろう。経済規模が中国に抜かれてしまった今、従来の「遅れた中国、進んだ日本」という意識を捨て、今後の日中関係をどう構想していくかが問われる重要な時期に差しかかっているのだ。両国を上下関係で語らず、水平的な関係をどう構築するのかという、非常に難しい問題に直面しているのが現在の日中関係である。

今までは国土の大きさや経済力など、力のある者が圧倒的に物を言いやすい時代だった。今後は物の考え方や価値観、政治や社会の仕組みの異なるものたちが、力が小さくてもひねくれず、率直に議論し、水平的な関係を結んでいく時代に変化するだろう。対立はしても、協力や協調ができる関係性の構築という大きな宿題が今、私たちに課せられている。日中関係も同じだ。国土も大きく、経済力も国力も大きくなっている中国が、その背景をもとに日本に対して物申すようなことはあってはならず、日本は中国に対していたずらに卑屈になることなく、水平的関係を構築する方策を考えるべきだ。新時代に向け、中国は「秩序を作る一員として参加する」と明確に言ってはいるものの、「世界を支配する」とは一度も言っておらず、「一帯一路」の「みんなで一緒に考えましょう」という基本理念がそれを物語っている。ただ力のあるものに従っていればいいという「一国の秩序」を基準とする時代から、国力に関係なく意見を交わせる「水平的な関係」を構築する時代に入った場合、それぞれが発言に責任を持ち、責任を果たす覚悟はあるのかが各国に問われることになるだろう。

「正常な関係」とは何か

今年は日中国交正常化45周年の節目の年という理由か、「正常な関係の回復を」という声があちこちから聞かれる。しかしそもそも「正常な関係」とは一体何なのだろう。

近代以降の日中関係構築において、過去、果たして正常な関係を築くことに成功しているか、そんな時代があったのかと問われたら、まだまだ足りないという答えが導きだされはしないだろうか。私は「成功したとは言えない」か「あまり成功していない」のどちらかだと思っている。つまり日中関係構築は、「過去のどこかに完成した正常な関係があった」わけでは決してなく、「まだ答えをきちんとつかんでいない未完の課題」なのだ。そして正常な関係構築のためには、良好な関係を目指そうというモチベーションの維持と情熱が必要と考えれば、自ずと目標が見えてくると私は考える。その角度から再度日中関係を考える場合、日中国交正常化以来最悪の日中関係と言われる中にあっても、経済分野に属する人々が静かに、着実に仕事をしていることに着目すべきだろう。

そこで私は中国の13次五カ年計画にヒントを得てはどうかと提案したい。13次五カ年計画には、イノベーション駆動による発展戦略、産業のミドルハイエンド水準へのまい進、農業の現代化、都市農村の協調発展、グリーンな生産方式、生態環境の改善と、いずれも日本がかつて経験した、あるいは現在抱えている問題で、日本が乗り越えてきたものも含まれている。今後の中国の方向性を示したこの13次五カ年計画をしっかりと勉強すれば、今後の協力のための具体的なプロジェクトや目標の「種」を見つけることができるだろう。他にも中国で進む少子高齢化社会など、協調して解決できる問題はまだまだあるはずだ。具体的な構想を持つことで、日中関係を正常かつ良好な状態に保つモチベーションにつなげ、日本の技術や知識の活用をすることで日中関係の発展が期待され、双方にメリットが生まれる。長年経済の停滞に苦しむ日本が積極的に具体的プロジェクトや目標を見つけ、中国と手を携える提案を持ちかけることで、経済の停滞から脱出できる活路のひとつになるはずだ。「一帯一路」構想には、そのヒントを得るためのキラキラ光る「種」がたくさん散らばっている。やはり日本にとっても重要なテーマであり、夢と希望を託せる構想だと言えるだろう。(構成=呉文欽 写真クレジット=于文)

 

 

 人民中国インターネット版  

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850