「クシュン」とくしゃみをする我が子を見て、加熱する新型コロナウィルスの報道に触れ、脳裏にあの日の光景が浮かぶ「あの子は無事だろうか…」。
2018年、残暑が続く東京で開催せれたチャイナフェスティバル。私は日中カラオケコンテストに参加し、孫悟空と言う歌を京劇のマスクを着け、如意棒片手に暴れまわった。結果は残念であったのだが、わざわざこのステージを応援に来てくれた中国の友人がいた。中国の大手日本語学学校に務める鄭さんだ。鄭さんは元々、仕事を通じて知り合った、見た目も心も大きな人だ。そんな大きなお父さんの体に隠れて、恥ずかしそうに私を見ている子がいた。
お父さんに背中を押されて、話してきた男の子は私に「カッコ良かったです」と言ってくれた。緊張から歌詞を間違えた私にとって、意外な反応に少し気恥ずかしい思いもしたが、外国語で堂々と人前で歌う姿がヒーローに見えたとの事だ。何気ない言葉だが、とても嬉しかった私はその場で、孫悟空のマスクをプレゼントした。無邪気な笑顔が印象に残った。
チャイナフェスティバル2018に参加した作者(右一)
思えば如意棒もそうだ。Panda杯で入賞し、訪中した際に購入した品物で、その時にお世話になった人達の顔が次々と思い浮かんだ。「中国の友人達に何か出来ないか…」。感染が拡大する中で、マスクが不足している事を知り、マスクを購入して送る事を決めた。
自分一人の力は小さいので、中国と付き合いのある人達に相談する事にした。反応は「受け入れ先は?」、「予算は?」と腰が重たいし、足並みが揃わない。時間が経過するにつれ、感染が拡大する中、焦りにも似た感情が自分を支配する。そんな時、人民中国雑誌社が「マスクを武漢まで届けます」と言ってくれ、まずは自分だけでも、想いを形にしようと動くことにした。
この時、すでに購入制限があり、マスクの在庫は少なくなっていた。家族の協力もあり、30軒を超える薬局やスーパー、コンビニを駆け回り、大容量のボックスタイプから5枚入りの小分けタイプとかき集めた。何とか1万円で300枚超のマスクを確保し、無事にそれぞれの支援先に郵送した。
後に日本各地から支援が中国に届いた事を知り、感動した。最終的に支援の規模を競うような報道には少し違和感を覚えたが、日本と中国の両国民が手を携えて、難局に向き合った事は今までに感じ得た事のない、一体感を感じている。
一方で、実質的な日本と中国の交流は途絶えてしまった事は残念だ。私自身、日本語学校に勤務しているが、3月に予定していた中国出張は中止が決まり、4月入学予定者の入国後の対応を検討するなど、大きな影響が出てきている。学生のアルバイト先でも、食品で中国産を取り扱う会社は影響が出るなど、多くの人が市井の暮らしの中で、実は中国との繋がりがある事を認識する機会となった。
今回、新型コロナウィルスの報道や影響が大きくなるにつれて、「また中国か…」と、衛生管理の問題を指摘する人もいれば、春節の来日観光客をあてにして大きく落胆する人等、十人十色の反応がある中で、風評被害の拡大(差別や偏見)が懸念されたが、大きな問題にはならなかった。しかし、一部で感染者をばい菌扱いする行為があったり、全く無かった訳ではない。
差別と偏見はウィルスより怖い。うがった見方をするのではなく、他者を労わる思いやりの心が大切だと改めて思い知った。未だ収束の気配をみせないが、日中で共有したこの痛みを胸に、友好関係が更に発展する事を切に願う。あの日の無邪気な笑顔をまた見るためにも。(ホツマインターナショナルスクール岐阜校専任講師 山本胜巳)
人民中国インターネット版 2020年3月2日
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