町へ出よう、村へ行こう〜多様性の国 中国〜

山本晟太

 

私と中国の出会いは人に語れるようなものではない。日中友好を考えていたわけでも、中国の持つ悠久の歴史に心動かされたわけでもない。ただ、大学入試の前期試験に落ち、後期試験として中国語専攻を選んだだけだった。私が入学した2013年4月には、小さな島を巡って日中両国の関係が近年で最悪となっていた。周りの知人にもよく「なんで中国語を選んだの?」と問われた。私は「これから先伸びそうな国の言語だから」という当たり障りのない答えしかできなかった。そんな私の思いとは裏腹に、私の中国語はみるみる上達し、北京大学への交換留学のチケットを手に入れることができた。

入学後私は短期で上海、北京、雲南を訪れた。その経験により、私は短期の滞在では見えてこない中国の良さを理解したいと思いを強め、2015年9月から私は一年間北京大学に留学することを決意した。一年間の留学を通して、私の中国への印象は大きく変わった。私は中国の高いGDPにも関らず、心のどこかで中国は経済的に貧しい国と言う偏見があった。しかし、実際のところ、それは大きく間違っており、日本よりも先進的な部分が多々あった。ひとつ例を上げるとすると、Alipayである。これは全ての決済を携帯電話で行うことができるアプリである。決済は身分証と紐づけられているので不払いのリスクも低い。Alipayのおかげで私は中国留学中、キャッシュレスな生活をすることができた。他にも私が留学していた際はUberが中国に進出していた。Uberさえあれば、値段も高く、サービスも劣るタクシーは必要なかった。さらには、OfOというシェアサイクルのサービスまでも存在していた。規制の厳しい日本ではこれらのサービスは一部の地域でしかリリースされていない。我々日本人が中国に学ばなければならない時代が再び来たことを実感した。

しかし、中国は広い。中国で最も発展している北京だけしか知らないで「中国通」を名乗れないと考えた私は、北はハルビン、南は雲南、西はウルムチと中国全土を巡った。その中でも雲南省での経験は中国を理解するうえで、非常に意義深いものであった。2017年3月1日から10日間、私は雲南省のプーアル市でフィールドワークを行った。二度目の雲南であった。7人の学生と3人の先生で雲南の農村に分け入った。フィールドで私が感じたのは、所得水準の低さが必ずしも生活の貧しさに直結しないという事実だ。私達がある農家をインタビューした時のことである。私達はおよそ2時間程度、その人の収入や職業などを伺った。その方の年収はおよそ2、3万元(1元=16円程度)であった。インタビューが終わり、私達が去ろうとした時に、農家の方が一つ1500元もするプーアル茶をお土産として数個用意してくれた。なぜ年収の数分の一にもあたるものを初対面の私達にくれたのか。一つの要因としては、私達がその農家の方の親戚の紹介できたからだろう。「親戚の友達は客人」ということだ。しかし、それよりも大きな要因は、現金収入以上に農家の方は裕福だからであろう。この方は豚や鶏を飼っており、自家菜園も行っていた。つまり、ほとんど自給自足で、現金収入が必要なのは娯楽費くらいだそうだ。このような事実は北京で雲南省の統計データだけを見ていては絶対にわからないことである。現地でフィールドワークをすることでデータの上では農民のリアルを理解することができ、中国と言う国の多様性を再認識することができた。

中国は広い。それゆえ、多様である。アメリカの大学院を目指す北京大生も雲南の農村でプーアル茶を作る農民も「中国人」である。そもそも北方人と南方人の遺伝的差異は日本人と韓国人よりも大きいそうだ。このような国の人を、「中国人」と十把一絡げに分類するのは無理な話ではないのか?目の前の人を「雲南人」「北京人」、そして一人の人間として接することが中国の多様性を理解する第一歩となるのではないのだろうか?

 


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