観光で生まれ変わる古村

王焱=文

真っ白な紙と真っ黒な墨は中国山水画の色調を打ち立てたとともに、安徽省の民家の白い壁と黒い瓦の色彩も生み出した。社会と経済が飛躍的な発展を遂げる今日、いかにして現地の青々とした山と澄み切った川が織り成す自然環境と原始の姿を残す村を保存するのかが現地でとりわけ重視されているテーマとなっている。

中国の田舎の原風景

「桃花潭水深千尺,不及汪伦送我情(桃花潭の水深は千尺というが、汪倫が私を見送る情の深さに比べたら及ばない)」。これは唐の詩人李白が残した詩だ。詩に歌われた安徽省宣城市涇県の桃花潭鎮から20㌔離れた場所に、桃源郷を思わせる査済村という村落がある。ここは中国で現存する最大規模の古村落の一つであり、今でも40余りの橋と30のほこらや四つの廟が残っている。

建物が修繕された村は今では人気観光地だ(写真・王焱/人民中国)

 騒々しい都会を離れたい人にとって査済村はまごうことなき絶好の土地だ。村落は緑豊かな山々に囲まれ、木陰をなす木々が生い茂る。村をゆっくりと流れる3本の小川の上流から下流まで家屋が軒を連ねている。黒光りする瓦に灰白色の徽派建築の特色を残す馬頭壁(火事の広がりを防ぐ壁)が居並び、花崗岩を敷き詰めた石畳が村の通りや小道にまで広がっている。村人たちは樹齢数百年の巨木の下でのどかに1日を過ごす。1頭のウシと1羽のシラサギが田んぼを歩き回り、2匹の犬が追い掛け合っている。そこからさほど遠くない場所で、村の女性が川岸の石畳の上にしゃがみこんで洗濯物を棒でたたいて洗っており、辺りには千年間変わらない音が響き渡る。

このような自然と人間が一体となった悠々自適な生活風景は過去に何度も滅亡の危機に直面した。近代以降、村は幾度も戦争や動乱の被害を受け、多くの文化財や歴史的建造物が破壊された。

環境保護に目覚める村人

かつて査済村の党支部書記だった王兆蘭さん(77)はこう語る。「10歳ぐらいのときに査済村に移り住みましたが、そこで久しく修繕されていない古びた橋やお堂が打ち捨てられているのを目の当たりにしました。田畑は非常に少なく、交通も閉ざされ、村人は困窮していて修理するお金がないどころか、ほこらや廟の木彫りの美術品を盗んで売りさばく人すらいました。村のあちこちに汚いごみが散乱していて見るに堪えない光景でした。私は昔からいる数人の村人と、このままではいけないと思い、1990年代末に27人の村人に呼び掛けて自発的に文化財保護協会をつくり、各自20元ずつ出し合って資金としました。当時はそのお金も小さな額ではありませんでした」

協会設立後、倒壊する恐れのある古い建築物の統計と補修を始め、文化財の窃盗も徐々になくなった。それから協会は村人に川さらいを始めさせた。「当時はみんなが川をごみ捨て場にしていて、一般ごみも建築廃材もそのまま捨てていました。われわれは村で広報活動をし会議を開いて、学校の教師や生徒、熱心な村人と共に3日かけて川のごみを全て拾いました。中には80歳以上の老人もおり、自分は川に行けないからと自宅のニワトリが産んだ卵を売って、募金してくれました」と王さんは教えてくれた。

だが王さんたちは村人自身の力だけなら古い建築物の一部しか修繕できず、もし本当に補強工事をするのであれば大枚をはたいて外部からプロの職人を雇わなければならないということが分かっていた。

村の風景が絵画の題材に

王さんは観光業でお金を稼ぐことを考えた。県の人民代表大会で提案を出し、どのように実施し、またどのように保護するのかを話した。「県文化局も私たちを支持してくれましたが彼らも資金はないので、1枚5元の入場券を刷り、私たちに販売の許可をくれました」と王さんは当時を振り返る。

政策が支持されると、王さんたちは大々的に作業に取り掛かった。メディアで大きく宣伝する中、評判を聞いた観光客が続々とやって来て、査済村は徐々に安定的な観光収入を得るようになった。特に2012年以降、現地政府が査済村のために多くの優遇政策を発表した。現地政府の届け出を経て、関連部門は査済村を国家4A級観光地と全国重点文化財保護対象に指定し、『中国伝統村落リスト』に登録した。

「お金があれば古い建築物も修繕できます。村のごみも人を雇ってまとめて回収し、遠くにある適地に埋め立てています。村人の医療保険も入場券の収入で納めています。どんどん訪れる観光客が村で消費してくれるので、村の外に働きに出られなかった村人が旅館や売店を経営して収入を得ています。みんなが利益を得たおかげで、ますます自覚的に村の環境を保護するようになりました」と王さんは語る。

査済村の風光明媚な景色と素朴な習俗にひかれて毎年多くの画家や美術学校の学生がスケッチに訪れる。観光客がますます増えていく中でも、村は環境保護に対して手綱を緩めたことはなく、道端では筆を洗った水や不要な絵の具の廃棄に備えた「絵の具回収容器」と書かれたバケツがどこでも見かけられる。

生まれ変わった査済村の例は特別ではない。12年以降、中国政府は全国各地の伝統的な村落を調査し、すでに数千に及ぶ村落が『中国伝統村落リスト』に登録され、国家の財政サポートを得ている。将来、人々が恋しさを覚える査済村のような場所がもっと現れるだろう。

 

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