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大河ドラマついに公開『白鹿原』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

ポスター

金熊賞監督が大河小説を映画化

出張や連休でしばらく間が空きました、すみません。今年は中秋節と国慶節が連続し8連休となりましたが、折からの好天にも恵まれ、観光地はどこも大混雑だったようです。家族や恋人同士で映画を見に行こうという人も多く、国産の話題作が多数公開された映画館もにぎわっていました。

そんな中、市中心部の混雑を避け、北三環にあるUME国際影城安貞店に出かけて見たのが『トゥヤーの結婚』(2006年/ベルリン国際映画祭金熊賞)のワン・チュアンアン監督が陳忠実の同名小説を映画化した『白鹿原』です。これまでにも何度か映画化に向けた動きがあったようですが、制作にはいたらず、同監督が苦労の末にようやく完成させました。本当に相当な苦労があったようで、上映直前にも急きょハードディスク(中国でもフィルム上映は少なくなりました)を差し替える事態が起こるなど、最後まで波乱がありました。さらに、上映開始後も「興行成績はいまひとつ」などあまり好意的でないニュースも目にしました。でも、私が見たのは上映開始2週間以上過ぎた午前中の回でしたが、観客の入りは悪くありませんでした。どうやら口コミでじわじわと客足を伸ばしているようです。

物語は、中国西北部の白鹿原村を舞台に3世代にわたる人々を描いた大河小説のうち、1911年から38年までの時期をクローズアップしています。まず、鹿子霖(ウー・ガン)が辮髪を切り村に革命を知らせるところから始まり、彼と族長の白嘉軒(チャン・フォンイー)、素朴で義を重んじる農民・鹿三(リウ・ウェイ)という3人の世代と、その息子たちの世代間の出来事が展開されていきます。家族、伝統、因習などという価値観で成り立っていた村社会が、新たな時代の中で革命、国民党、共産党、軍閥、そして日本軍などといった大波を受けるのです。一方、そうした時代の変化とともに、田小娥(キティ・チャン)という女性個人によっても伝統の価値観が試されていく様子が並行して描かれます。

新中国成立63周年の国慶節を祝う花の飾りつけが市内各所で見られた

私が見た中国国内での上映版は156分で、ベルリン国際映画祭に出品された188分版(ほかに220分のディレクターズ・カットもあるとか)からかなりカットされたようですが不自然な点は少なく、よくまとまっていたと思います。私は、連休中に鑑賞した5本のうちではこの作品が最も強く印象に残りました。ただし、これは原作を読んでいない、中国文学に関する教養のない私の見方で、原作を読んだことがある中国人の同僚には納得のいかないところもあったようです。

観客の反応に教えられるあれこれ

ところで、私がこのコラムで中国の映画館で鑑賞することをお勧めするのは、中国の観客は比較的ダイレクトに感情を声に出すこともあり、映画館で見ると現地の人たちの感じ方がわかるからです。この日も、冒頭で主演俳優の名前が1人ずつ表示されるといちいち音読する人がいました。それも感情がこもっていて気持ちまでよく伝わります。「……張豊毅(大スターだよね)、張雨綺(知ってるよ、きれいな女優さんだよね)、呉剛(おお、彼も出ているのか)、成泰燊(……)」という具合です。ちなみに、彼の名誉のために付け加えておきますと、チェン・タイシェン(成泰燊)は文芸映画を中心に活躍する俳優で、中国では玄人好み的存在です。主演作の『世界』、『我らが愛にゆれる時』が日本で公開されていますから、むしろ日本の中国映画ファンの方がよくご存じかもしれません。

北三環に面した環球貿易中心(グローバル・トレード・センター)。巨大なセンターのE座にシネコンはある

シネコン入り口

また、物語の村を含む陝西省の関中地方は小麦の産地で、独特の麺食文化を持っています。作品中にも麺を食べるシーンが何度も出てきましたが、中でも生のニンニクをかじりながら汁の少ない麺をかき込む場面では、観客席が大いに盛り上がりました。私から見ると北京の人もかなり麺食だと思うのですが、彼らにもこの食べ方は珍しかったようです。陝西省出身の同僚に聞いてみたところ、関中地方では今でもこうした食べ方をするということです。

【データ】

白鹿原 White Deer Plain

監督:ワン・チュアンアン(王全安)

キャスト:チャン・フォンイー(張豊毅)、キティ・チャン(張雨綺)、ドゥアン・イーホン(段奕宏)、ウー・ガン(呉剛)、リウ・ウェイ(劉威)、チェン・タイシェン(成泰燊)、グォ・タオ(郭濤)

時間・ジャンル: 156分/ドラマ・歴史

公開日:2012年9月15日

3階ホール前のロビーはゆったりとしていてくつろげ、売店のメニューも充実している 

1階にチケット売り場と喫茶コーナー、映画館系の書籍が充実した書店が併設されており、ホールは地下と3階にある

UME国際影城(安貞店)

 所在地:北京市東城区北三環東路36号環球貿易中心E座

電話:010-58257733

アクセス: 地下鉄5号線和平西橋駅A出口から東へ徒歩10分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年10月9日

 

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