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七夕に唯一の愛情映画『愛到底』

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

国外の大作でごった返す映画館

8月6日は旧暦の七夕で、現在の中国では「中国情人節」「夏のバレンタインデー」としてカップルのための日になっています。冬のバレンタインデーの様子は過去のコラムでお伝えしましたので、夏はどんなものか、同じ映画館に行ってカップルに人気のありそうな映画を見ることにしました。

西単の街は風船や花を持ったカップルでいっぱい

首都電影院の入る西単大悦城ショッピングセンター

ところが、現在中国の映画館は外国からの大作に占拠されている状態です。『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』に続いて『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』が公開されたこの週末は、2大作を見ようという若者で映画館は大混雑。ビルのオープンと同時に到着したにもかかわらず40分もチケットを買う列に並ばされ、映画の冒頭5分を見逃すことになってしまいました。しかも、見渡せば列に並んでいるのは全員が若者でほとんどがカップル、思わず「悪かったね最年長で、しかも1人で」とつぶやいていました。

そうしてようやく見たのが『愛到底』です。冬のバレンタインデーに見た『将愛情進行到底』とよく似たタイトルですが、こちらは台湾地区の映画で、オムニバス形式の愛情物語です。ネット小説家の九把刀、ジェイ・チョウ(周杰倫)の作詞で知られる方文山、ミュージックビデオ監督の陳奕先、司会で知られる黄子佼という4人の異才が監督し、アイドルドラマでおなじみの若手スターが共演する作品です。大作のあおりで他の作品の上映が極端に少なく、ラブ・ストーリーを見たいカップルには唯一の選択となったためか、ダークホース的ヒットとなっています。

テレビ、映画を席巻する台湾アイドル

このところ台湾地区の作品が大陸で公開されることが増えています。この夏も『愛到底』のほかにラン・ジェンロン(藍正龍)主演の『鶏排英雄』が公開されました。また、台湾地区のアイドルを起用した大陸の作品も数多く作られています。台湾地区のアイドルを起用したテレビドラマの放映が増えているため、ドラマでおなじみのアイドルを起用すれば観客動員が見込めるという計算があるようです。

愛到底のポスター カップルを当て込んで街頭で花を売る人たちも

そうした、ドラマでおなじみのアイドル俳優が多数出演するのがこの作品です。内容と出演俳優を紹介すると、まず第1話は、ヴァン・ファン(范逸臣)演じる若者が同じ声を持つ男から不思議な頼まれ事をする物語で、相手役はメーガン・ライ(頼雅妍)です。次は、ラン・ジェンロン(藍正龍)の主演で、ミュージックビデオの監督が別れた恋人(アニー・リウ/劉心悠)と偶然に再会しますが、彼女はなぜか理不尽な対応をします…。3番目の物語は、カースタントマンのイーサン・ルアン(阮經天)が同棲する彼女(アリス・ツァン/曾愷玹)とささいなことから大喧嘩をしてしまうストーリーです。と、いずれも人気俳優が勢ぞろいしたまじめな愛の物語で、それぞれに面白かったのですが、強烈なインパクトは感じませんでした。こうしたオムニバスというと、「台湾ニューシネマ」を思い出すわけですが、そのころとは映画を取り巻く環境が大きく変わったことを感じます。

そして、最後の黄子佼監督の部分だけがコメディーです。アイドルドラマではお嬢様役の多いチョウ・ツァイシー(周采詩)が、コメディーに挑戦してなかなか熱演していましたが、こてこての台湾風ギャグは北京では爆笑を誘うというほどではありませんでした。それでも退場の際、私の傍らを通り過ぎたカップルの男性が彼女に「うん、悪くなかったよ」と話していましたので、みなさんそれなりに楽しんだようです。この6月から、大陸から台湾地区への個人旅行が解禁され、台湾旅行がブームになっています。若いカップルのあこがれをかきたてる美しい景色が多く登場してくるのも、好感を持たれた理由の1つかもしれません。

【データ】

愛到底

監督 九把刀、方文山、陳奕先、黄子佼

キャスト ヴァン・ファン(范逸臣)、ラン・ジェンロン(藍正龍)、アニー・リウ(劉心悠)、イーサン・ルアン(阮經天)

時間・ジャンル 93分/愛情、オムニバス

公開日 2011年8月5日

 

首都電影院

所在地:北京市西城区西単北大街大悦ショッピングセンター10階

電話:010-66086662

アクセス:地下鉄1号線西単駅から徒歩3分

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年8月

 

 

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