人生を変えたひと言

 

中塚咲希

「私はとても幸せ者だよ。だって大学に通うことができる。日本語を勉強することができる。こうやって日本に来ることもできたから。だから絶対に夢を叶える。あなたに夢はある?」 

私は今でも鮮明に覚えている。彼女が言ったその言葉を、輝いた目を、声に秘められた力強さを・・・ 

彼女とは去年の夏に参加した“リードアジア”というプログラムで出会った。それは、日本人学生と中国人学生が企業訪問をして、与えられた課題に対して議論し、意見を共有し合うという内容だ。中国語を学び始めて半年の私が興味本意で参加したのだ、その議論はもちろん、プログラム中の会話もすべて日本語で行われる。私は討論や会話をするうえで語学の壁を感じることは一度もなかった。むしろ討論の中で積極的に発言するのは中国人学生であり、私よりもはるかにしっかりとした意見を持っていた。私はそんな彼らに感心する一方で、日本語を学んでいる学生が来ているのだからそれは当然だろうと思っていた。プログラムは9日間の合宿形式で行われるのだが、少ないながらも楽しい時間はある。お互いに国で流行っていること、好きなアイドルのこと、名物の食べ物のこと、たわいもない会話をした。プログラムも中盤に差しかかっていたその日の話題は自分の出身地についてだった。彼女が私の忘れられない言葉を発したのはこの時だ。彼女の同級生には、学びたくても学べない子が多くいるそうだ。自分は運がいい、幸せ者だ、祖父母と両親にはとても感謝している、と何度も何度も言っていた。そして自分の夢についてキラキラした目で語ってくれた。そんな彼女の話に私はうなずくことしかできなかった。

私はとても浅はかだった。とても大切なことを忘れていた。いや違う、本当は意見をうまくまとめることができず、討論にも中途半端にしか参加することができない自分と向き合うことを避けていただけではないか。興味があるから?日本語を学んでいるから?ここは日本であり、日本のプログラムだから?・・・彼らが私たちと会話ができるのはそんな単純な理由ではないのだ。家庭環境、努力、いろんなことが積み重なって彼らは今“ここ”にいる。そしてそのことの重みを彼らはちゃんと理解していた。プログラムにかける想い、学びたいという強い気持ち、それは私が今までに見たこともないくらい大きなものだった。同世代の子がこんなにも頑張っている姿を見て、何もせずにはいられない。私はその日から、今の自分にできることを考えて行動するようにした。最終的にどんな風になりたいのか、新たな目標ができた。そのためにやるべきことも積極的に探した。気づけば今まで受動的に参加していたプログラムが、能動的に取り組み自分を大きく成長させるものとなっていった。

あの時は答えることができなかった質問。今ならはっきりと答えることができる。だからその答えを彼女に伝えなくてはならない。私を変えてくれた、彼女に。

「将来は中国と関連のある会社に就職することで日中関係に携わっていきたい」と。そして今度はちゃんとお互いの夢を語り合うのだ。彼女が育ってきた場所で、現地の言葉で。私は彼女の夢は叶うと信じている。だからそれに負けないくらい努力して私も夢を叶えなければならない。


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