時間と伝統が生む山の珍味

 

味覚の記憶

全さん(54)と彼の息子の子恒さん(27)が今年の立春前に薫製した肉の出来具合を調べている。子恒さんが山から新しい木材を取ってきて、全さんがそれをちょうどいい大きさの薪にして、いろりに入れる。火の勢いが強くなり、揺らめく炎が全さんの顔のしわを照らす。朗らかな笑顔を見せながら全さんは言う。「薫製に使う木材は硬い木がいい。例えば、茶やヤマモモの木です。たまに松かさや柑橘類の皮なども入れます。そうすると臘肉に茶や果実の爽やかな香りが付きます。私たちの自家製の臘肉は1カ月から1カ月半ほどかけて作りますから、外で1週間で作っているものとは口当たりが比べ物になりませんよ」。目の前で薫製中の臘肉は、あと数日すれば降ろして貯蔵できる。しばらくすると、そのうちの大部分は大都市の食卓に上がることになる。

 蒸した薫製の盛り合わせ。最大限に薫製の香りを残す、有名な湖南料理の一つ

息子の子恒さんは数年間、村のほとんどの若者と同じように出稼ぎに出て、上海で物流業に従事していたことがある。おととし、彼は仕事を辞めて父親の元に戻り、農業を手伝い、臘肉の薫製の技を学ぶようになった。昨年、彼はタオバオ(淘宝網)でネットショップを開き、自家製の臘肉と張家界の特産品を売り始めた。「最初は全然売れませんでした。でも後から徐々に、口コミで常連のお客さんが付くようになったんです」と照れたように笑う子恒さん。「今は主にこれを頑張っています。どんどん良くなっていけばいいなと思っています」。この後彼はオートバイに乗り、1時間半かけて町の郵便局に荷物を持っていかなくてはならない。前日ネット上で新たに受けた注文の品である。

たそがれ時、家々の瓦屋根からうっすらと煙が立ち上り始める。山里の人々が拾い集めた薪を使って夕飯を作り始めると、木の香りと米を炊くにおいが山の斜面にゆっくりと広がる。全さんが保存していた臘肉をひと塊持ってきた。まず炭火で皮を焼き、それから米のとぎ汁できれいに洗う。きらきらと光る薄切りにして、ピーマンと一緒に強火で炒める。ピーマンの皮に色が付き、臘肉から出た黄色い油が鍋の中で止めどなく小さな泡を出すと、本場の「農家のピーマンと臘肉の炒めもの」の出来上がりだ。炒められたピーマンと臘肉の香りが漂って、食欲がそそられる。箸で臘肉をつまんで口に入れる。油気はあるがくどくなく、香りがよく、歯ごたえがあって、本当にまたとないご飯のおかずだ。

純朴な山里の人々にとって、臘肉は単なる食べ物ではない。年月の中に保存された生活と記憶なのだ。

 この辺りではどの家でも玄関前にこのような竹かごを掛け、タウナギ捕りに使っている。夜に水田に仕掛け、翌日の朝に収穫する。タウナギは油がのっておいしく、気を補い炎症を鎮める効果がある

 

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王家坪原生態古村寨 (原始風古村落)

所在地/湖南省張家界市永定区王家坪鎮石堰坪村

交通/張家界バスターミナルで沅古泙鎮行きの定期バスに乗り、沅古泙鎮到着後、マイクロバスに乗り目的地へ。車なら市街地から約1時間40分。

 

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