節目の年に未来へ向け再構築
東日本国際大学客員教授 西園寺一晃(談)
今年、日中両国は国交正常化50周年という重要な節目を迎えるが、新型コロナが依然収束せず、世界経済は復興途上にあり、米中の対立が激化し、ウクライナ問題など、国際情勢は複雑化、不安定化している。これらは、日本政府の対中姿勢を不安定なものにしている。また、民間の対中感情も依然低迷中だ。今年の両国関係の発展には障害が多く、不確実だと言わざるを得ない。これらの問題に対処するため、日中関係の「再構築」が必要だ。
横行する右翼勢力
日中関係の重要な節目に、両国関係に重大な、悪影響を与える出来事が起きた。2月1日、衆議院で「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議案」(以下決議)が採択され、新疆、チベット、内モンゴル(内蒙古)、香港などにおける人権状況について「懸念」が示された。この決議に関し、中国人のみならず日中関係は極めて重要だと認識する多くの日本人も憤慨している。
決議には中国が「人権侵害を行った」という事実を裏付ける決定的な根拠、証拠は何ら含まれておらず、内モンゴルについて言及する際などは、あえて分離独立主義者の用いる「南モンゴル」という言葉を書いている。中国の正式な地名に「南モンゴル」は無い。実に失礼な行為だ。さらに決議が採択されたのは、中国人(中華圏)の最大の祝日である「春節」(旧暦)の元日であった。またこの時期は、中国が国を挙げて迎えようとしている北京冬季五輪開幕の直前であった。中国の神経を逆なでするような行為である。決議は中国の人権状況に対し、日本政府に「全容解明のための調査」を命じている。つまり、調査もせず、「全容の解明」もしていない、まさに「先に非難ありき」の決議である。
この決議の背後には、横行する反中右翼の姿が見え隠れしている。米中対立の長期化に伴い、反中右翼の活動はますます盛んになっている。習近平主席が2019年6月に安倍晋三首相(当時)の招聘を受け入れ、20年春に訪日を予定していた。日中関係の正常化と発展を阻止しようともくろむ反中右翼が多くのメディアを使い、国家主席の「国賓訪日」反対キャンペーンを張った。
私が熟知する孔子学院を例に取ろう。日本には15の孔子学院があり、中国文化の発信と言語の紹介を通じ、日中両国民の相互理解、友好に尽力している。ドイツ、フランス、米国、英国、韓国などにも同じような文化、教育機関があるが、なぜか日本の反中右翼は孔子学院のみを目の敵にし、「中国のスパイ機関」などと中傷し、中国側のパートナー大学をも中傷した。反中右翼は、習近平主席が孔子学院に関心を寄せていることを知り、「習近平訪日前に、一つか二つの孔子学院を潰せ」と言っていたようだ。悲しいことに、私が10年間学院長を務めた工学院大学孔子学院は、このような状況の中、閉鎖を余儀なくされた最初の学院となってしまった。
日中国交正常化50周年という重要な節目を迎える今年も、反中右翼は、両国の先人たちが血のにじむような努力により築き上げた両国関係の成果を、あの手この手で崩そうとするだろう。最近ではウクライナ問題を利用し、台湾の「危機」をあおっている。ウクライナと台湾は全く性質の異なる問題で、今台湾に危機などない。台湾が米国の全面支持を得て、「独立」を宣言しない限り、台湾海峡で戦火が上がることはない。米中とも戦争は欲していない。
安倍晋三元首相などは、最近「台湾有事は日本の有事であり、日米安保の有事」と発言した。この発言は全く無責任だ。数年前に「安保法制」を制定した際、集団的自衛権を巡ってさまざまな議論が行われたが、台湾問題についての当時の安倍政権の回答は、「台湾で緊急事態が発生しても、日本の存続に関わる問題ではないので、集団的自衛権は行使しない」というものだった。その言質を得て、連立与党の公明党は賛成した。安倍元首相が今言っていることは、首相当時の説明とは全く違っている。今回の決議が事実上、衆議院の全議員によって承認されたという事実を含め、今の日本の政界で暗躍する反中右翼の勢力拡大と、世論の流れに乗り、選挙で1票でも多く欲しい議員の、ポピュリズムの横行は実に嘆かわしい。
二国間協力から国際協力へ
私は1950~60年代における日本人の対中感情の冷え込みと、80年代の好感度上昇の双方を見ている。世論は重要だが、世論の流れが正しいとは限らない。あるきっかけで世論は一瞬にして変わる。60年代の反中、嫌中感情は、ニクソン訪中の衝撃で、一気に変わった。一時的な感情で、日中関係を判断するのは危険だ。メディアの報道も、どれが客観的で、どれが真実なのか、自分で判断しなければならない。両国の交流史や、現実の経済的相互依存関係を冷静に考えれば、日中関係を大事にしなければならないことは当然である。世論調査で日本における対中感情の冷え込みと、対中関係を重要と見なす意識が同居していることが、それを物語っている。要は冷静、客観的に、そして長期的視点で日中関係を考えることだと思う。
今、日中関係は「天命を知る」年を迎えている。今年の日中関係の展望についてひと言で言うならば、それは「再構築」だろう。
過去50年を振り返れば、日本、中国、そして世界に激変が起きた。特に中国の「改革開放」以降の発展は、国際情勢、日中の力関係などに大きな変化をもたらした。複雑に変化する国際情勢の中で、日中関係は{うよ}紆余曲折をたどり、発展してきた。そして多くの経験と教訓を得た。いま双方はその経験と教訓をきちんと総括し、そこから学び、それを今後に生かさねばならない。両国民の相手国への見方、そして国際情勢は今も変化している。日中関係はこうした変化、新たな情勢に対応できる関係に「再構築」する必要がある。
冷戦時代の複雑な国際情勢の中でも、日中間の民間交流は小から大へ、狭から広へ、表から深へと発展した。この民間力が、国交正常化を実現する大きな要素となった。先人たちの知恵と経験は、今日の日中関係においても大いに参考にし、学ぶ価値がある。例えば政治家同士の信頼関係構築や、各分野における交流チャンネルの充実、非公開の場面(水面下)での意見交換の場づくりなどだ。議論は尽くし、当面解決できない争いはとりあえず棚上げし、矛盾の拡大は防ぐべきだ。また両国民の感情対立を刺激するような問題は避けつつ協力の場を求め、文化交流、経済交流を重視して両国の相互理解、相互依存を深めることなどが重要だ。
過去50年における経済協力を例に取ろう。日本の政府開発援助(ODA)は、中国の改革開放初期の発展を助け、高度成長実現の原動力の一つとなった。これは事実である。一方で、中国の発展は日本に輸出入と投資の機会を提供し、巨大な利益をもたらした。これも事実である。国交正常化時における日中間の貿易総額は11億㌦だったが、2020年は日中関係が良くないにもかかわらず、3400億㌦を超えた。日米貿易額の1800億㌦の約2倍となっている。日本にとって、中国は断然貿易相手国の第1位である(中国にとって、日本は第4位)。日本はある意味、中国の発展の恩恵を最も多く受けている国と言えるだろう。これは先人たちが長期的な視点に立ち、中国の経済成長を支援し、その結果、日本が大きな恩恵を受けるという、まさに典型的なウインウインの関係である。
現在の岸田文雄首相は、経済と国民の生活を重視する伝統を持つ、自民党の宏池会の伝統を受け継いでいる。岸田首相にはその伝統を発揚し、経済発展と国民の生活向上のためにも、先人の残した成果を守り、中国との友好関係を大切にしてもらいたいと思う。
未来に向け、日中間には協力関係が展開、拡大できる余地はまだまだ多い。例えば地方の友好都市交流、青少年や留学生交流、少子高齢化などの共通の課題で経験を分かち合い、条件が整えば産業化することで、ウインウインの関係構築が期待できるだろう。新興工業大国である中国と先進国である日本が、紛争抑止、貧困扶助、環境保護、伝染病の予防と治療などの国際的な共通の課題で手を携え、世界の繁栄と平和のために貢献することを願ってやまない。そして地球の美しい未来のために貢献するには、冷戦思考を完全に放棄すべきだと私は考える。(王朝陽=構成)