失踪

2023-01-03 17:14:45


馮晴=文

鄒源=イラスト

老人のは彼女にとって予想外の出来事で、彼は顔じゅうに汗を浮かべて、出会い頭に、「うちの彩萍を見なかったか?」と聞いた。彩萍とは彼の妻で、今朝出掛けたっきり、まだ戻っていないということだった。 

「携帯電話は持っていなかったんですか?」「いつも忘れていくんだ。テーブルの上にあるのを見たよ」「じゃあいつもどこへ行っているんですか?」 

老人は顔を窓の外に向け、「それがここなんだ。彼女はここのオオニワホコリが好きでね」と言った。 

「私は店に戻って来たばかりなんです。午前中はまだ店を開けていなかったから、奥さんはもしかしたら通り掛かって、すぐどこかに行ったのかもしれません」 

老人が心配そうな顔をしたので、彼女はいたたまれなくなり、「入口に防犯カメラがあります。奥さんが来たかどうか、どっちへ行ったか、確認してみてはどうでしょう?」と言った。 

彼は期待に満ちた顔でうなずいた。 

モニターの中で、小さな子どもが二人、手をつなぎながら通り過ぎた。女の子は、オオニワホコリを見てうれしそうに何か言い、男の子はそれを聞くと一枝折って彼女に渡した。 

老人はぶつぶつとつぶやいた。「私と彩萍も、幼い頃からの知り合いだ。私たちは一緒に春の川岸へ行って、青い草が芽吹き、川の水が浅瀬の石を洗うのを見ていたものだ……」 

彼女はお茶を入れて、老人に渡した。「ウチのお茶はおいしいですよ」 

冷戦中のような中年夫婦がモニターに現れ、男性は雰囲気を和らげようと、女性のバッグを持とうとしたが、女性は彼の手を払いのけた。 

老人はため息をつき、「人生の半分も一緒にいれば、思い通りにならないこともあるよ。彩萍も機嫌が悪いことはあったけど、私が機嫌を取れば、たちまち笑ったよ」と言った。 

彼女の目がじんわりと湿りを帯びてきた。世知辛い世の中で長い間がんばってきたが、不意に柔らかさに会うと、たちまちガードが破られる。 

最後に現れたのは一組の老夫婦で、女性が車いすに座り、彼女の伴侶が優しくひざ掛けをかけてあげていた。 

「なんて優しいの」。彼女はうらやましそうに言った。 

「私と彩萍もこんなだったよ」と老人は言った。「彼女が病気になったとき、私も毎日こんなふうに彼女を車いすに乗せて日向ぼっこに出掛けたもんだ」 

老人は黙り込んだ。モニターにはもはや誰も出てこなかった。 

「もう一度奥さんに電話をしてみましょうよ」と彼女。「ひょっとして帰っているかも」 

彼女は老人が言う番号にかけてみると、「申し訳ありません。おかけになった番号は現在使われておりません」という声が聞こえ、彼女の心は凍り付いた。 

老人はゆっくりと立ち上がり、もごもごと「もう暗くなるから、家に帰って彩萍にご飯を作ってあげないと」と言った。彼女は心配だったので、こっそりと警察に連絡した。数分後、警官がお店の入り口に現れた。 

「余さん、どうしてここに?」。警官は聞いた。 

「彩萍を探しにきたんだ」。老人は虚ろな目をして言った。「彩萍は戻っているよ。一緒に家に帰ろう」 

彼女は喜び、「見つかったの? 見つかったなら良かったわ」と言った。 

警官は彼女に目配せをしながら小声で、「彼の奥さんは10年前に亡くなっているよ」と言った。 

涙が一滴、ポトリという音を立てて地面に落ちたのが聞こえたような気がした。彼女は突然何かを思いついたように、店内からいくつかティーバッグを手に取って追い掛けた。「これを持っていって。そして……奥様とお飲みください」 

老人はうれしそうに受け取り、「本当に優しい娘さんだ。彩萍に代わってお礼を言うよ。これからちょくちょく彼女とお茶を飲みに来るから」と言った。 

彼女は微笑してうなずいた。星の光がまるで雨のように、襟に降り注いでいた。 

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