「パクス・アシアーナ」の道

2020-02-21 12:20:22

筑波大学大学院名誉教授 進藤榮一=文

昨年の1028日から31日にかけて北京で開かれた中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議(四中全会)では、中心議題となった「中国の特色ある社会主義制度の堅持と整備、国家ガバナンスシステムと能力の現代化の推進における若干の重大な問題に関する党中央の決定」が採択された。この四中全会は国家ガバナンスの問題に特化し議論されたことで、国内外の学者から広く注目を集めた。「中国の特色ある社会主義制度の堅持は、今後の中国の発展と切り離せない」が持論の筑波大学大学院の進藤榮一名誉教授に、中国の発展への道を読み解いてもらった。

 

13回全国人民代表大会(全人代)の代表のうち全国55の少数民族の代表は438人。歴代の全人代における少数民族の代表者数と総数の比率は、同年の中国全土の少数民族人口と総人口の比率より常に高くなっている(cnsphoto

 

21世紀の情報革命下、第3のグローバル化の波を巧みにつかんで今、新中国は「アジア力の世紀」をつくった。19世紀の産業革命下、大英帝国は、第1のグローバル化の下で「パクスブリタニカ」(大英帝国最盛期の19世紀半ば頃から20世紀初頭)の世紀をつくり、20世紀の工業革命下、米国は第2のグローバル化の下で「パクスアメリカーナ」(超大国である米国の存在で世界平和が維持されている状態)の世紀をつくった。そして今、「パクスアシアーナ」(アジア力の世紀)の下で中国は、「世界の工場」から「世界の市場」になり、「世界の銀行」にすら変容し始めている。中国が世界の舞台の中心に立つ世紀も遠い未来のことではないだろう。

なぜ新中国は、21世紀世界を主導できるに至ったのか。それは、ひとえに中国が本来抱える巨大なマイナス要因にもかかわらず、マイナスをプラスに転化できる、政治制度上の優位性と経済運営上の先進性と、外交政策上の平和的発展性を、国の運営構造の中に組み込むことに成功し、21世紀の情報革命下、それに微修正を加えながら発展させているからだ。

 

人民代表大会の制度は中国の特色ある社会主義制度における重要な要素であり、中国における政治の根本をなす制度だ。この制度は国家権力の民意反映、中央と地方の国家権力の統一の保証、中国における各民族の平等と団結に利するものとなっている(cnsphoto

  新中国は四つの巨大なマイナス要因を抱えて出発した。

 第1に、世界一の巨大人口を多民族国家にまとめる難しさ。

 第2に、国土面積で日本の26倍、米国と同じ広大な領域を統治する難しさ。

 第3に、宗教も文化も違う少数民族を抱えて国家運営を進める難しさ。

 第4に、アヘン戦争以来、100年近い反帝国主義戦争下で荒廃した民心と国土を回復させ発展させる難しさ。

 これら巨大な困難を克服して世界有数の指導的地位を勝ち取るため、新中国は、統治構造と経済運営と外交経営の面で独特の仕組みをつくり上げ発展させた。

 まず広範な民意をくみ上げる仕組みである「民主集中制」という統治構造の基本だ。各少数民族や各省級行政区の代表を、全国人民代表大会に参画させ、14億の国民の多様な民意を反映させる統治の仕組みを、70年の試行錯誤の歴史の中でつくり上げた。そして巨大な官僚システムに巣くいがちな「レントシーカー(既得権益層)」を徹底的に排除し、エリート選抜における競争システムを巧みに組み入れた。

 次いで「改革開放体制」という経済運営の基本。鄧小平の「南巡講話」以来、国内経済構造改革を進めながら世界貿易機関(WTO)に加盟し、国際経済貿易体制の中で経済産業を発展させる道に切り替え、情報革命の波を巧みにつかんだ。

 最後に「平和的発展」という外交路線の推進が挙げられる。武力による対外膨張主義を決して取らず、周辺諸国や米欧日先進国と平和的協調関係を発展させながら、遅れた旧ソ連圏諸国やアジアアフリカなど途上国の開発に尽力し、ウインウインの相互依存関係の強化推進によって、自国の発展を図っていくというものだ。

 今それら三様の新中国の実践的発展の道が、習主席提唱の21世紀シルクロード構想「一帯一路」に凝集されている。「中国百年の夢」が、「人類運命共同体」形成の夢につなげられる所以だ。

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