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オペラ『遣唐使』をめぐって

 ──中国の友を思う──

 倉持 長子=文

倉持 長子(くらもち ながこ) 聖心女子大学文学部日本語日本文学専攻卒業。東京大学大学院総合文化研究科修了(上代文学研究)。現在、聖心女子大学大学院博士課程にて『源氏物語』を題材とした能を研究。趣味は観世流謡・舞囃子、麻婆豆腐作り。

漆黒の闇の中、悲しみを湛えた女の面が白い月のように浮かび上がる。ときは遥か昔の奈良時代、ところは薬師寺の門前。年老いたその女は、遣唐使となった一人息子の航海の無事を祈る『万葉集』の長歌に合わせて静かに舞を舞い出した。オペラ『遣唐使~阿倍仲麻呂~』の幕開けである。

この公演は2011年2月11日から2日間、東京藝術大学奏楽堂で、日中友好協会会長だった日本画家・平山郁夫氏の一周忌に合わせて行われた。『古今和歌集』や百人一首で有名な阿倍仲麻呂の歌「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」を核として、遣唐使の母の悲嘆、唐土における若き遣唐使たちの帰国への渇望、望郷の念と唐への恩義とのはざまに揺れる仲麻呂の葛藤・恋・友情・挫折・救済を描いた、一大スペクタクルだ。序幕と終幕に行われる薬師寺の僧侶たちによる般若心経の大合唱は、全ての遣唐使とその家族、そして平山氏のように日中の友好に尽力した人々への、弔いの祈りに繋がっていった。

心魅かれる台詞がある。仲麻呂が天皇と玄宗皇帝という二君に仕えた不忠者、と人々に罵られる。そのとき、親友の李白はこう言って窮地を救った。

 日の本・大和は、

  仲麻呂育みし母の国

 もろこしの国・唐は、

  仲麻呂鍛えし父の国……

 父母の恩に軽重なし!

私には張さんという中国人の親友がいる。彼女は2005年春、『万葉集』を研究するため、北京日本学研究センターから来日した。私は彼女のチューターをさせてもらった。夏季休暇には一緒に東大寺や平城宮跡を歩き、夜は二人で日本古典文学における中国文化の影響の大きさについて語り合った。厳しい指導教官にこってり絞られては二人で泣き、悩みを相談し合った。半年の留学生活を終えた彼女は、専門性を高め、逞しくなって中国へ帰っていった。

昨秋、再び来日した張さんは、有名政治家や大企業家、文化人へのインタビューに飛び回る中国網(チャイナ・ネット)の記者になっていた。一緒に文学散歩を楽しみ、宮崎駿アニメをテーマにした講義を受け、久しぶりに刺激的な日々を送った。彼女の巨視的かつ鋭い物の見方に、目を見張らされるばかりだった。文学研究に明け暮れる私の小さな世界をぐんと広げてくれた。

張さんは今日も、中日文化交流の先端を走っている。私たちはこれからも、互いに学び合っていくだろう。かつて仲麻呂が仰ぎ見た月は、今宵、東京と北京を明るく照らしている。

 

人民中国インターネット版 2011年6月

 

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