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木の葉に刻まれた経文と多彩なマンダラ

完成間近の多彩なマンダラ

仏教とは生活そのもの

世界において、瀾滄江―メコン川ほど源から河口、無数の祭壇や寺院、塔およびさまざまな宗教建築が両岸に点在している川はないだろう。宗教はこの地の人々の生活習慣に影響力を持ち、彼らの精神世界を構築している。

仏教はガンジス川流域に起こった古い宗教であるが、瀾滄江―メコン川流域で発展し、豊かになった。全世界のおよそ3億人の仏教徒のうち、90%以上がアジア人であり、大部分は大メコン川流域の各国に集中している。

紀元前3世紀、お釈迦様の没後百年に、仏教はインドから中央アジアを経て中国やベトナムなどに伝わり、北伝仏教(大乗仏教)と呼ばれるようになった。中国のチベット族が暮らす地域に伝わったものは、チベット仏教と呼ばれている。また、瀾滄江―メコン川の大部分の地域に伝わっているのは南伝上座部仏教(小乗仏教)である。

流れが異なり、スタイルもさまざまだが、この地の人々にとって、仏教は単に典籍の中の教義や儀式のみならず、文学・芸術、婚姻・家庭、社会・風俗、行為・ふるまいなどにも体現されている。この地域で、宗教生活と世俗生活を切り離して考えることは難しい。多くの場合、仏教が生活そのものだからである。

経文を学ぶタイの若い僧侶たち

出家式の車列 

ラオスの古い都市であり仏教の中心地であるルアンパバン(ルアンプラバン)は、夜明け前からにぎやかになる。家々はそれぞれ新鮮な食べ物を用意し、道端や家の前で、托鉢にやってくる僧侶を待つ。

空が白むころ、僧侶たちはお寺を出発し、托鉢を始める。どの家でも僧侶の鉢の中にご飯、野菜あるいは小銭が入れられる。僧侶たちに食べてもらうのは、その日自分たちが食べるものと同じものである。こうして、僧侶たちは来る日も来る日も信者たちのわずかな布施に頼って暮らしている。

千年以上にわたって続いているこの習慣は、戦争や騒乱の最中でも中断されることはなかった。

もうひとつの変わらぬ習慣が、出家である。たとえ短い期間であっても、誰もがかならず出家する。上座部の仏教国では、男性の仏教徒が剃髪して出家するのは当然のこととされている。出家をしていなければ、それは成人していないのと同じことで、生活、仕事そして結婚も制限される。出家は個人的なことのみならず、家族全員の幸福を祈って災いを取り除く功徳の業であり、親に対する恩返しでもある。

いつ、どのくらいの期間の出家をするかについては個人の希望次第で、短いもので3~5日程度、長きは終生に及ぶ。数回にわたって出家を繰り返す人もいる。休暇中だけ寺に入って心を清め、休暇があけたら還俗して出勤するという人もいる。つまり、寺と俗世の間には隔てるものは何もなく、スムーズに行き来ができるのである。

ミャンマーでは、子供たちは出家する当日の朝、古代の王子の姿に扮する。仏教の開祖であるお釈迦様が、シッダールタ王子としての豊かな生活を放棄して解脱の道を求め、出家したことにちなんでいる。

この出家の儀式はいつでも盛大に行われ、非常ににぎわう。ミャンマーの男性にとって、生涯でもっとも重要な儀式だからだ。出家は子どもから大人になることを意味するため、この出家式は「成人式」とも呼ばれる。

美しく着飾った成人式の列は、踊ったり、太鼓を叩いたりしながら街をひとめぐりしたあと、インド菩提樹の茂る寺に入ってゆく。

世俗の悩みを取り除くという意味で、子供たちは寺で剃髪する。それが終わると袈裟に着替え、沙弥(南伝仏教における修行の最初の段階の僧)となる。

沙弥たちは、寺に入るとまず戒律を学ぶ。それから仏教教義、人生哲学、さらに数学、国語、手工芸、絵画などを学んでゆく。

 

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