余計なものは要らない

加藤亜衣

「おかえり」

初めて訪れた土地、大連空港で親友の李晴が大きな声で私に叫んでいた。私は、安心と喜びで上手く声が出なかった。

天候の影響により、フライトが遅れ上海で1日過ごした。26時間のフライトが遅れた到着に、李晴は安堵と心配した様子で迎えてくれた。この26時間は、私にとって「たからもの」になったことを李晴は、まだ知らない。

人生で初めて1人で飛行機に乗り、李晴に会いに行く。飛行機の中では、李晴と過ごした思い出のエピソードをスパイスに、機内食を頬張った。周りの声は、中国語。勉強したばかりの、つたない中国語で隣の人に声をかけようか悩みながら、時間を確認した。本来、空港についているはずが、次のフライトまで、1時間を切っていた。今月は、旅行に向いていないという占いの記事が脳裏によぎり、不安を隠せなかった。けれども、「旅はこんなもんだ」と平然を装いながら、周りの様子を伺った。

すると機内で何人か手を上げて、客室乗務員と話している。彼らも、フライト時間が遅れているようだ。私も勇気を出して手を上げ、客室乗務員と会話をした。しかし、中国語の勉強をして、間もない私は、何を言っているのか分からず、そのまま上海に到着してしまった。フライトが間に合わなかった仲間を見つけようと、同じ便の人に話しかけたが、大連行の便ではなかった。空港のロビーでもたらいまわしにされ、途方に暮れていた時、「どうしたの?」と救いの声が聞こえた。彼女は、同じ便に乗っていた中国人の方だった。

彼女が、様々な手続きを空港中、駆け回ってくれた結果、次の日の便で大連に行くことが出来た。同じように、次の日の便で、行く人たちが何人か居た。彼らは、心配そうな顔をした私に「大丈夫、大丈夫」と優しい日本語で声をかけてくれた。夕食時には、みんなで和気あいあいと食事を頂いた。日本で働いていた人や新婚旅行をした夫婦、帰省中の人、みんなでたわいのない話を語り合った。あの時、食べた優しい卵スープの味は忘れられない。

しかし、最初に空港で助けてくれた彼女が、悲しい言葉を口にした。

「中国の対応はすごく悪いでしょう。もう中国に遊びに来ないでほしい。私は恥ずかしいよ。」

あの時、すぐに「ちがう」と言うことが出来たならば、どんなに良かっただろうか。

けれども、帰国した今、彼女に伝えることが出来る。

「貴方たちのように、人情のある人を生んだ中国が大好きだ」と。

初めて1人で搭乗したとき、期待と不安で胸がいっぱいだった私は、安心と優しさで心が満たされて帰国した。

私を“日本人”だと知ったタクシーの運転手さんは「ヨッシャー」と何度も元気な日本語で声援をしてくれた。レストランのお兄さんは、私のつたない中国語に耳を傾けてくれて、「ありがとう」と言ってくれた。夜行列車の二階の人は、美味しい饅頭をくれた。

大好きな親友の李晴が生まれ育った国は、李晴と同じように優しくて温かかった。

私が、“中国”へ行くと決めたとき、心配をする人がいた。

「危ないから気を付けて」と。

誰が“中国”を危ない国だと決めつけたのだろうか。

間違った情報が飛び交う世の中で、正しい情報を選別して、判断していくことが、現代社会で生きる私たちに必要であると強く感じた。そして、「百聞は一見にしかず」という言葉の意味を、身をもって体験した旅であった。

旅を終えて、一番に思ったことは、「中国へまた行きたい」。

「美味しい小籠包を頬張りたい」。

余計なものは要らない。これで十分なのだ。

「いってきます」

帰りの搭乗口で李晴に大きな声で叫んだ。

また会う日まで。再见。

 


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