「私たちはどこから来たのか」DNAで人類の進化・起源探る

2023-09-28 11:09:00

高原=文

中国科学院古脊椎動物・古人類研究所(IVPP, CAS)=写真提供


オート作業ステーションでサンプルを用意する付さん 

6月19日、中国科学院古脊椎動物・古人類研究所研究員の付巧妹さん(40)は、科学、技術、工学、数学のいわゆるSTEM分野で優れた若手科学者を奨励することを目的としたアルフォザン・ユネスコ国際賞を授与された。この賞は、古代ゲノムの解読を通じてユーラシア大陸の古代人の遺伝の歴史を構築する上で重要かつ独創的な研究をし、進化の観点から人類の健康と適応の問題に新たな見解をもたらしたことを表彰するものだ。 

付さんは世界の古代ゲノム学をリードする科学者の一人として、同賞の審査で世界2500人の候補者の中から選ばれ、初めて同賞を受賞した中国人科学者となった。 


情熱を注げる仕事を 

同年代の若手科学者と比べ、付さんのキャリアは少し変わっている。1998年に中学校を卒業後、両親の意向に沿って中等師範学校(小学校と幼稚園の教員を養成する学校)に入り、3年間通って小学校教師として配属されるというとき、彼女は自分に問い掛けた。「私の人生はこうして過ぎていくのか?一生このままなのか?」。彼女の答えはこうだった。「変化のない、先の見える人生」は送りたくない。面白く、意義のあることをやりたいし、大学に行きたい。そこで付さんは家族を説得し、普通の高校に編入した。付さんのクラス担任だった段徳銘さんは当時のことをこう振り返る。中等師範学校と普通の高校はカリキュラムが大きく異なり、高校2年生のクラスに編入ということもあって、付さんは当初、勉強にとても苦労したが、たゆまず努力した結果、わずか2カ月余りで成績がクラスの中レベルまで上がり、2年後には西北大学の文化財保護専攻に受かった。 

「あの頃の私は無知で、それから何ができるのかも分かりませんでした。でも心の中にはとてもシンプルな考えがあって、それは、自分を興奮させられる仕事に就こうということでした。そのためにいくつもチャレンジしました」。彼女は専攻を2度変え、修士課程で文化財保護から古代人類の食生活の研究に転向し、博士課程のときに遺伝学の分野に進み、古代ゲノム研究に没頭した。 

古代ゲノム研究とは、現代の分子生物学の手法を使って古代の人類と動植物の遺存体に存在する古代のDNA分子を抽出・分析し、人類の起源と移動のルートの研究、人類の遺体の性別判定などに用いるものだ。それまで、人類の進化の研究には主に2通りの方法があった。一つは体質人類学的方法、もう一つは現代人のDNAから古代人の進化を逆算するという方法だ。古代ゲノム解読技術は次世代シーケンシングやビッグデータ分析などの技術の急成長に支えられ、従来の手段では解決できない多くの科学的な問題を解決でき、個体のDNA情報を分析できるばかりか、地球全体の人類の進化をも研究することが可能だ。 

目下、付さんとそのチームは世界の古代ゲノム研究の最前線を走っている。古代ゲノムの研究に話が及ぶと、付さんはいつも「興奮」「興味」などの言葉で自分の気持ちを表す。「専門の移り変わりについて言うなら、私は自分の心にうそはつけない性格で、高校生の頃から生物にとても興味を持っていました。それまでの私は必死に頑張るタイプではなく、その後にどんどん努力するようになったのは、そういうことをしているときにとても熱中していたからです。いまやっていることも、自分が心から楽しいと思えることです。そういう環境にいれば、もっとやる気を出してますます研究にのめり込めます」。「私たちは誰で、どこから来たのか」を探ることは、付さんの科学研究のテーマであり、古代ゲノム研究の存在価値でもある。「人類の起源以上に私たちの好奇心を満たして、探索し続けられるテーマはほぼありません」 

 

東アジア人の進化の歴史 

古代ゲノム解読技術は今世紀初めから盛んになった。しかしそのような技術の力添えがあっても、古代人のDNAの解読は容易ではない。付さんによると、保存状態が極めて良さそうな遺骨でも、中の有機質とDNAが残っていないケースもあり、もっと多い場合は、「発見した人骨のサンプルがすでに『汚染』されていることです。長い年月を経た人類の死骸や化石からDNAを採取するのは至難の業です」。 

2013年、付さんのチームは同業者と古代ゲノム捕獲技術を共同開発した現代人のDNAを磁石のようにして、土壌にいる大量の微生物のDNAの中から0・03%しか含まれていない人類のDNAを付着させ、濃縮し、「釣り」上げることで、古代人のDNAが環境に重度に汚染され、利用率が低いという困難を打破し、古代人の遺伝子の大規模研究を可能にした。 

この技術を使い、付さんは北京で出土された約4万年前の田園洞人の化石を研究し、その核DNAを釣り上げることに成功し、田園洞人は核DNAを抽出した最初の早期現生人類となった。そして「田園洞人と古い遺伝成分が混入されていない欧州人の遺伝子データを比較した結果、4万年前の田園洞人がすでにアジア人の遺伝的特性を備え、しかもとある古代欧州人集団と特別な遺伝関係にあることが確定しました」。この重要な研究結果は、2017年に『カレントバイオロジー』に掲載された。中国が発表した初の古代人ゲノムであり、今のところ東アジアで最も古い現生人類ゲノムでもあり、『サイエンス』では、東アジアの地理と時間のスケールにおける巨大な空白を埋めたと評価された。 

付さんは中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の古代ゲノム実験室の主任になってから、チームと共に中国の古代人集団サンプルの古代ゲノム解読実験と研究にずっと尽力し、東アジア人の遺伝と進化の問題を掘り下げて研究している。2021年、付さんは黒龍江省の早期現生人類サンプルの古代ゲノムデータを採取し、東アジア北部の人類の適応性遺伝子探索に新たな証拠を提出した。「3万年余り前の黒龍江省の人類集団は、約4万年前の田園洞人と同じ人類集団です。そして意図せずに、米国先住民の東アジア要素の最も直接的な起源は1万4000年前の黒龍江省人類集団と関連性が最も高いことが分かりました」。アジア人の移動、分化と融合の歴史が明らかになりつつある。 

研究が進むにつれ、付さんは視線を新疆やチベット高原などの辺境へ向け、現地の古代人に関する大規模かつ系統的な古代ゲノム研究を展開し、現地の人々の進化の歴史を明らかにした。昨年4月、『サイエンス』はウェブ上で付さんチームの研究結果を発表した。遺伝学的方法で新疆の5000年に及ぶ古代人の遺伝と進化、相互交流の歴史を復元し、新疆が昔からユーラシア大陸の多文化が混ざり合う土地だったことを証明した。さらに今年3月、チベット高原の人類集団に関する研究が学界を揺るがした。97例の個体サンプルの核DNAを調べた付さんのチームは、チベット高原の人類集団特有の遺伝成分が5100年前にすでに形成されていたことを発見し、約5000年に及ぶチベット高原内部と外界の複雑な人類交流の歴史を明らかにした。 


マイナー学問にのめり込む 

古代ゲノム研究は最先端の研究だが、一般人から見たらニッチな学科だ。「私のことを化石を見ていると考える人もいれば、『そんな研究が何の役に立つの』と聞かれることもあります」。しかし付さんは自分の研究している分野がマイナーだとは思っていない。「国家に求められているかという観点からいうと確かに『人気がない』ですが、学科と個人の観点からいうと、各学科いずれも独自の価値を持っていて、その分野に魂が動かされ情熱をかき立てられ、またその分野を愛する研究者たちがいます。理想を追い求めることで、みんなが一つになるのです」 

付さんは一つの例を挙げた。欧州人といえば、白い肌と青い目というイメージだが、実はその二つの遺伝子の歴史はそれほど古くない。彼女とチームメンバーは2016年の研究で、青い目の欧州人は1万4000年前に現れるようになり、それまでの目の色はブラウンだったことを突き止めた。そして青い目を持っていても、皮膚の色は相変わらず褐色だった。「白い肌が現れたのは、青い目よりさらに遅いです。もちろん、これらが自分の生活にそれほど大きな影響を及ぼすことはないでしょう。しかし初めて真相を知ったとき、驚いたり不思議に思ったりしませんか?こういった精神的快楽も、一つの幸せではないでしょうか」 

付さんにとって、精神的快楽と幸せは研究に従事する上で大きな励みとなる。「利を求めすぎてはいけません」と彼女は語る。物事全てを経済的価値で決めれば、「人類社会は存在し得ない」からだ。 


田園洞人の生活風景の再現図(イラスト・GUO Xiaocong)

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