世界の関心をさらに高めた 「一帯一路」北京フォーラム

2017-11-01 09:53:55

 

文=(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト

 今、世界経済は大きな転換期に差し掛かっているといわれています。そんな状況のなかで中国の役割が大きくクローズアップされています。これは、1949年の新中国成立から国連復帰(71年)を経て、78年に改革開放政策を打ち出し、35年後には「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想を提唱し、2015年には、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を発足させるなど、世界経済の安定と発展に大きく貢献してきた実績を抜きには語れないでしょう。 

                                 

 実際、今年5月、北京で開催された「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(以下、「北京フォーラム」)で多くの成果(注1)を挙げたこと、6月には、世界経済の格付け評価を行っている米ムーディーズ社がAIIBに最高の格付けとなるトリプルA(Aaa)を付けたことなど、中国に対する世界の支持・評価が急速に高まってきていることが分かります。今や、AIIBは、国際的信用度で、日本との関係が深いアジア開発銀行(ADB)と肩を並べることになったわけです。 

 加えて、中国は世界第2位の経済大国、世界最大の貿易大国、世界第2位の対外投資国となっていますが、そのほか、多くの分野で世界をリードしています。そんな中国が、今後、転換期に差し掛かった世界経済にどのように対応していこうとしているのか、世界の関心が高まっているゆえんと言ってよいでしょう。

随所に「中国の知恵」の結晶

 さて、世界が注目した「北京フォーラム」開催から1カ月余りの間、中国は、上海協力機構(SCO)加盟国首脳理事会(6月12日、カザフスタン共和国の首都アスタナ)、夏季ダボスフォーラム(6月26_28日、中国大連)、香港復帰20周年祝賀大会(7月1日)などの世界が注目する国際的大行事に立ち会っています(注2)。こうした中国が主催・関係する国際会議、首脳会談、歴史的行事などにおける成果は地域経済の安定と発展にますます深く関わってきているといえます。例えば、香港復帰20周年祝賀大会に出席した習近平国家主席は、「一国二制度」の意義と成果を強調しました。実際、中国大陸と香港のFTAであるCEPA(中国本土・香港経済連携緊密化取り決め)が締結された03年から今年までの14年間に両地間の貿易規模は実に7倍に拡大しています。さらに、商務部(日本の省に相当)が、今後香港企業と中国内地企業が連携して「一帯一路」沿線国で市場を開拓すること、香港と「一帯一路」沿線国とのFTAの構築を積極的に支持することを表明しているところにも、「一国二制度」の成果と可能性が読み取れます。この「一国二制度」は、世界経済の発展に大きく貢献してきた改革開放政策の理論的支柱である「社会主義市場経済」に大いに通じるところがあります。すなわち、対照的な二物を組み合わせ、地域や世界経済の安定と発展に結び付けるといった中国の知恵が両者に認められます。

 こうした中国の知恵は、習主席が「北京フォーラム」で言及した「一帯一路FTA」の構築にも生かされるのではないでしょうか。「一帯一路」沿線国は経済発展段階や価値観が大きく異なっていますが、例えば、中国と当該国との「伙伴関係(パートナーシップ)」(注3)の構築・格上げを通じて双方の利害・相違を調整しつつ、「一帯一路」交友圏や経済圏、さらには、メガFTAへと発展させてゆくことは十分可能でしょう。伙伴関係の構築は、中国と「一帯一路」沿線国に限られているわけではありませんが、「一国二制度」や「社会主義市場経済」に通じる中国の知恵であり、世界経済の転換期をリードする新たな「メード・イン・チャイナ」といっても過言ではないでしょう。

インドのSCO加盟に意義

 アスタナでのSCO首脳会議では、インドとパキスタンが正式にメンバー国となったことが特筆されます。「一帯一路」沿線には、SCOのほか、いくつかの協力の「枠組み」(注4)が存在します。南アジア地域協力連合(SAARC)もその一つで、インドとパキスタンはその主要メンバー国(加盟国8カ国、オブザーバー参加国日本、中国、米国など)です。両国はカシミール問題など未解決の課題を抱え対立することもありましたが、SCOという別な「枠組み」の中で、紛争から対話への道が開かれれば、地域の安定と発展につながります。何より、「一帯一路」構想の円滑な推進にとって、両国、特に、アジアの大国であるインド加盟の意義は少なくないでしょう。SCO首脳会議に出席した習主席は、来年6月、中国でSCO首脳会議を主催すると発表しました。今年9月には、福建省厦門(アモイ)で、同じく「一帯一路」沿線国の協力「枠組み」でもある新興5カ国(BRICS)首脳会議が開催されます。果たして、どんな中国の知恵が世界に発信されるのか、期待したいものです。

第4次産業革命がテーマに

 大連の夏季ダボス会議のテーマは、「第4次産業革命における包摂的な成長の実現」でした。世界90カ国・地区余りから各界の代表2000人余りが参加しましたが、開幕式のあいさつで、李克強国務院総理が「中国は経済のグローバル化、自由貿易を支持する」と強調しています。第4次産業革命では、インターネット、人工知能、ロボット、ビッグデータなど最新技術が主役です。テーマにある「包摂的成長の実現」とは、地球規模で平等に発展する機会を分かち合うということです。包摂(中国語は「包容」)は、「一帯一路」構想推進上の重要な指導理念でもあります。会期3日間に、200余りの分科会が開催され、各会場で「一帯一路」構想への言及がことのほか多かったといわれます。SCO首脳会談でも、香港復帰20周年祝賀大会でも、そして、夏季ダボス会議でも、「一帯一路」構想は世界の話題の中心になっているといっても過言ではないでしょう。

望まれる日本の積極的協力

 今から175年前、アヘン戦争の結果、「南京条約(1842年)」で香港島が英国へ割譲されました。当時、世界は第1次産業革命期にあり、その成果は英国など大国に独占され、包摂的とは無縁の状況にありました。ところで、日本はこの時期に明治維新を成し遂げ、紆余曲折を経ながら経済大国への道を歩んできました。

 冒頭で、世界は転換期にある、と書きました。20年前、香港を返還した英国は、今、欧州連合(EU)離脱という大きな転換期に差し掛かっているといえます。中国は、「一帯一路」構想を提唱し、「包摂的」に代表される新たな国際関係を、世界と共に構築しようと主張しています。日本はというと、その「一帯一路」構想に「条件がそろえば協力していきたい」という姿勢です。日本には、現在の転換期を「奇貨」と捉え、「一帯一路」構想に積極的に協力する選択肢をとってほしいものです。

 

 

1:本誌7月号を参照  

注2:習近平国家主席はロシアとドイツを訪問後、ドイツ・ハンブルグで開催された第12回G20首脳会議(7月7、8日、テーマ「相互に関連し合う世界の形成」)に出席。  

注3:注1に同じ 

注4:文中で言及した「枠組み」のほかに、ロシア主導のユーラシア経済連合(EAEC)、サウジアラビア主導の湾岸協力会議(GCC)、「16+1」(中国と中東欧諸国)協力などがある。


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