地方都市と中流家庭を狙え ある日本企業のポスト・コロナ戦略

2021-07-16 12:49:41

陳言=文

新型コロナウイルスのワクチン接種の普及と、ワクチンの研究・開発がスピードアップしている。これに伴い、今年中には人類は感染拡大の抑制が可能になり、来年になれば貧富にかかわらず各国が基本的に感染症を抑え込み、世界的にポスト・コロナ時代に入るだろう。

新型コロナの収束には数年の努力を要するだろう。しかし、別の角度から見ると、たとえ新型コロナを抑え込んでも、人類は疾病面で新たな試練に遭遇するかもしれない。

2年あるいはさらに長期間の空白を経て、日本企業の社員が新型コロナ以前と同じように中国との自由な往来を再開した時、彼らは何を発見するだろうか。日本と比較して、中国に対してどのように感じ、どのような行動を取るだろうか。

 

資本が評価 中国のコロナ対応

昨年および今年1~3月の世界の経済状況に関しては、メディアがすでに語り尽くしているので、ここでは繰り返さない。世界の主要国の中で、中国は新型コロナの猛威を抑え込み、経済の安定的な発展を回復した唯一の国だとだけ言っておこう。

中国の経験は非常に簡単だ。まず、行政的に可能な限り感染拡大を抑制し、いかなる感染症の小さな火種も迅速に消し、感染拡大を抑制した後は経済運営の安定を全力で確保する。ここで強調したいのは、感染症に対する科学的な対応であり、科学者のアドバイスをしっかり受け入れ、感染症に対して中国では科学より政治が優先するという対応を許さなかったことだ。

新型コロナに対する対応を見て、世界は改めて中国に注目し始めた。科学に対する尊重、行政の効率重視、是か非かの重大問題への民衆の協力によって、中国には新たな変化が現れ始めた。新型コロナ対応で、中国全体は一地方の方式の後れや、行政の不作為による漏れを許さなかった。

行政コストから見ると、感染拡大を厳格に抑制する方法と、新型コロナとの共存を強調し全国民の免疫を実現する方式とでは、どちらが安く、どちらが高いか。米国政府の失業者救済の費用や、日本政府が国民に支給したさまざまな給付金などの額が、中国の新型コロナ対策経費に比べて少ないはずがない。マクロ経済条件の違いにより、新型コロナが経済に与えた影響は各国まちまちだ。昨年と今年上半期、国際資本が中国に流入する速度、規模は減るどころか逆に増加した。資本の角度から見れば、中国の新型コロナ対策は評価されている。

 

開発中の済南で国際会議

筆者は、今年5月に山東省済南市で開かれた「グローバル企業ハイレベル対話会・中日産業イノベーション発展交流大会」に参加する機会を得た。多数の山東の企業と日本企業数十社が参加し、中日企業提携の可能性について熱心に意見を交換した。

高速鉄道に乗れば北京から済南までわずか1時間半、上海からでも3時間足らず。高速鉄道は山東と北京、上海の二つの経済圏との距離を急速に縮めた。商務部(日本の経産省に相当)投資促進局が同大会を企画した。済南を選んだのは、特に日本企業の役員に済南の企業を視察させ、当地の企業の経営陣との交流をお膳立てするためだ。その大きな理由は、中国経済の発展は北上中であり、山東はその途中で特殊な地理的位置を占めているからだ。

筆者は本欄で中国経済の北上の特徴について繰り返し強調してきた。改革開放後、まず広東省(深圳)が素晴らしい発展のチャンスをつかみ、その後さらなる開放に伴って上海、江蘇、浙江省が続いた。今後、山東を経由して北京、天津、河北省へと北上を続ける見通しだ。

山東は一貫して中国の工業・農業の最も強大な省の一つだったが、ここ数年、発展の速度で広東、江蘇に後れを取っている。この後れは、山東の特殊な地理的位置と文化的な雰囲気と一定の関係がある。開放が広東から上海、江蘇、浙江を経て、さらに北上する時、山東は巨大な発展のチャンスを迎えた。

筆者はこの40年来、開放が始まったばかりの深圳から、その後に開発がスタートした上海・浦東などをそれぞれ現地で取材した。開放当初の規模から言えば、済南は深圳、浦東を上回っていると感じる。済南の南側には泰沂山脈が横たわり、開発空間に限りがあるが、黄河を北に越えて新済南をつくるという構想の当初の規模は想像をはるかに上回る。

特に日本や日本企業との関係を強調するのも山東(済南)の特徴だ。今年8月13~16日には、ここで日本(山東)輸入商品博覧会が開かれる予定で、この地に日本に対する大きな熱意と期待があることを物語っている。

 

多くの企業関係者が参加した「2021グローバル企業(済南)ハイレベル対話会・中日産業イノベーション発展交流大会」(今年5月、山東省済南市)

 

清掃・衛生市場へ

ポスト・コロナの中国消費市場にはどのような変化が現れるか。上海で5月に開かれた中国国際キッチン&バス設備展示会で、筆者はパナソニックの副社長で中国・北東アジア総代表の本間哲朗氏に聞いた。

同氏は、「私達の着眼点は空間価値の提供です。具体的に言えば、パナソニックの清潔技術を搭載した家電と住宅設備を融合し、健康分野と高齢者層により快適な空間を提供することです。これが私たちの戦略の方向です」と語った。

中国で家電製品の使用状況を振り返ると、30年前はどの家庭も数年分の蓄えをはたいてやっと1台のテレビを買うというのが実情で、あの頃のテレビは一番の人気商品だった。しかし、30年余りの経済発展を遂げ、中流家庭が大都市では当たり前になったいま、さらに昨年来の感染症拡大後の清掃・衛生に対する需要により、日本企業は全く新たな中国市場に直面するようになった。

これはもはや、ある家電製品が売れ筋だということではない。テレビやエアコンの需要だけでなく、キッチンからトイレ、バスに対するより幅広く、より消費者個人にふさわしい需要でもあるのだ。高齢化問題に対応した日本の経験と技術は、中国で再び花を咲かせるチャンスがある。

パナソニック住建空間事業部の住宅設備ビジネスユニットの昨年度の販売量は前年度と比べ50%増を実現した。新型コロナ下で住宅空間の清潔需要はさらに高まり、中国におけるパナソニックの食器洗い乾燥機の売り上げは日本を上回った。実際のところ、中国の食洗機の市場はまだ始まったばかりなのだ。

今後、日本企業が済南などの地方都市に進出し、豊かになり始めた家庭に入っていくのは大きな流れというべきで、ポスト・コロナもこの勢いは増すだけで弱まることはないだろう。

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