学生の平日から

森本千尋

 

朝起きて、顔を洗う。歯を磨いてご飯を食べる。テレビはニュースを流している。年内にもファーエイが日本に大型工場を作るらしい。再びメイドインジャパンの時代になるのか、と衝撃を受ける。めざましく効率よく成長していくアジアにおいて、技術大国、経済大国の日本などもうあってないようなものなのだろう。劣悪な労働環境でも抵抗せず生活を豊かにできない賃金で丁寧に仕事をする、まさに工場などぴったりな国になったのだとみんなSNSで非難したり嘆いたみたりしている。将来はこんな国出てしまおうかとぼんやり考えながら服を着替える。どれも中国製だった。でも10年後、このタグには日本制造と書かれていたりして。

大学へ行く。1限、中国語の授業を受ける。週3回。将来良い市場となる中国の言葉を学んだ方がいい、そう考えて高校3年から学び始め3年目。自分の予想よりももっと速く中国は進んでいるようだ。自分がのんびり勉強している間に中国の学生は激しい受験戦争を戦い抜いて、そこからも競争に晒されて、それは差が広がる一方だなとこれまたぼんやり思う。先週受けたテストが返却される、70点。良い成績ではないが単位がもらえたらいいかな、昼食に思いを馳せながら残りの授業をやり過ごす。

昼、坦々麺を食べると決めた。大学近くの商店街にある中華料理屋に行こう。ここは坦々麺の種類が豊富でいつも悩むが、珍しく即決した。冷やし汁なし坦々麺お願いしますと言って食券を渡した店員は中国人に見える。そういえば日本でアルバイトを見つけるのは難しいと留学生から聞いた。流暢に話せないと、日本円に慣れてないと、日本人じゃないと。本当はそうではないが単一民族国家だからだろうなとあっという間に提供された坦々麺を食べながら考える。おいしい。中国は多民族国家で、少数民族を保護しているが、その実やっぱりどうなのだろう。さっきから疑問ばかりだ。中国は情報規制が多いし、どの情報網が信用できるかさっぱりわからない。他国なら行政の情報を見ればふむふむと思うが、中国は国民の意見の方に信憑性がある、と日本にいる私は思う。モヤモヤ考えても相変わらず坦々麺はおいしい。そういえばもともと汁はないから、汁なし坦々麺というのは変な呼び方だそうだ。

放課後、空き教室で日が暮れるのを待つ。日が出ているうちは暑いので外に出たくない。イラスト投稿サイトを見てまわる。最近一番のお気に入りは中国人クリエーターの作品である。イラストももちろんだが彼女の作品解釈がたまらなく好きだ。中国語のコメントを読みたくて必死に辞書をひく。民族や政治に対する考察が独創的でよく練られていて読むほど夢中になる。携帯の電池が切れそうだ、ふと時計を見ると2時間経っていた。飛ぶようにすぎたものだ。

よし、家に帰る。いつも歩いて帰る。大学のあたりは欧米人が多い。そこを抜けて、坂を下ったあたりはアジア人が多い。ただ中国人はいない。最近中国人が日本の土地を購入していると聞くが、どこの話だろうか。

家に着く。食事やら明日の支度やらをして、夜が更ける。ずっとこんなふうに過ごしていくのだろうな、明日も坦々麺にしようかなと、今夜も気ままに眠りについた。


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