我ら地球人

 

角門正明

高校2年の夏、私のクラスに中国からの留学生がやってきた。すらりと背の高い、まっすぐな目をした彼女は、すぐに皆の注目を集めた。そんな彼女と私は、約半年間共に過ごすこととなる。

行動力に富み、物怖じすることなく、自分の意見を率直に述べる。それが彼女に対する私の第一印象だった。時には初対面の人にさえ、ありのままの自分で接する。それは私たち日本人高校生にとっては少し異様に映って見え、次第に彼女はクラスで浮いた存在となった。クラスメートは口々に、「中国人ってああいうところあるよね~。」という、固定観念で彼女を見るようになった。しかし意外なことに、彼女と仲良くなったきっかけは当時内気な性格であった私から話しかけたことにある。学校からの帰り、駅のホームで彼女は胡坐をかいて電車を待っていたのだ。周りの人たちから奇妙な目で見られることなどお構いなく座っている光景に、私は不思議な感覚に見舞われた。「この人と友達になりたい。」 何故そう思ったのだろう。おそらく、私と彼女は正反対の人間だったのだ。自分の気持ちに正直でそのための努力を惜しまない彼女、一方他人の顔色ばかり気にし、人の意見に流されて生きてきた私。

「電車、来るの遅いよね。」 彼女の世界に私は自ら飛び込みに行った。いきなり話しかけられ、隣に座った私に少し戸惑いを覚えながらも、拙い日本語で返事をしてくれた。そこから私たちは友人となった。日本にいる間、彼女は頼まれない限り母国語を話すことを許さなかった。メールもすべて日本語でやり取りした。それらはすべて、私たち「日本人」と関わるため、「日本人」を理解するためであった。また後日、何故電車を待つとき一人で胡坐をかいていたのかを訪ねてみると、「中国人」である自分が周りから受け入れられていないことが少し寂しく、どう付き合えばいいか分からなくなっていたと彼女は語ってくれた。私たちが彼女に抱くイメージを、彼女はちゃんと知っていた。知っていながら、悩みながら私たち日本人とどう接するべきかを考えてくれていたのだ。それに対して私は、私たちは関わる前から高をくくって人を判断し、傷つかないよう自ら距離を取って安心していた。

「日中友好」という言葉がどこかで私の中で一人歩きをし、そもそも中国人はこうだ、日本人はこうだ、だからこう接しなければならないという意識が私の心の奥底にも潜んでいたのかもしれない。彼女との出会いが一人の人間と人間、心と心のつながりには国の壁なんて何の意味もないことを教えてくれた。

腰を下ろして同じ目線で語るだけで、異国の二人は分かりあえた。

そして彼女と別れる日が来た。ここで得た経験を活かすことを約束して、私は彼女に言った。「我们再会吧!」 身につけていた大きめのマフラーを私に渡して、彼女は中国へと旅立った。

あれから月日が流れても、彼女を思い出し、彼女のような人間になれているかを自分に問いただす。いかなる人種も偏見なく、心丸ごと受け入れ飛び込める勇気がまず大事。そこから広がる地球の輪。

あの時もらった大きめのマフラーは、今ではぴったりのサイズになった。私は少し、大人になった。


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