鍵開け

2018-11-28 15:36:50

中学=文 砂威=イラスト

 

 社長が鍵を中に置きっぱなしで扉を閉めてしまい、間の悪いことに王平秘書は地方へ会議に出掛けていて、誰も社長室の鍵を持っていなかった。社長が事務机に置いておいた携帯が鳴り出したようで、呼び出し音がひっきりなしに鳴っていた。部屋に入れず、社長は困って廊下をうろついた。

 この事務所では、閉め出されてしまうことはしょっちゅうだった。窓を開けていると空気が対流し、いつ強い風が吹いて扉が閉まってしまうか分からない。幸いなことに、どの事務室も3~5人部屋となっているので、しばらくすると誰かが戻って来て鍵を開けてくれる。急いでいるときは、金属定規を探し出し、外から軽くつついたり、引っ張ったりすれば、すぐに開いた。

 私の事務室の隣にいる安勇と劉江偉はどちらもこの鍵開けの名人で、閉め出しをくらったり、鍵を家に忘れてきたりした人がいても、このどちらかに助けを求めれば、ものの2、3分で部屋に入ることができた。

 社長は金属定規で鍵を開けられることを知らず、さらには安勇と劉江偉の技も知らないようだった。知っていれば、焦ってうろつくこともないだろう。

 誰が教えたのか、社長は安勇を探しに来た。安勇は息を切らして上の階に上がり、手に金属定規を持ち、腰をかがめて、極めて真面目な様子だった。左をつつき、右をつついても扉は開かない。しばらくいじってから、首を振って、「開きませんね、社長。ちょっと劉江偉を探してきます」と言った。

 劉江偉は安勇から金属定規を受け取り、腰をかがめて、彼も極めて真面目な様子であった。左をつついても開かず、右をつついてもやはり開かない。しばらくいじってから、首を振って「開きません、社長。この鍵はとても難しいです」と言った。

 間抜けな2人だ! 私は金属定規を使って鍵を開けたことはないが、以前、彼ら2人がどうやって開けるかを見たことがあった。私は江偉の手から金属定規を受け取ると、彼らが以前に鍵を開けた時の動作をまね、つついては引っ張り、またつついては引っ張ると、「カシャ」という音とともに扉が開いた。

 社長は笑って私の肩をたたき、「やるじゃないか、能ある鷹は爪を隠すだな」と言った。社長の誉め言葉とともに、私はご機嫌で下に降りた。安勇と劉江偉は私を見て、笑うだけで何も言わなかった。しかし、その笑いは奇妙であった。構うもんか、私だってたまにはできるところを見せるさ。あんたたち2人ができることを、私、劉某もまねただけだ。 

 先日、王平が突然私を訪ねて来て、社長の机にあった文書を見なかったかと聞いた。その文書はとても重要なもので、職員の住宅割り当ての内部案だと言った。

 「どうして私が見ることができるのですか?」私はいぶかしく思い、尋ねた。王平は、「社長があなたに聞いてこいといったので。私が鍵を持つ以外、社長室の鍵を開けることができるのは、あなただけだと……」

 

翻訳にあたって

 中国の事務室は、収容人員が2~6人程度の小さめの部屋であることが多く、それぞれの部屋の扉に鍵があり、全員が事務室の鍵を持っていて、誰もいなくなる時には鍵をかけるというシステムになっている。昼休みなど、昼食を終えて事務室に戻ってくると、部屋に鍵がかかっていて、うっかり鍵を部屋の中に忘れてきたために中に入れないというのは、よくあることだ。とはいえ、さすがに定規で開く鍵というのは多くないだろう。また、「職員の住宅割り当ての内部案」とは、住む家を職場が配分してくれていた時代の話で、今の中国ではこうした福利はほとんどが廃止されている。(福井ゆり子)

 

 

12下一页
関連文章
日中辞典: