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吉祥と祝いの油紙傘 消滅の危機から甦る

 

魯忠民=文・写真

◆詩人が愛した傘

油紙傘をさし、一人ぼっちで

長い、長い、静まり返った

雨のそぼ降る路地をさまよう

憂いと恨みを抱えた

ライラックのような女性と

出逢えないかなと想いながら……

中国の現代詩人、戴望舒(1905~1950年)の詩集『雨巷』は、古い鎮(地方の小都市)や雨の降る巷(路地)、油紙傘(唐傘)、美しい女が織りなすロマンチックな情景を描いている。それは今でも、若い人たちが夢に見る美しい情景だ。

四川省成都市で行われた中国の第3回無形文化遺産祭には、全国各地から出展された伝統工芸が展示され、人々の目を楽しませた。その中で「瀘州の油紙傘」はとりわけ注目を浴びた。これを製造した工場からやってきた畢六福さんと息子は大忙しで、観客にさまざまな柄と色の油紙傘を紹介していた。瀘州の油紙傘の生産は、400年以上の歴史があり、その制作工芸は2008年に「国家クラスの無形文化遺産リスト」に登録された。

傘づくりの職人は事前に熱加工した桐油を、 傘に張った紙の両面に塗りつける。 こうして処理すると、雨を防ぎ、強度も増す

◆魯班の妻の発明?

40~50年前なら、北京の胡同(横町)ではどの家にも油紙傘があり、雨の日の外出には必携品だった。傘修理の職人がしょっちゅう、天秤棒を担いだり、自転車に乗ったりして胡同にやって来た。すると子どもたちはいつも職人の周りにしゃがみこんで、傘の修理をじっと見つめるのだった。

傘の骨がバラバラになっていると、職人は色糸でそれを縫い直す。表面の油紙が破れていたら、薄い紙の切れ端を破れたところに貼り付け、桐油を塗る。すると、傷が見事に修復され、傷があったようには見えない。今では、油紙傘は、小さくて便利な折り畳み傘に取って代わられ、次第に芸術品や記念品としてマニアが収集するか、贈り物として使われ、人々の生活から縁遠いものになってしまった。

中国は最初に傘を発明した国で、少なくとも3500年以上の歴史がある。民間伝説によると、傘は春秋戦国時代の魯国の人で大工の祖と言われる魯班の妻の雲氏が発明したものだという。辺鄙な田舎で働いていた魯班に毎日、食事を届けていた雲氏は、雨に降られるとずぶ濡れになってしまう。そこで、魯班は亭を設計して建てた。これで雨の時には、雲氏はしばらく雨宿りすることができる。しかし亭も良いが持ち運びはできない。雲氏は突然ひらめいた。「竹を細長く割って、それに獣の皮をかぶせると、閉めれば棍棒のようになり、開けば天蓋のようになる」と。こうして亭のような形をした傘が発明されたというのである。

古代、傘は宮廷の儀式に使われ、「羅傘(薄絹の傘)」と呼ばれた。職階や等級に応じて、大きさや色の違う羅傘が使われた。古い記録には、黄帝が外出する時に使われる「華蓋」がもっとも華麗な傘だとある。陝西省にある秦の始皇帝陵から出土した銅車馬からは、当時の「華蓋」の美しさを見てとることができる。初期の傘の多くは羽毛や獣皮、絹が材料として使われていた。紙が発明されてからは、次第に取って代わられた。傘に張られる紙は桐油によって処理され、油紙傘と呼ばれる。

◆油紙傘を贈る慣わし

油紙傘は日差しや雨をよける効用があるが、吉祥や祝い事のシンボルでもある。現在も一部の地方では、老人の誕生日や結婚、出産、転居、昇進などの際に油紙傘を贈る習わしが受け継がれている。

油紙は中国語の「有子」と発音が近く、傘の骨は多くの「人の字」の形をしているので、「子孫繁栄」を象徴している。傘の骨は竹でつくられているが、これは「節節高昇(どんどんのびる)」を意味し、長寿を象徴している。傘の柄はまっすぐで、中は空なので「無私無邪(私心や邪心がない)」を意味している。

成都で開かれた「無形文化遺産祭」の「分水六福油紙傘」の展示ブースで説明する油紙傘の伝承者である畢六福さん

また傘は円い形をしているが、これは円満や再会を意味している。赤い色と桐油には災いを消し、魔をよけ、鬼を追い出す力があり、赤い油紙傘を家に置いておくと、平安と吉祥を保つことができると言われている。台湾や東南アジアなどに住む客家の人々の習俗では、油紙傘を嫁入り道具としている。花嫁が嫁入りの駕籠から降りると、介添え役の女性が花嫁に赤い油紙傘をさしかけて魔よけをする。

客家の人々は死者を埋葬するとき、はじめは墓碑や墓地をつくらない。3年か5年後に、はじめて盛大な2回目の葬儀を行う。香を焚いて弔いをしてから、墓を掘って棺を開き、油紙傘をかぶせて、その下で遺骨を拾う。骨をきれいに拭き清めてから新しい墓に埋葬するのだ。

観客に傘づくりの技を披露する畢六福さんと息子

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