わたしは中国で生き返る |
藤原佳代子
久しぶりに、昔好きでよく聴いていた中国語の音楽を、10年ぶりくらいに聴いてみた。なぜだかわからないけど、心がふるえる。涙が出てくる。あぁ、やっぱり私は中国語が好きだ。中国が好きだ。また行きたい。その思いをずっとしまいこんで忘れていたんだ。思い出すきっかけは、1年前のある出来事。 思いもよらなかった天災がわが身にふりかかった。熊本地震だ。実家は住めなくなったものの、幸い、さほど被害は受けず、わたしにはまったくマイナスの影響を与えなかった。むしろ、子育てのほうがきつくて疲れて、ノイローゼになりかけていた。地震で揺れている最中、また避難しているとき、そして落ち着いてからも、自分自身に問われた気がした。 「このまま後悔なく死ねるの?」 「ううん、もっとパワフルに生きてみたい。」 これまでの生き方、これからしていきたい生き方を考えるようになった。自分のしたいことをあきらめて、苦手な子育てや家事に勤しみ、そつなく普通に生きていくのか。どこか心の奥から、ほかにしたいことがあると言っている。いったいそれは何だろう?あれ?わたしは何が好きだったんだっけ?母のような良い妻、良いママをめざして頑張っているうちに、すっかり自分のことがわからなくなっていた。体調を崩し、家事ができなくなった。 それで、ふと、昔、録音したままだった音楽を聴いてみた。涙とともに思い出がよみがえってくる。 社会人になるまえ、3週間、上海でプチ留学をしたことがある。実家の親が厳しかったこともあり、親元を離れてはじめて自由を感じた。 日本では、外国人が好きで私はよく話しかけたくなるのだけど、ここ上海ではわたしが外国人。中国語は勉強してはいるけど、まったく聞き取れないし通じない。なんだか中国人のひとは声が大きくて、笑ってくれないし怒っているのかな?不安と寂しさを感じていたけれど、徐々にわかってきた。中国人は、日本人とちがって無駄な愛想はふりまかないだけで、心はとっても優しい。道をたずねたら、自分のことのように親切にくわしく教えてくれるし、銀行だったか言葉が通じなくて私が困っていると警備員さんが助けてくれた。よく通ったカフェの店員さんとは仲良くなって、いろんな話をした。初めてナンパもされたことも良い思い出(笑)。 そして一番感動したのが、宿泊していたホテルのレストランの従業員さん。毎朝、「ごちそうさま」「ありがとう」「美味しかったよ」って私は挨拶するのだけど、ニコリともせず返事もない女の子がいた。最後の朝、「今日が最後。日本に帰ります。ありがとう」って言ってもいつものようにスルー。でも、部屋にもどって荷造りしているとき、ノックされたのでドアを開けてみると、ウエイトレスの女の子が!お土産にハンカチをくれたのです! この女の子をはじめとする、中国で出会ったひとたちのおかげで、私は中国が大好きになった。 帰りたくない!もっといたい!って思ったけど、会社の入社式には絶対出なければならず、泣く泣く帰国。それから仕事で余裕がなく、毎日必死で、ほどなく支えであった彼氏との子ができて結婚して退職。育児に専念して、子どもからたくさんの幸せを教わった。二人目の子どももできて、あっという間に月日が過ぎていった。 目の前の小さい幸せに満足してきた。でも、まだ自分のやりたいこと、やりきった!とは言えない。夫や親は、「子どもが大きくなるまでの我慢」だと言う。我慢して自分を殺して生きて、本当の幸せといえるのだろうか。 地震はわたしに大事なことを教えてくれた。 上海で買った本で捨てきれなかった本がある。中国人が書いた中国全土を旅したエッセイだ。中国はとても広くて、まったく違う文化を持つところも面白い。わたしも中国全土を旅してみたい!そう思うと、生きていくエネルギーが沸いてくる。 わたしは中国で生き返る。
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