People's China
現在位置: 連載最新映画を北京で見る

地方文化と映画『愛在廊橋』

 

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

 

文化遺産を舞台に展開される大人の物語

この3月は、大作映画の公開が少ないぶん大量の作品が公開されました。あまりに多すぎて観客も何を見ていいか分からなくなったのか、興行成績は全体に平凡なものでした。唯一『桃姐』がヒットしましたが、それでも1億元には及びませんでした。ということは、当然「一日遊」と呼ばれるあっという間に上映が終わってしまう作品が多数あったということです。そんな中に、大人の映画ファンを納得させる、キラリと光る作品を発見しました。それが『愛在廊橋』です。

1960年代、福建省の北東部に位置する農村(寧徳市寿寧県)の人々の楽しみは北路戯でした。しかし、ある日団員を乗せたバスが事故を起こします。花形女優の伊妹は阿旺に救われますが、彼女は自分だけを救い、彼女との結婚を間近に控えた福坤を救わなかった阿旺をなじるのでした。その後20年を経てもわだかまりの残る2人でしたが、そんな時、福坤の弟弟子・長天が村に戻ってきます……。

2000年以上の歴史を持つという屋根付きの橋「廊橋」を背景に、地方劇「北路戯」の300年の伝統を守る中年男女の、複雑な感情が交錯する物語です。橋を舞台にした中高年の愛情物語というと、メリル・ストリープ主演の『マディソン郡の橋』を思い出すわけですが、こちらは5人の男女の半生に及ぶ愛憎が伝統劇の演目『香胡蝶』と重ねられて展開します。

物語のハイライトは結婚式の祝いに長天が披露する「吊九楼」という、テーブルを9層に積み上げ、その頂上の1㍍四方の空間で踊るという出し物。見るからに危険なパフォーマンスですが、そこで見事な舞を見せるウー・シングォは伝統劇や映画で活躍する台湾の実力派俳優です。また、伊妹のシュー・ショウリーも金鶏賞主演女優賞受賞俳優ですが、なんと10数年ぶりの銀幕復帰だそうです。そのほかの主要キャストもみな1950年代生まれで、大人の心に秘めた気持ちを豊かな演技力で観客に伝えてきます。日本の中高年にも支持される作品だと感じました。

3月も下旬になり、柳の並木もうっすらと緑を帯びてきた北京だ 星美国際影城は、巨大ショッピングモール内に設置されている

地方と映画の新たな関係が始まった

監督はこの作品で昨年第28回中国電影金鶏賞最優秀監督賞を受賞した陳力。作品自体も同賞の最優秀作品賞にノミネートされました。出品者には、福建電影製片廠、八一電影製片廠とともに寿寧県政府がクレジットされています。商業的大ヒットをねらうのではなく、地方文化を映画の形で知ってもらおうとうい取り組みのようです。いい意味で「地方宣伝映画の成功作」と言えるのではないでしょうか。一昨年は広西チワン族自治区を舞台にした『尋找劉三姐』(ラブソングの行方)という作品もありました。昨年は新疆ウイグル自治区を舞台にした『烏魯木斉的天空』が公開されました。「十二五」期間に文化振興に力を入れている地方政府は多く、今後はさらに多くの作品が作られるかもしれません。

地方と映画といえば、中国では現在、農村での映画上映プロジェクトが進められており、上映設備の整備も進んでいます。そうした中での、農村の人々が好む映画というソフト面での需要の高まりも、こうした地方映画制作を後押ししているのかもしれません。そして、この動きは中国在住の日本人にとっても、豊かな中国地方文化を映画で楽しめるという恩恵をもたらしてくれています。

ショッピングモールからシネコンに向かう通路には、名作やスターも描かれていて、映画ファンの気持ちを盛り上げる

さて、北京で「燕沙」と聞けば日本人には首都空港にも近いショッピングセンターを思い出すでしょうが、実は市の北西部にも「金源新燕沙」があり、こちらの方がはるかに大きなショッピクングモールです。この東端にあるのが星美国際影城で、7つのホール、1588の座席を持つ大型シネコンです。映画館として全国で初めてISO9001を取得したことからも分かるようにサービスに力を入れており、近隣に巨大な団地を控えていることもあって、観客の多くが家族連れです。朝9時からこの日唯一の上映を見に来ていたのは、私以外には数組の中高年カップルだけでした。でも、中高年の鑑賞眼に十分に応える作品だったと思います。

【データ】

愛在廊橋 Love On Gallery Bridge

監督 陳力

キャスト シュー・ショウリー(徐守莉)、ウー・シングォ(呉興国)、スン・ウェイミン(孫維民)

時間・ジャンル 90分/愛情・ドラマ

公開日 2012年2月23日

北京星美国際影城

吹き抜けの5階部分がシネコンになっており、広々として開放的な雰囲気

ホールも広く、売店やコーヒーショップも併設されており、いつも多くの家族連れでにぎわっている

所在地 北京市海淀区遠大路1号 金源時代ショッピングセンター5階

電話 010-88878696

アクセス 地下鉄4号線人民大学駅から79路バスで遠大路東口下車2分

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年3月26日

 

 

同コラムの最新記事
地方文化と映画『愛在廊橋』
新しい合作の形『烏龍戯鳳2012』
発表会&インタビュー『情謎』
バレンタインに人気の『愛』
ドタバタだけじゃない『飯局也瘋狂』