コロナ下での国際交流求め

2021-07-02 11:19:49

馬場公彦=文

北京で初めての春を迎えた。北京の春は俊足だ。啓蟄のころはまだ底冷えがして、郊外の樹木は、カサカサに冬枯れていた。それが春分を過ぎたあたりから、黄色いレンギョウが一斉に花開いて迎春花の名に違わず春を告げたかと思うと、踵を接するように、梅、玉蘭、ハナズオウ、カイドウ、桃など、まさに百花斉放と咲き誇る。北京大学のキャンパス「燕園」や市内の公園を散策すると、花酔いで陶然とした気分になる。

この時節は日本にいたらそぞろ歩きの花見でもと、妙に気分が浮き立つものだ。北京の百花繚乱のなかで妍を競う主役になっていないのは、残念ながら桜だ。武漢大学や、無錫の太湖のほとりの桜が知られているようだが、実は北京でも、玉淵潭公園は国交正常化を記念して植えられたさまざまな種類の桜が楽しめる。だが日本と同様、今年はこの桜を愛でる日本人は少ない。

実はもう一つ北京には知る人ぞ知る桜の名所がある。在中国日本大使館である。3月27日、その日本大使館で、桜花爛漫のなか、国際交流イベント「酷你吉娃(こんにちは)サロン」が開かれた。大使館のホールに、在北京の学生とスタッフ総勢100人ほどが一堂に集う交流会であった。北京市内での新型コロナウイルスはほぼ完全に制圧できているとはいえ、留学生が戻らず、日本からの旅行者も皆無の中、どの大学や研究機関でも、まだ本格的なオフラインでの交流には踏み切れていない。このような直接交流の場が設けられたのは、共催者の日本大使館の英断による。

イベントでは中国で教壇に立つ講師の講演と交流会が行われた。私は講師の一人として「漫画で育ったぼくら」と題して、戦後の日本漫画の誕生と発展の歴史を話した。ほかには汕頭大学長江新聞與伝播学院でジャーナリズム論を教える加藤隆則さんと、北京の対外経済貿易大学で経済学を教える西村友作さんが講師を務めた。

交流会が実現し成功したのは、今回のサロンの発起人で、イベントを企画し準備した汕頭大学同学院の加藤さんとその学生たちの熱意と活躍である。

加藤さんは元読売新聞の上海支局長や中国総局長を務め、定年前に退職して汕頭大学に就職し、5年になる。加藤さんの特筆すべき功績は、これまで5年にわたって学生たちを引率して合計3回の日本訪問ツアーを行っていることである。九州・北海道・京都・奈良を旅行し、名所旧跡や祭りや工芸の伝承者を訪ねて取材し、ビデオ作品に仕上げてきた。ところが新型コロナの影響で昨年から日本での現地取材ができなくなった。そこで学生たちのために、中国国内での日中文化交流イベントを企画したのである。

オフラインでの交流は、手間も人力も財力もかかる。残念ながら今回、汕頭からの学生の参加は実現しなかったが、計3回の日本取材ツアーに参加した卒業生が北京のほかに成都・重慶・三亜から集まり、スタッフとして準備と運営に汗を流した。

加藤さんのほかにも、対外経済貿易大学で12年にわたって日本語教師として教育に当たってきた森田六朗さんのような人がいる。彼も私と同様の出版社退職組で、大学での任期が終わったときは、辞めないでくれと学生たちから嘆願書が出されたという。北京で日本の剣道を広めた立役者でもある。彼らのような先輩を見習って、私も微力を尽くしたいと思う。

 

満開の桜の下、「酷你吉娃(こんにちは)サロン」参加者全員で記念写真。日本大使館にて(写真・凌学敏)

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