中国封じ込めの発想はもう通用しない(中編)

横浜国立大学名誉教授 村田忠禧(談)

歴史的意義を持つ中国の成果

ヨーロッパと米国の景気が悪くなったことや、中国国内の賃金が高くなったことで、低賃金労働力に頼っていた輸出産業も、より賃金の安い国や地域に工場を続々と移転しているため、今後の中国は、今までのような低賃金労働力による輸出主導型の高度経済成長はできなくなりました。

しかし中国には広大な内陸があります。賃金の上昇は購買力の向上でもあります。そこに目をつけ、第2次産業だけではなく第3次産業を大いに発展させれば良いと思います。実際今の中国では、インターネットなど最先端技術をうまく利用し、日本でも考えられないような様々な新しいサービスが行われるようになりました。例えばシェアサイクルやタクシーの配車といったサービスもそうですし、農村でユニクロの製品が売れるのも、インターネットが発達したおかげです。そういうなかで技術革新の成果がが徐々に現れてくるものと思います。

今後の中国経済の成長は、これまでのような二桁成長を達成することは難しいでしょうが、6〜7%あるいは5%でも安定的に維持できれば、所得倍増は十分に実現できると思います。

中国はいわゆる「中所得国の罠」にはまらないと思います。2000年のGDPを100とした場合、2016年の中国は925、一方、日本は101、米国は181です。2022年には中国は1513、日本は112、米国は229(いずれもIMFの予測に基づく)と、中国の持続的で急速な発展と対照的に日本の停滞ぶりが顕著です。「新常態(ニューノーマル)」などの現政策は、中国政府が現状を客観的に踏まえ、自覚に行っているもので、中国政府は格差是正、貧困の撲滅に力を入れています。これは長い目で見ると、非常に意義深いことと思います。私は湖北省宜昌市の五峰土家族自治県に行きましたが、驚いたのは山奥の道でも舗装されていたり、少数民族の家が立派な2階建てになっていることで、少数民族の人々の生活が格段に向上していることを実感できました。

「沿海部はすでに自分で頑張れるようになったから、その力を利用して内陸部を発展させる」という、鄧小平氏が出した3段階の発展が成功を収めたことをもとに、今後は中国自身が牽引力となり、世界レベルで周辺国と手を結んでインフラ整備を行っていこうという発想が「一帯一路」構想だと思っています。それによって中国自身にも発展の余地が生まれ、同時に周辺国の発展の契機をもつくりだす。つまり自分の利益だけではなく協力を重視し、双方に利益になることを目指すというこの考えは、とても重要です。中国は経済大国となったことで、自国の発展だけではなく、周辺国や第三世界の国々と手を取り合って発展するという提案を出しており、これを支えるための国際機関として、新興5カ国(BRICS)や主要20カ国・地域(G20)などにも積極的に関わっています。こうした一連の政策を習近平氏が出していることは、中国の歴史にとって非常に大きな意味をもつと思います。

変わる日本の対中態度

日本は「一帯一路」構想に積極的ではないように見えますが、これはあくまでも一部の考え方です。中国経済の好調に恩恵を受けている日本企業は必ずしも少ないわけではなく、そうした企業は決して消極的ではないのです。儲かっていない企業は文句ばかり言いますが、中国が次第に力をつけていけば、それを認めざるを得ないはずです。いくら中国が嫌いでも、伸び続ける中国の力を日本が利用しない手はありません。ですから、消極調はごく一部の、例えば安倍政権のような古臭い冷戦思考から脱却できず、中国包囲網を唱える米国にべったりの人々の論調に過ぎません。確かに日本国内における米国第一主義は依然強く存在しています。いくら衰えたとはいえ、米国は相変わらず世界第一の経済大国であり、軍事的に圧倒的な力を持っているので、米国を重視せざるを得ないのは無理もありません。しかし、中国の発展を直視し、積極的に関わることが日本にとってプラスになりますから、私は中国の発展を大いに歓迎すべきだと思っています。

先日、中国大使館主催の国慶節祝賀行事に安倍首相が出席し、来年には習近平国家主席をお招きすることと、自分も訪中したいと発言しました。あたかも選挙目当ての言葉のように聞こえますが、そうせざるを得ない要因がいろいろあるのだと思います。例えば朝鮮半島問題で、中国と米国は頻繁に連絡を取り合っています。トランプ政権は口では軍事制裁うんぬんと言っていますが、実際には戦争で解決できないということを知っているのです。もし戦争になれば、日本はもちろん、一番困るのは韓国や中国などの周辺国ですから、戦争は誰もが望んでいないことです。だからこそ、中国が果たす役割は非常に大きいと言えるでしょう。今後の朝鮮半島問題において、中国が主張する「話し合いによる解決」を支持する国が増えていくと思います。

経済においても、中国との関係を発展させなければいけません。中国包囲網のような発想では、もはや立ち行かない時代になっているのですから、今後日本も徐々に政策を変えていくでしょう。今回の選挙では、自民党が数を減らすことになるでしょうが、第一党になる可能性は充分にあります。ですから安倍政権継続の可能性は充分にありますが、方向性を少々手直しする可能性はあるので、そこに期待したいと思っています。(続く)

 

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