貧困からの脱却に新戦略

沈暁寧=文

中国西北部の青海チベット高原と黄土高原の境目にある青海省西寧市は自然環境や交通条件の影響で、一部の農村地域に貧困問題があり、これをいかにして根本的に解決するのかが、長年西寧市党委員会と市政府の悩みの種となっている。

2012年11月の18大で、習近平総書記は「2020年までに小康社会(ややゆとりのある社会)を全面的に実現する」という偉大な目標を掲げた。その中で、全国民の貧困脱却の実現はこの目標を検証する鍵となる指標となっている。それに向けて、中国政府は「的確な貧困救済」と「貧困救済幹部の農村入り」という戦略を採り、貧困撲滅の堅塁攻略戦(7)の進軍ラッパを打ち鳴らした。その過程で、西寧市の貧困脱却の状況に決定的な変化が起きた。

荒れ山を豊かな花園へ

西寧市から東南へ約35㌔離れた山奥にある湟中県田家寨村は、長い間、政府が頭を悩まし、民衆が眉をひそめるほど深刻な貧困状態にあった。しかし、人々は昨年、村に1000ムー(約67㌶)の農業観光栽培パークができていることにふと気がついた。種類が豊富で高品質な農産品と麗しい景色はのんびりとした農村生活を体験したい数多くの人々を引き付けた。昔日の「貧しい山村」はあたかも西寧の花園へ生まれ変わったようだ。

田家寨村の大変身の物語は、蔡有鵬という一人の男のことから語らなければならない。蔡さん(46)は早くから出稼ぎに出て、自らの力で建材工場を設立し、暮らしもだんだんと豊かになってきた。しかし、帰郷した彼が見たのはいまでもまだぼろぼろの日干しれんがの家に住み、一日三食全てジャガイモだけだという同郷の仲間の姿だった。彼らの境遇に心を痛めた蔡さんは、みんなを貧困から抜け出させ豊かにしようと決意した。

蔡さん(右)は時間があれば「千紫縁」のクコ畑を見回り、生産状況を確認し人々と交流する(写真・沈暁寧/人民中国)

14年、田家寨村の党支部書記に当選した蔡さんは、ふるさとで特色のある農業を発展し、先祖代々小麦とジャガイモの栽培だけをしてきた村人たちの生き方を一新しようと考えた。15年、さまざまな調査を経て、彼は川原のアルカリ土壌の土地で花も咲かず実もならないクコを栽培し、その葉と芽を使って栄養価が高く収益も大きいクコの葉茶をつくるよう村人にアドバイスした。村人はそれが良いアイデアだと思ったが、クコ栽培の経験がないためリスクを心配し、ほとんど参加しようとはしなかった。蔡さんに根気よく説得された結果、村人のわずか4分の1が政府から支給された1人当たり5400元の貧困救済金を出資した。現在は蔡さんの頼れる助手の趙隆順さんは最初の支持者の1人だった。「蔡書記は責任感があり、理想のある人です。私が村の小学校の校長だったとき、教室の窓にガラスがなかったので、村の幹部に相談に行きましたが、村長にお金がないから個人で解決するしかないと言われました。蔡さんはこのことを耳にすると、授業中に寒さに凍える子どもたちを心配し、自腹を切って、翌日すぐにガラスを設置してくださいました。このことだけで、彼は信用に値する人物だと思いました」と感情を込めて話してくれた。

16年3月、蔡さんは自身の1700万元、村人が出資した800万元、さらに銀行から借りた300万元余りを元手に、川原でクコ茶プロジェクトを発足した。1カ月後、かつて草木1本も生えなかったアルカリ土壌の220ムー(約15㌶)の土地からクコの芽が出てきた。このクコは成長している間でも摘み取れるものなので、間もなく1回目のクコ茶がつくられた。希望が見えた蔡さんは興奮しながら計算し始めた。「この種のお茶は中国の宇宙飛行士の指定飲料で、クコの葉でつくられたお茶は市場で500㌘600元で売れ、芯芽でつくられたお茶なら、1万元でも売れますよ」。8月11日、プロジェクトに参加した村人たちは初めての配当をもらい、一戸当たり9800元を手に入れた。これを見ると、最初成り行きを見守っていた村人や周囲の村の人々も次々に家の貯金を出資した。

お金も調達でき、人手も揃えた蔡さんはようやく本格的に取り掛かることができた。クコ茶プロジェクトの他、さらに25棟の温室を建て、それぞれバラやカーネーション、ブドウ、スイカ、トマト、ナスなど花、野菜、果物を有機栽培し、また川原にヒマワリやルピナスをまとめて植え、周りの山にあずまやを建造し、薬草まで栽培し始めた。昔日の荒れ山やはげ山は色とりどりの花が一面に咲くきれいな山となった。5200ムー(約347㌶)の土地を占めるこの農業エコパークに、蔡さんは村人が多彩な農産品との間に豊かになれる縁が結べることを期待して「千紫縁」という名を付けた。

かつてあちこちをさすらい、日雇い労働者として働いていた村人の楊明宝さんは、いま「千紫縁」を管理している。「妻は数年前に亡くなりました。家には72歳の父がいて、学校に通う2人の娘もいるので、一家4人の生活費は私1人で稼がなければなりません。前は目が覚めると、次の仕事の場所はどこかと考えてばかりでいらいらしていました。昨年、蔡書記が『千紫縁』をつくってから、私はここでクコの葉を摘み取る仕事に就きました。蔡書記は私たちを訓練するために専門家も呼んできてくれました。私はしっかり仕事をしていると思われ、この一面の畑の管理を任され、毎月3600元の固定収入をもらえるようになりました。いまはどこへも行きたくないですね」。少し前に楊さんは8000元かけて家具を買い替え、さらに40㌅の液晶テレビも買った。さらに今年は2人の娘に初めて誕生日のバースデーケーキを食べさせられたことがよりうれしかった。「父もパークでクコの葉を摘み取る仕事をしていますので、毎月1700元の収入も入り、家の生活はますます良くなっています。娘たちはよく勉強し、将来大学に入り、外の世界へ行って見聞を広めてほしいです。以前の苦しい生活に再び戻らないように」と、楊さんは明るい笑顔で話してくれた。

山奥に別れを告げる

楊さんの家から遠くないところに新しく建てられた平屋の住宅街は極めて人目を引く。平屋はどれも80平方㍍あり、3LDK 、キッチンとトイレ完備で、庭もついている。今年10月中旬ごろに田家寨村周辺の山奥にある四つの村から194戸の村人が、政府が2000万元余りを投資して建てたこの住宅街に引っ越してくる。新しい住宅が完成した日、李良成さん(49)は喜びを抑えきれず自分の名前が書いてある新しい家を見に来て、各部屋を将来どう使うかについて計画を立て始めた。

貧困から脱却し幸せな生活を送る楊さん一家(写真・沈暁寧/人民中国)

「以前出稼ぎしていた工事現場で、都会人が住む大きい窓に真っ白な壁の家を仰ぎ見ながら、将来自分がこんな家に住めればいいなと憧れました。いまこの願いがついにかないましたよ」と、李さんは幸せそうな表情を満面に浮かべて話した。「しかも、山奥から引っ越せばちょっとした用事でも数時間も山道を歩かなくて済みます」。李さんの息子は田家寨村の学校に通っている。かつては1週間か2週間に1回しか家に戻れなかったが、いまは親と一緒に新しい家に引っ越し、毎日一家だんらんの生活が送れるようになった。

李さんと同じように間もなく山奥に別れを告げる村人たちは皆喜びを隠せない様子だ。10月中旬に新しい家に入居できると分かっていても、彼らはとっくに待ちきれず、用事で山を降りるたびに新しい家をのぞきに行く。「政府にこんなに良くしていただいて非常に感謝しています。これはわれわれの先祖の時代では考えようもないことでした」と李さんは言う。将来については、李さんは固定収入を得るために、妻と一緒に「千紫縁」で働くつもりだという。「蔡書記は歓迎すると言ってくれました。将来どうなるか分からないですが、山でジャガイモを掘らなくていいから、それで十分満足していますよ」

蔡さんの事業が大きくなるにつれ、「千紫縁」はますます多くの貧しい村人の参加を受け入れた。最近の分配では、田家寨村を含む22の村の村人たちは全部で69万元の配当金を得た。かつて1人当たり2000元だった年間収入が、いまは一気に6000元にまで急増し、1128人が貧困から抜け出すことができた。蔡さんはこれでも満足せず、さらに努力を重ねた結果、「千紫縁」は青海省唯一の宇宙植物栽培代理権を授与されるチャンスを勝ち取った。このパークは観光、栽培、摘み取り、科学研究を一体とするものとなり、村人の貧困脱却の道をますます広げた。いままで挙げた業績と村人からの感謝の意に対し、蔡さんは「努力して村人の貧困脱却を実現することは、私個人の願いのみならず、さらに党と国の奮闘する目標です。私はただ一人の共産党員としてその責任を果たしているだけです」と語った。

 

1   2   >>  

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850