馬場公彦=文
前回は北京大学のオンライン授業について書いた。日本では残念ながらインフラやソフトが十分に開発されておらず、教師の技能が追い付かず、学生のインターネットやデバイスの環境が整っておらず、オンライン授業が普及していない。政府が下した一斉休校措置は学校現場と学生の混乱を招き、休業や求職を余儀なくされる父兄への給与補填措置への財政支出負担をもたらした。もしオンライン授業への移行がスムーズにできていたら、混乱と負担ははるかに軽減できていたことだろう。
ネットを通しての教育支援について、文科省は3月初め、小中高校に学習支援コンテンツを公開した。民間出版社は自社の書籍・漫画・学習ドリルなどのデジタルコンテンツを期限付きで無償提供した。国内最大の通信教育「進研ゼミ」を運営する株式会社ベネッセコーポレーションでは、小中高の学年ごとに「春の総復習ドリル」を総計30万冊無償提供し、会員向け読み放題サービスの電子図書館「まなびライブラリー」を開放して1000点の児童向け電子書籍を提供した。
北京においても、出版関係企業114社が2月3日、「ウイルスと闘うわがアクションプラン」に参加し、オンライン教育・電子書籍・ウェブ文学・オーディオブック・音楽などを自社サイトあるいは公共プラットフォームを通して無償提供した(首都新聞出版2月4日)。オンライン授業と同様に、読書という行為は、感染リスクゼロで楽しむことができ、簡便かつ低コストで知的欲求を満たし、精神的な安定を得る有効な手段である。
中国では出版に関して、書店では新書発表会や文化サロンを通して、著者と読者との距離がとても近く、ライブ感あふれる熱気がみなぎっている。ところが全国的に外出規制を徹底したために、1月から2月の期間中、9割のリアル書店が臨時休業を余儀なくされ、売上総額は春節の書き入れ時だったにもかかわらず前年同期比37%と激減した(中国出版伝媒商報3月5日)。出版活動についても、編集や校正部門はテレワークによって直接の影響は低かったものの、営業販売や印刷製本や物流部門では業務が停滞した。
一方デジタルコンテンツへのアクセスは激増した。ネットでの販売やSNSを使った営業宣伝活動は活発となり、電子書籍やオーディオブック、動画映像など、好調に転じたという(新京報書評周刊3月6日)。
ただし、電子書籍の出版において、大半の出版社は独自のプラットフォームがなく、京東や当当などのサイトでネットビジネスを展開しているため、そもそも利幅が小さく、ユーザー情報を入手できないといった問題が顕在化している(前出中国出版伝媒商報)。一方日本の場合は各社インターフェースや文字情報がまちまちで、アクセス上の支障があるようだ。ただし中国と違ってリアル書店の客足が急増している。文化イベントが中止になり、大型娯楽施設が休業して暇になったことや、公共図書館が閉鎖していることによるようだ(Togetterサイトより)。
今は降りしきる雨が止むのを静かに待つ時。晴耕雨読の気構えで、晴天での活動に備えて、沈思黙考し本を読み知識を蓄える。苦しい時こそ、出版人は多くの人々に高品質の精神的食糧を豊富多彩に提供したいものだ。ネット環境を整え、デジタルコンテンツを充実させ、ユーザー本位のインターフェースを実現するために、現状の課題を打破していこう。危機とチャンスは背中合わせだ。
3月3日、上海の出版社と映像サイトが企画した「上海ブックフェア・読書の力」2020特別ネットイベントに筆者もビデオメッセージを寄せた
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