匠の精神を伝承し伝統に

王焱=文

社会の発展に伴い、技術を持つ人材はますます重視されている。2015年5月1日から中国中央テレビ局で放送された『大国の匠』というドキュメンタリー番組は、異なる業界から8人の労働者を取り上げ、彼らが専門技術の奥義を求め続け、最終的にそれぞれの分野において欠かせない「国宝級」人材になった物語を紹介した。中国宣紙有限会社の紙すき職人である周東紅さんもその1人だ。

人気を博した伝統工芸

宣紙は唐代から製造が始まった安徽省宣城涇県の特産品で、地元の3年生の青檀樹皮と砂地で育てられた稲わらを原料としている。06年、その製法は中国第1弾の国家級無形文化遺産に登録された。

紙すきの作業場で、周東紅さんは同僚とそれぞれ紙料いっぱいの水槽の両側に立ち、漉簀の一端を一斉に持ち上げてから素早く水槽に入れて、薄い紙1枚分の紙料をくみ取る。そして空中で数秒間静止し漉簀から紙料を取れば宣紙の原型の出来上がりだ。一連の工程はわずか10秒にも満たず、1回の汲み取りと1回の持ち上げだけで1枚の宣紙の優劣や厚さが決まる。

「漉簀を水に深く入れすぎると、紙は厚くなりすぎてしまい、逆に浅いと紙は薄くなりすぎてしまいます。均等に力を入れることができないと、厚さのばらつきや穴が出るので、それは捨てるしかないです」と周さんは話す。「最も難しいのは紙料の濃度をコントロールすることです。紙を1枚すくたびに、水槽内の紙料の濃度が少し低くなりますが、紙すきの職人は1枚1枚の紙の分量を均等にしなければいけません。全ては手の感覚が頼りです」

この仕事を三十数年やってきた周さんが今最も気になっているのはいかに引き継いでいくかということだ。「紙すきの技術の習得は辛くて退屈で、朝は早起きし夜は遅い時間に寝る必要もあり、そもそも習いたいという人が昔から多くなく、やり続けてきた者はさらに少ないです」

 同僚と紙をすく周さん(左)(写真・王焱/人民中国)

『大国の匠』が好評を博した後の16年と17年の政府活動報告ではさらに「磨きに磨きを重ねる(5)匠の精神の育成」と「匠の精神の発揚」を打ち出し、匠の精神を社会全体の価値観の指針とし、時代精神のレベルまで格上げし、宣紙の製法をはじめとする無形文化遺産の伝承を促した。現在、より多くの若者がその名を慕ってやって来て、宣紙の製法を習うようになった一方、中国宣紙有限会社も熟練の職人が新人を育てることを奨励する制度を打ち出している。こうして、周さんも伝統工芸の伝承者としていっそう誇りを持つようになった。

政策が伝承をバックアップ

宣紙だけではない。伝説によると、紀元前223年、秦の蒙恬将軍は宣城涇県を経由する際に、ここのウサギが健やかに育ち、長い毛があることに気づき、竹を軸とする従来の竹筆を基に先端にウサギの毛をつけた毛筆を作った。涇県はそれから次第に筆作りの中心地となり、ここで作られた筆は「宣筆」と呼ばれるようになった。宣筆は主に3種の毛を使う。羊の毛で作られたものは羊毫筆といい、イタチの尾の毛で作られたものは狼毫筆といい、そしてウサギの毛で作られたものは紫毫筆という。科挙制度が盛んに実施されていた古代中国で、競って見栄を張る気風を持つ読書人の影響によって、宣筆は頭角を現すようになり、四大名筆の一つとして名をはせた。しかし現代に入ると、宣筆は日常における実用性を失い、一時期市場が低迷し、その製法の伝承も窮境に陥った。1本の宣筆を作るには、108の工程が必要で、製造過程は大変苦労を要するばかりか、ほとんどが経験頼りだ。見習いは普通、数年間の実践でようやく把握できる。そのため、地元の多くの若者はこの技術を習うより、出稼ぎに行きたがる。

しかしこの数年で状況は変わり始めた。同省政府の支援の下で、地元は伝統工芸美術保護・促進協会を設立し、同業者の交流を組織し、メディアに報道するように働きかけ、政府が伝統工芸の保護と発展を促進するための政策を制定・公布するように提言を行った。

現地の三兎宣筆有限会社は国家級無形文化遺産に登録された宣筆の製法と二十数人の製筆師を有している。総経理の伍森厳さん(55)は次のように語る。「かつてこの職は仕事が大変で、給料が少ないため、若い見習いを確保することが難しい一方、ベテラン職人も指導する意欲がありませんでした。党の18大以降、政府は非常に有力な保護政策を多数制定し、プロジェクト制の形で、研修基地の建設と教材の編成・発行を奨励し、ベテラン職人と見習いに手当てを提供するようにしました。それに、メディアの報道によって、社会もますます伝統工芸従業者を尊敬するようになりました。こうして職人と見習いのモチベーションが上がりました。ほかの人のことは分かりませんが、私が省級無形文化遺産伝承者に認定された後、手当ては年々増えており、しかも終身制で、非常に大きな励ましだと思っています。3人の子どもはかつてよその地で働いていましたが、現在は全員帰ってきて筆の製法を習うようになりました。私は宣筆文化パークの建設を政府に申請しています。数人のベテラン職人を招いて教材の編成に取り組んでいますが、社会に向けて生徒を募集し、より多くの人材を育成しようと思っています」

新時期に新発展

景気も好転し始めている。従来の注文方法以外に、三兔社はまたネットショップを開設した。メディアで情報を知った多くの観光客も記念のために宣筆を買い求めにやって来る。より心強い後押しは国が18大以降に打ち出した一連の伝統文化教育の保護と促進に関する政策だ。「かつては自分がやっているのは非常に卑しい仕事で、衰退産業(6)だと思っていました。しかしこの二、三年、私たちは各級の政府が伝統文化を保護する力強さを肌で感じています。例えば、専用保護金について、上から下まで監督体制があり、全ての経費が実際に必要なところに利用されるように確保されています。私たちはこの業界が春を迎えたと見ています」と伍さんは言う。

安徽省産の徽墨も古来より中国の伝統技法で作られる墨の珍品とされてきた。これも伝統文化の復興に恵まれ、地元の人気産業となり、さらに日本や韓国にも輸出している。新時期の中国における匠の精神はこうして市場経済の下で「中国製造」と融合し、中国の伝統文化と工芸の伝承と発展を実現し続けている。

 

人民中国インターネット版

 

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