第19回党大会を前に考える中国と世界

ジャーナリスト 木村知義=文

米国単独覇権の終焉

前回党大会からの5年、世界はどう動き、中国はどう歩みをすすめたのかをふり返るとき、世界のもっとも大きな環境変化は米国にトランプ政権が誕生したことではないだろうか。トランプ政権の登場によって「予測不能」、「混乱」はたまた「迷走」という言葉がメディアを賑わせる。トランプ大統領への評価、見方はさまざまだが、一つだけ確かなことがある。米国単独覇権が決定的に揺らぎ始めたということだ。すなわち、世界は米国単独覇権の終焉の時代を生きることになったということである。

トランプ米大統領は19日、ニューヨークの国連本部で行った就任後初の一般討論演説

直近の国連総会での演説における「私は米国大統領として、常に米国を第一に考える。世界の中で米国が過分な負担を背負わされることを認めない」という言及にもそれは表れている。「アメリカファースト」というトランプ大統領のスローガンは従来型「覇権」の放棄という姿勢と表裏をなすものである。

米国が従来型「覇権」の放棄に向かう状況が一時的なものであり、いずれ軌道修正するか単独覇権に戻るという観測がないわけではない。しかし、もはや時代がそれを許さない段階に来ていることを、厳然たる事実として認識しておかなくてはならない。

中国が示す新たな世界像

そこで、中国はどう歩みを進めているかである。

我々が見ておかなければならない指標として、最低限だが、2015年開催の18期党中央委員会第5回全体会議で決定された「第13次5カ年計画」、「一帯一路」構想と今年5月開催の「一帯一路」国際協力サミットフォーラム、そして「上海協力機構」と直近の第9回「BRICS首脳会合」を、大きなひとつの文脈の中でとらえておくべきだと考える。

「一帯一路」構想、とりわけ陸のシルクロードベルト、「一帯」が対象とする地域は、地政学的に「歴史の回転軸」「ハートランド」と呼ばれ、世界の覇権争いにおける対立や抗争の火種が絶えなかった地域である。しかし構想では、この地に連綿と息づく「平和、協力、開放、包摂、相互学習、参照、互恵、ウインウインというシルクロード精神」を今によみがえらせ、実現しようというのである。旧来の対立や紛争を乗り越え、この地域で協力、共同建設、平和的発展の物語を描こうという、壮大な「夢」をわれわれに語りかけている。ここを平和的発展の地として協力、共助を実現できれば、21世紀の世界像を大きく変える可能性を秘めている。

 第9回BRICS首脳会議 が9月3日から5日まで、福建省厦門(アモイ)市で開催された

BRICS首脳会議では「パートナーシップを深め、さらに明るい未来を切り開く」と力説されただけでなく、BRICS+(プラス)として他の新興国、途上国にウイングを広げていく展望が示された。習近平主席の基調演説にある「異なる発展の道とパターンを尊重し合い、互いに配慮し合い、戦略的な意思疎通と政治的な相互信頼の増進に全力を挙げ、協力していく中で、信頼醸成と疑念の払拭に努めさえすれば、協力の道は進めば進むほど安定してくる」「多国間主義を断固維持し、国際関係の民主化を推進し、覇権主義と強権政治に反対しなければならない。共同、総合、協力、持続可能な安全観を提唱し、地政学上の争点となる問題の解決プロセスに建設的に参与し、しかるべき役割を発揮しなければならない」という提起には、これからの新たな世界像を構想する際にもっとも基本となすべき世界観が鮮明に語られている。めざすべき世界は、従来のような強大国の覇権によって形づくられた秩序ではなく、「ひらかれた多元的パートナーシップによって結ばれた世界」という、新たな世界観と価値観によって創りあげられるべきだという力強いメッセージである。

このように、「一帯一路」と「BRICS」ないしは「BRICS+」という大きな構図で、まさにグローバルな広がりで、世界秩序の形成者としての中国の存在が見えてきたということだ。中国がグローバルガバナンスの形成者として役割を果たすということ、その際、平和的発展と協力、開放、互恵、ウインウインというパートナーシップを基底に据えるということは重ねて注視しておく必要がある。

今始まっているのは、衰退する覇権に新たに台頭する覇権がとって代わるという旧来の「覇権循環型」の覇権交代ではなく、新たな世界の姿をめざす胎動だというべきである。戦火を契機とせず平和的に新たな世界秩序を創造するという、過去の歴史では経験したことのない「未体験ゾーン」に足を踏み入れているということだ。しかし、旧秩序とその下での世界観や価値観をこえていかなければならない営みとなるがゆえに、抵抗、摩擦も生じ、困難を伴うことはいうまでもない。しかし、このようにして歴史はひらかれていくことを、われわれは知る必要がある。

 

1   2   >>  

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850