恋人

2021-03-03 10:59:46

 

史鉄生=文

鄒源=イラスト

80歳の呉さんは、病院の集中治療室に運び込まれた。部屋の中で小さな衝立が二つのベッドを隔てていたが、隣のベッドに横たわる老婦人が、彼の小学校の同級生布歓児だと誰が思っただろうか。

「5年生の時にあなたの家はよそに引っ越してしまったと聞いたけど、いったいどこに行ったの?」

「そんなことはないよ」と呉さんは言った。「ずっと北京に住んでいた」。衝立の向こうではしばらく沈黙が続き、そして長いため息が聞こえた。

布歓児は呉さんに、やっとの思いで三つのことを告げることができた。一つは、彼女が9歳の時、呉さんに恋をしたということ。二つ目は、彼女は運に恵まれず、生涯で多くの人が彼女の巻き添えを食ったこと。布歓児は「自分でこうしたことを呉さんに告げることができるなんて思いもしなかった」とため息をついて言った。

いったいどういうことを言ったのか? 小学校を卒業し、呉さんにもう会えなくても、布歓児はまだまだチャンスはあると思っていた。高校を卒業しても、やはり呉さんの消息は全くなく、さもなければ彼女は呉さんと同じ大学を受験しようと思っただろう。大学を卒業して結婚適齢期になっても、呉さんはまるで消え失せたかのようだったが、彼女の思いは変わらず、いまだ呉さんに深い愛情を抱いていた。

何年もが過ぎ去り、彼女は一つまた一つと結婚のチャンスを逃し、とうとう30歳になった。彼女と同じようなひたむきな恋心を抱く若者が現れたが、布歓児が呉さんを1年待つと、彼も布歓児を1年待つ結果になった。37歳の時、布歓児が別の人と結婚しようなどとは誰も予想できなかっただろう。彼女はその相手が、呉さんに似ている――少年時代の彼の写真から判断する限り――という理由だけで結婚したのだ。

「その人はいい人だったのかい?」

「人でなしだったわね」。どうして人でなしだったのかについては言わず、そうでなければ母親が怒りのあまり死んでしまうことはなかっただろうとだけ言った。

その人の後、彼女は心が冷え切ってしまい、間もなく最初に求婚してきた人と結婚登記をした。その人と結婚した後に初めて、その人も呉さんにそっくり――少年時代の彼の写真から想像するに――だったことに気付いた。

「その人とはうまくいったのかい?」

「数年は過ごしたわ。でも後に私は愛人だったことを知ったの」。布歓児は思い切って離婚し、国を出て、西洋人と結婚し、それから娘を迎えに行って学校に通わせ、あっという間に20年がたった。ある日、当時彼女のことをずっと待っていたあの青年からの電話を受けた。

「どう、幸せに暮らしてる?」「僕はまだ一人だよ」

「どうしてまだ結婚していないの?」「1回目は捨てられた。2回目は一歩出遅れた。3回目は……、今どこに住んでいるのか聞いたばかりだ」「まったく、あなたっていう人は」「僕はのんびり屋なんだ。でも、あなたはとてもせっかちだ」

家に来てもらうよう約束し、心の準備は十分にしていると自信があったものの、扉が開くなり、布歓児はびっくりしてソファに倒れ込んだ。入って来たのは完全に見覚えのない老人だったのだ。

呉さんは一般病棟に戻る前、つえをついて衝立の向こうの同級生を見に行った。

四つの目が会うと、布歓児はびっくりして叫んだ。「なんてこと、彼こそ本当にあなたにそっくりだったんだわ!」

「誰のことを言っているの?」

「私を一生待っていた人よ……」

これが、布歓児が呉さんに言った三つ目のことだった。

 

翻訳にあたって

「同桌」は「机を並べる」「同席する」という意味であり、そのために「同級生」を指す言葉でもある。「同級生」の訳として、一般的には「同学」という言葉が使われることが多いが、「同学」は同じ学校で学ぶ人であれば同じ学年でなくてもよく、同じクラスにいる人のことを言いたい場合には、「同班同学」を使う。

中国語の「中学」は、「初级中学」と「高级中学」、すなわち日本の中学と高校の総称であるため、ただ「中学」とだけ記されている場合には、どちらを指しているのか判別できない。この文章の場合、次に大学受験の話が出てくるので、高校を指すものと考えられる。

(福井ゆり子)

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